自分でヘルパーを雇い、育てる、パーソナルアシスタント制度って? デンマーク留学記⑪

この連載は「ワカラナイケドビョウキ」という不思議な病気になり障害をもった私が、ノーマライゼーション発祥の国デンマークに留学する1年間の放浪記です。デンマークでゴロンゴロンでんぐり返しをしながら「障害ってなんだろう」と考えます。
 


 

「寝たきりになります」とお医者さんに言われたときに、ふと想像したのは家の天井でした。白い部屋に置かれた介護用べッドで、ひとり天井を見上げる美女のわたし。わたしはずっと真っ白な天井を見ながら生活するのか。
 

うーーーーーん。いやだな。
 

いやだな、なんて言ってもしょうがないから受け止めるしかないか。
でも、やっぱり……いやだな。
 

その「いやだな」があったから、デンマークに来ました。「寝たきり」という言葉の意味を拡大するために。
 

先日、デンマークで自立生活を送る重度障害者の方にお話を伺いました。向かったのは、デンマーク第二の都市オーフスにあるミケルさんのおうち。
 


 

ご自宅に着いてびっくり。広々とした一軒家。お金を貯め、自分で購入したそうです。障害者の98%が年収200万円以下の国、日本では考えられないこの生活。デンマークの障害者年金の充分さと就労意識の高さがうかがえます。
 

ミケルさんはパーソナルアシスタント制度という介護制度を使い自立生活を送っています。このパーソナルアシスタント制度はミケルさんの住むオーフス発祥の介護制度。今では北欧諸国で浸透しています。
 

お茶を出してくれるヘルパーさん。

 

この制度では、障害者が”雇用主”となってヘルパーを雇用します。日本のように自治体から派遣される、時間制のホームヘルパーは利用しません。自分でヘルパー(無資格でも可)を面接・採用・教育し、自分の生活スタイルに合わせてシフトを決めます。その制度を使い採用したヘルパーさんが、毎日彼を介助します。
 

仕事内容も彼にあったもの。ご飯づくりやお風呂介助などの日常的な介助から、仕事の補助、趣味のガーデニングの手伝いまで様々。
 


 

深夜の活動があれば深夜の賃金を加算したり、その分、日中の賃金を下げたり。給与の設定も自由です。
 

ヘルパーの賃金は自治体負担。ひと月の利用金額には上限がありますが、日本のような障害者手帳が一般的ではないデンマーク。障害という区別や定義はせず、残存能力と当事者のニーズによって保障の内容を決めていきます。制度の利用に慣れるまでは、自治体の組織もマネジメントをサポートしてくれます。

 

障害者をサポートするコンサルティング組織。

 

障害者をサポートするコンサルティング組織では、定期的にセミナーを開催したり、契約書の作成からヘルパーさんとの不和まで相談に乗ってくれます。「自分の生活スタイルに合わせてヘルパーを採用できるということは大きい」とミケルさんは語っていました。
 

印象的だったのは、事故後、彼がその制度のおかげで大学に通えたということ。車を運転できないミケルさんは、大学まで運転でき、授業をサポートできるアシスタントを採用しました。大学に通ったことがその後の就職や豊かな生活に繋がりました。
 

国が障害者のケアを渋らないということは、進学支援やその後の就労支援に繋がり経済効果もあると感じます。
 


 

家族介護が基本の日本では、進学に際して役所に相談しても公的援助はありません。同居する家族がいる場合、家族で介助するようにとの指示がきます。家族が学校まで送り迎えをし、授業中も学校の近くで待機。そのため、家族は仕事を辞めるなどの決断を迫られたり、体調を崩したりします。
 

デンマークでも家族介護はあります。ただ、そういった場合も、パーソナルアシスタント制度を利用し家族を雇用すれば、自治体から家族に給与が支払われます。介護で家族まで経済的に困窮することはありません。
 

パーソナルアシスタント制度はデンマークの介護制度のほんのひとつです。人事管理ができる重度肢体不自由の障害者しか適用されないなどの課題もあり、利用者数も多くはありません。その点、スウェーデンなどの他の北欧諸国のほうが、精神・知的障害者にも制度が適用され利用者拡大が進んでいます。
 

デンマークでこういった福祉制度が整うのは「人生」や「社会」への考え方が違うから。国民の根底にある考え方は「民主主義」「自己決定」「連帯意識」の3つです。
 

パーソナルアシスタント制度は、1970年代、障害者たちの国への呼びかけと啓蒙運動から始まりました。自分の人生を自分で設計する。その結果、リスクを負っても自己責任。パーソナルアシスタント制度で、もし自分のヘルパーがミスをして自分の安全が脅かされても、それはヘルパーの過失でもあると同時に、採用した自分の責任と指導力不足でもあります。
 

「民主主義」「自己決定」「連帯意識」の3つの考えがパーソナルアシスタント制度からも見て取れます。
 

障害は、家族ではなく、社会が救い出す。それが、デンマーク流介護の考え方です。
 


 

帰り道、なんでホワイトキューブのような寝たきりの世界が嫌だったんだろうと考えました。たぶん、それは自分だけでなく、家族の自由が奪われるような気がしたから。
 

母と姉が私の介護をする未来。家族まで、目に見えない”家”に閉じ込められる未来。
 

現に、姉は「なみこの介護はしないよ」と笑いながら、「パートナーができてもなみこのことをカミングアウトできるかな…」とつぶやき、地元を離れない生き方を模索しています。
 

介護の負担が家族、とりわけ女性にのしかかることが多いという日本。私たちの頭の中にも、そんな未来像が呪縛のようにありました。パーソナルアシスタント制度は、そんな日本の社会で強制された介護の在り方に疑問を投げかけます。
 

障害があったり、家族に障害者がいても、仕事ができたり、外出して友人と会ったり、身内の介護の負担を考えずに自由に結婚ができること。姉にも私にも自由に生きる未来がある。ミケルさんからの家の帰り道、私の目の前にはそんな景色が見えました。
 

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この留学は、ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業第36期研修生として行きます。ミスタードーナツに行くとレジの横に置いてある募金箱。全国の皆様の応援で行かせて頂きます。

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この記事を書いた人

Namiko Takahashi