当事者の目線からアトピー対策共有サイト「untickle」を立ち上げ、もう4年。そのうち、きちんと活動できたのは半分くらいで、残りの半分はアトピーのせいで動けず、寝たきり状態。自分が思い描いていたほどのサービスまで、まだ届いていないなと思うこともあります。
アトピーで寝たきりというと「えっ?」と思われるかもしれません。「かゆみ」や「痛み」というのはイメージしやすいものですが、私のようにアトピーが重症化してくると、寝たきり状態になることもあります。
軽度のうちはかゆみやガサガサとした乾燥敏感肌をこじらせた程度の症状が特徴なのですが、中度になると痛みや真っ赤になるといった症状が加わり、さらに重たくなると、じゅくじゅくした肌に精神疾患といった症状も加わってきます。
全身の深刻な掻き壊し(かきこわし)によって皮膚が動き、引っ張られ、強い痛みを伴います。仕事をしようにも痒みと痛みに参ってしまい、頭も働かない。痒みと痛みのループで次第に脳がボーッとしてきて、正常な思考が難しくなります。こうして寝たきり生活に至ります。
寝ていてもアトピーが治るわけなんてなく、アトピーのことや現実のことを考え出すとノイローゼになってしまうため、寝たきり状態になると、ラジオなどを聞いて1日を過ごすことが多くなります。とはいっても、やはりいろいろなことが頭をよぎります。
ちゃんとまた社会生活を送れるのだろうか、この生き地獄からいつ完全に解放されるのだろうか、なぜ私だけがこんなに苦しいのか、こんなにアトピーに翻弄されまくる人生を生き続ける意味があるのか。考え出すとネタは尽きません。
私が「untickle」を立ち上げた背景のひとつは、社会に存在する膨大な情報の中から、自分に良さそうなものを対策として取り入れ、結果に繋がらずまた対策を探してという状態が、アトピー当事者の日常となっていることにあります。最近ではインターネットを中心に、かゆみや痛み、外見へのストレスなどを抱えながら、手探り感覚であれこれ対策を試し続けます。しかし、その効果はまちまちです。
「untickle」が情報を共有するサイトであることから、たくさんのアトピー当事者と私たちはつながることができ、また、このコミュニティに期待してくださる方々も増えてきました。結果として、最近では製薬会社さまやIT関連企業さまから、アトピー対策や原因解析などの話をいただけるようになってきています。
例えば、そのひとつが「スマホのカメラを使って、アトピー肌の状態を解析・数値化する実験」です。20名のアトピー当事者を対象に、スマホのカメラで肌を撮影し、その画像データとともに、撮影日や部位、自己評価といった情報を合わせ、1000枚以上のサンプルを元に解析したところ、腕に限定されますが、75%の精度でアトピー肌の状態を予測、数値化できるアルゴリズムをつくることに成功しました。
情報共有サイトがもつ、情報とコミュニティという強みに、新しいテクノロジーやヘルスケア領域の企業の支援が加わると、これまでなかなか解決できなかったアトピーの悩みを解明することができるようになる。そんな前向きな気持ちが芽生えました。
日本では1980年代頃から顕在化されたアトピー。かつては、子どもの病気で、大人になるにつれて自然に治る皮膚疾患であるといった認識でした。しかし、時代が経つにつれ、大人になっても治らない、大人になって発病する方も増えるといった状況へと変わりました。今ではアトピーは単なる皮膚疾患ではなく、自己免疫疾患であるという意見が強くなっています。
アトピーは体質化、悪化する要因も様々で、患者ひとりひとりの症状も様々です。まだ解明されていないことも多く、現在まで根治が難しい状況が続いています。多くの場合、かゆみや皮膚の異常を本人が満足できるほどの状態まで改善することも難しいとされています。
今回の私たちの実験が少しでもアトピーの症状改善、緩和につながり、自身の状態を先んじて知ることができる一助になればと考えていますし、アトピーの深刻さが社会的に広く認知され、行政や企業が積極的に動いてくれることで、当事者がより生きやすい世の中になることを切に願うばかりです。
と言いつつも、アトピーに苦しむ当事者としての自分と起業家としての自分の両立は想像以上に難しく、日々試行錯誤しながら過ごしています。
(参照)
「スマホカメラでアトピー肌の状態が客観的に分かる」仕組み作り【共同研究レポート】|untickle(2017,4,19)
http://column.untickle.com/eczema-skinanalysis/