備えあれば憂いなし?分からないことだらけの手術、入院生活。

5月の初め、走っている最中に全力で転び、左膝蓋骨(=膝の皿)を粉砕骨折しました。今、思い返すと、手術&21日間の入院で一番しんどかったのは、わからないことだらけだったことに尽きます。いわば、情報不足だったことです。
 

ヒザのお皿が4つに割れた左足。両足のヒザを比べると、腫れが分かると思います。
ヒザのお皿が4つに割れた左足。両足のヒザを比べると、腫れが分かると思います。

 

怪我の痛みは受け容れられても、寒さと熱と意識混濁までは無理。

 

手術室から出て麻酔が切れた私は、ストレッチャーに乗せられ、病室に運ばれていくところで目を覚ましました。暖かい毛布、そして電気毛布にまで包まれているのに寒い。5月なのにガチガチと歯が震えるほどでした。これは、手術中に余計な出血などを防ぐため、体温を下げたことが理由です。
 

しかし、手術をしたヒザは、切開したばかりなので、痛いし、熱い。ヒザだけでなく、足全体が熱を持っていました。それに加え、頭は麻酔で朦朧としています。寒くて熱くて意識は朦朧。もうどうにでもなれ、というような気分でした。
 

病室に着き、ベッドの上に乗せられても、「寒い」・「患部は熱い」・「足は痛い」・「意識は朦朧」・「気持ち悪い」・「頭は回らない」という目まぐるしい感情と感覚がグルグルと回っていました。
 

今回の怪我をしたのは自分の責任なので、怪我の痛みや手術・処置といったものに付随する痛みは予想できます。痛みが受け容れられるかどうかは別問題ですが、痛みが発生する心の準備はできていました。ただ、寒さや熱、意識朦朧までは想定できなかった。今思えば想定できたんじゃないかなとも思いますが、想定外の感情、感覚は、私の心と体へ大きなダメージを与えました。
 

いろいろ想定外過ぎて、うんこを漏らしそうになる。

 

もともと胃腸が弱く、大人になってからもうんこを漏らしたことが2度ある私は、自分で自分がうまくコントロールできない状況に陥ると、「ヤバい。このままだとうんこ漏らす」という気持ちに追いやられます。かくいう今回もそうでした。しかし、どう考えてもトイレに行けそうにありません。車いすで連れて行ってもらい、付き添いが居たとしても、椅子に座ること自体が困難、というか無理でした。
 

「うんこ出ちゃう」
 

恥を忍んで状況を伝えようと決意し、看護師さんに話したところ、おむつを付けてもらいました。怪我をした自分が悪いけれども、この何ともいえない恥ずかしさは何なのだろうとモヤモヤしている間にも、気持ち悪さはどんどん激しくなります。冷や汗が滴り落ちるほどでした。
 

肛門括約筋がいよいよという時に、まず小さい方を済ませました。大量に流れ出たと同時に、嘘のように気持ち悪さが減りました。実は手術中の点滴で補給した水分が多く、小便したかったことと勘違いしていたようです。自分の普段の習性が、生理反応より先に頭によぎり、身構える。予期せぬ状況は人間の生理現象にまで影響を及ぼすのだと初めて知りました。
 

痛みで眠れない。動けない。

 

その後3日ぐらいは痛みとの戦いでした。手術が終わったばかりの頃は、あまりの痛みに眠ることが出来ず、痛みで悶絶しながら寝返りを打っていました。怪我をした左足を地力で動かすなんてとても無理。ベッドの振動で動いてしまう事すら最初は痛かったです。
 

痛み止めを飲んだり、注射してもらった直後だけ眠れたのですが、すぐ1,2時間で起きてしまいます。あまりのしんどさに痛み止めの注射か薬をお願いしたとき、「広瀬さん、注射は6時間経たないとまた打てないの。まだ2時間しか経っていないから4時間後に来るね。」と言われた時の私の顔は今まで見せたことがないような表情をしていたでしょう。この痛みがあと4時間も続く、それに耐えなくてはならないという状況に絶望的になりました。
 

痛みで思考がまとまらないので、本も読めません。TVやラジオは鬱陶しくなります。痛すぎるから気を紛らわせたいのに、とにかく気を紛らわせるものがありません。痛いって本当につらいなとつくづく思いました。
 

「足が痛い」だけではなくなる

 

3日後に足の痛みが収まると、今度は足をかばっているため全身のあちこちが筋肉痛になりました。また、背中が汗ばんで痒く、痛いほどになりました。床ずれ手前までになったと思います。初夏少し手前なのに、なぜこんなに汗ばむのだろう。全身の痛みより、背中の痒みのほうがしんどい状態でした。
 

この理由を教えてくれたのは見舞い中の母でした。「ああそれはね、おむつよ。」なんと、ベッドの下におもらし用のシートが入れてあったのです。手術後にすぐ便意を伝えたからか、このベッドにはおもらし用のシートが入れられていたのです。どうりで汗ばみやすいわけだ。これを取ってもらうと、かなり解消されました。
 

車いす
 

事前準備しづらい入院や手術の知識。

 
 

今回、何より困ったのは、怪我をした足に関することだけでなく、付随した小さな問題が起こったこと、そしてその問題が多かったことです。これらが予測不能なことがさらに拍車をかけました。
 

例えば、
・手術中の点滴による水分補給が、尿意をもたらすこと。
・病床におもらし用シートが入っていること。
というようなことが事前に分かっていたり、聞かずとも教えてもらえていたりすれば、対処がもう少し楽だったかもしれません。知らないが故に苦しみました。
 

怪我を負った、手術をした、意識混濁になった、自分の感覚が信じられない。自分が病床についたときには出来ることがあまりなく、判断もままならず、意思表示もできません。事前に準備しておかなければ、自分の意向は介在しないのです。
 

入院や手術はいつ起こるかわかりません。普段の生活から時間を費やし、入院や手術に対する知識を得る、情報を収集することは難しいでしょう。何より、モチベーションが湧きません。誤解を怖れずに言えば、妊娠・出産の際の入院・手術といったことは時期や状況が想定できることなので、この枠に入らないかもしれませんが。
 

案外、介護やそのボランティアがいい事前準備になるかもしれません。他人でなくとも、家族や親族が怪我したらその世話をするということで十分。ベッドにオムツシートが入っていると気づいた母は、祖母の介護で知っていたのです。
 

・大怪我/不測の事故に備える方法って何かあるかな?
・入院や手術を行ったひとは何に困ったのかな?
・どんな情報を得ておけば、病院生活を少し快適にできるのかな?
 

手術や入院生活は突発的な生きづらさを体感します。上記のような問いかけに対する自分なりの答えを用意しておけば、不謹慎かもしれませんが、少しはマシになるのかもしれないと思いました。
 

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この記事を書いた人

広瀬眞之介