ストレスチェック義務化でますます生きづらい世の中になる?

2015年12月1日から企業が従業員に対してストレスチェックを実施することが義務化されました。従業員数によって対象外のケースがあったり、ストレスチェック後の面談の必要があったりと細かい決まりがたくさんありますが、説明し出したらキリがないので、そのへんは厚労省のサイトに任せたいと思います。
 

20151201ニュース
 

そんなストレスチェックの実施に伴って、こんな意見が出ています。
 

「『めんどくさい人』の魔女狩りになるのではないか?」
「メンタル面で弱い人のあぶり出しや、追い出しに使われるのではないか?」
 

ストレスの度合いが高い人を企業が把握し、ストレスチェックの結果を理由に休職や退職に追い込むのではないか。または、評価や昇進の材料に使うのではないか。そんな心配です。こういった懸念が出てくるのは当然のことだとは思いますが、法律上はストレスチェックの結果をもとに不当な扱いをすることは禁止されています。もっといえば、企業側が本人の同意なしにストレスチェックの結果を知ることも禁止です。
 

ストレスチェックの義務化に伴い、様々な企業がメンタルヘルス関連事業に新規参入してきています。これまでメンタルヘルス対策とは無縁だったIT業界も、ストレスチェックのシステム提供という形で参入しているケースが多いです。なにを隠そう、私の会社もストレスチェック義務化対応サービスなるものを始めています(ストレスチェックサービス「りーふ」)。すでにストレスチェック実施の実績も何件かあるのですが、そこで感じたストレスチェックの注意点をご紹介します。

 

●全体の平均値ばかり見ていると意味がない。
 

ストレスチェックの結果は「総合健康リスク」という数値で表されます。全国平均を100として、スコアが低いほどストレス度も低く、スコアが高ければストレス度が高くなります。個人向けのスコアは出しますが、全社としてのスコアというものを算出します(単純に全社員の平均値ではないため「全社平均」とは言いません)。全社のスコアが低ければ低いほど、従業員のストレス度も低いことを表します。
 

ここに統計の落とし穴があります。実際にあった例では、平均は80程度なのに、全社員の約4割が総合健康リスクが100オーバー、つまり全国平均よりも高い水準という会社もありました。
 

ストレス1
 

●高ストレス者は総合健康リスクとの相関が低い?
 

今回のストレスチェック義務化の法律では、総合健康リスクとは別に「高ストレス者」という者を抽出する必要があります。実は「高ストレス者」の定義は会社が独自に決めてしまってOKなのですが、私の会社では厚生労働省の推奨している定義を用いて抽出しています。
 

実は、総合健康リスクが低くでも高ストレス者になるケースや、逆に総合健康リスクが高いのに高ストレス者にならないケースというのもあります。実際に、総合健康リスクが100~110程度(全国平均よりも10%程度リスクが高い)で高ストレス者と判定された方もいれば、総合健康リスクが200近い(全国平均の2倍のリスクがある)にも関わらず高ストレス者とならなかったケースもあります。
 

なぜこんなことが起こるのかというと、高校受験の偏差値と中学の期末テストの総合成績の関係を思い出していただくとわかりやすいと思います。
 

期末テストの総合成績は9教科で評価されます(都道府県によって若干差があるみたいですが)。ですから、9教科万遍なく点数が高い人は総合順位も高くなります。一方で、私立高校受験は国数英の3教科しか試験がないというケースがあります。この場合、合格判定に使用されるのは国数英の3教科のみですから、他の教科の点数がどれだけ良くても不合格になります。社会と体育と技術が100点でも国数英が0点なら絶対に不合格です。逆に国数英がすべて100点で他の科目がすべて0点の場合、9教科の総合点数は同じ300点でも合格できるわけです。
 

ストレスチェックにおいては、総合健康リスクが私立高校受験の3教科入試なのに対し、高ストレス者判定は9教科の成績で決めているようなものです。そのため、総合健康リスクと高ストレス者で全然違う結果が出る可能性もあるのです(総合健康リスクなのに全然「総合」じゃないという意見は受け流します)。
 

gatag-00013748
 

注意しなければならないのは、新たに参入してきたIT系の会社の場合、営業担当がこういった内容についてあまりに無知なケースがあるということです。下手をすると産業医や保健師であってもストレスチェックの実施経験がなければ、知らないという可能性も十分にあり得ます。そうなると「スコアは全国平均よりも低いからOKですね」なんてことで、何も対策を取らないまま高ストレスの方々が徐々に増えていくなんて可能性も考えられます。
 

ストレスチェック義務化は、本当は生きづらい人を減らそうという考え方で始まった制度です。しかし、どんな制度であっても運用方法を間違えれば本来の目的を達成することはできません。
 

ストレスチェック義務化が効果をなすかどうかは、制度よりも運用方法にこそかかっていると思います。何かにつけて「法律が悪い」「制度が悪い」と言いがちですが、決められた制度の中で運用方法を工夫して成果を出すことこそ民間事業者に求められているはずです。そのためには、ストレスチェックに関わる産業医や保健師、サービス提供業者だけでなく経営者、人事、管理職や従業員個々人もストレスチェックのことを正しく知っていくことが重要です。
 

私自身は事業を通じて、生きづらさを減らすためのストレスチェックを少しでも広められればと思います。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。