新しい生活や年度が始まる春。いよいよ健診の季節がやってきました。身長、体重、血液検査などの検査で全身のチェックをする健康診断ですが、皆さんはどんなことを思いながら受けているでしょうか?
「またこの季節だ。面倒くさいなぁ。」
「毎年医者に同じこと言われるし、どうせ同じ結果だろうからほんとは受けたくない。」
「1週間前からちょっとダイエットでもすればいいか。バレないでしょ。」
ほとんどの皆さんが、ちょっと億劫だなと思うであろう健康診断。でも、今年の健康診断はちょっとちがった視点で受けてみるといいかもしれません。もしも、健康診断が生きづらさの連鎖を食い止める手段だとしたら、どうでしょう?
「同じ結果だからやっても意味がない」はまちがい
保健師の観点からすると、たとえ1週間前からダイエットや節制を始めたとしても私たちにはバレます。それは過去の健診データと最新データとの比較や、生活習慣の状況から総合的に判断すれば、その人が日ごろどのような生活をしているのか一目瞭然に分かってしまうからです。そして健診データもただの数字の羅列ではなく、臓器の状態や血液の状態などがリアルに読み取れてしまうので、まるで3D映像かのようにその人の健康状態が分かります。保健師の目と数字はごまかせないのです。
保健師活動をしていると、「毎年同じような結果だからやっても意味がない」という言葉をよく耳にします。確かに明らかな悪化がなければ意味がないように感じてしまうかもしれません。でも、そういう人には必ずお伝えしていることがあります。それは「変わらないこと、悪化していないことも立派な結果ですよ」ということです。
たとえば、前回のコラム「保健師が思う生きづらさを招く最たる病気。それは糖尿病。」でも書きましたが、糖尿病には境界型といって、糖尿病と診断される基準は超えていないけれど、ふつうの人よりは明らかに血糖値が高いという曖昧なラインにいる人がいます。そういう人にとっては、毎年同じようなことを医師や保健師に言われて耳が痛いなぁと思っている人が多いです。ですが、同じような結果は、まだ改善の余地はありますよというサインでもあります。改善努力している人にとっては安心材料にもなります。
健康診断の結果は、自分の体からの声なのです。「大丈夫だよ」、「ちょっとヤバい」、「もう限界です」、健康診断はそんな目に見えないサインをくれる貴重な機会だと思ってほしいです。だから、元気な人にとっても具合が悪い人にとっても、誰にとっても意味があることなのです。
「生きづらさの連鎖を食い止める」とはどういうことか?
私は、健康診断は生きづらさの連鎖を食い止める手段だと思っています。多くの患者さんを看護してきた経験による持論なのですが、人間の体はひとつの病気からほかの症状や病気、障害を引き起こすことがあり、その結果、悩みや制限、苦痛などが増えていくことで、生きづらい状態が続き、新たな生きづらさを引き起こしてしまう傾向にあると考えています。この連鎖を食い止めることが生きづらさを最小限に止めるための一つの手段であると考えていますし、最適な手段が健康診断であるというわけです。
連鎖が始まる第一歩である、たったひとつの病気を未然に防ぐことができたら、早期に見つけることができたら、被らなくてもいい生きづらさがあるかもしれません。ほかの症状が出ていないか定期的にチェックすることができたら、これ以上生きづらさを背負わなくてもいいかもしれません。生活習慣病など、自分で予防できる病気や障害はあります。その予防を怠ったことで、生きづらさの連鎖を引き受け、思い描いていた未来を歩むことができなくなるなんて絶対してほしくない。だから、健康診断を受けることは大事なんです。
また、忘れてほしくないことがもう一つ。生きづらさは自分の大切な人にも連鎖してしまうということです。あなたが生きづらさを抱えているとき、家族や恋人、友人もまた少なからず生きづらさを抱えることになります。なるべく病気にならず、大切な人たちと楽しく人生を歩むことができるように心がけることも重要な予防手段のひとつです。
ぜひ今年の健康診断は、「自分と大切な人たちを引き受けなくてもいい生きづらさから守るため」と思って受けてみるといいかもしれませんね。