1年後から始まるストレスチェック義務化。保健師の立場から働く人たちに伝えたいこと。

皆さん、こんにちは。心と体の健康を守る保健師の杉本九実です。
 

今回は働く社会人の皆さんにぜひ知っていただきたい、国が取り組むメンタルヘルス対策の新たな動向をご紹介したいと思います。
 

皆さんは、1年後から“ストレスチェックが義務化される”ことをご存知ですか?今年6月、労働安全衛生法の一部改正に伴い、2015年12月から労働者数50名以上の事業場において、ストレスチェックを実施することが義務づけられました。これは近年みられる、精神障害の労災認定件数の増加や自殺者数の高止まり傾向を反映し、さらなるメンタルヘルス対策の充実・強化を目的とした新たな施策となります。
 

ストレスチェック制度って具体的には?

 

ストレスチェック制度の一番の目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること、つまり一次予防を普及させることにあります。一次予防で最も大切なことは、労働者自身がストレスへの気付きを得られ、メンタルヘルス不調を自ら予防するスキルを持つことです。ストレスチェックはこの気付きを得るための有効な手段となります。では、ストレスチェック制度とは具体的にどのようなものなのか、受けるあなたにとってメリットとなる、4つのポイントについて改正内容をもとにご説明します。
 

厚生労働省より
厚生労働省より

 

①従業員数50人以上の企業は、専門家によるストレスチェックを行わなければなりません。50人未満の場合は、できたらやりましょう。
 

「常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業者の義務となる(第66条の10第1項)。ただし、労働者数50人未満の事業場は当分の間、努力義務とする(附則第4条)。」

 

昨今のメンタルヘルス問題の増加により、社会的にもメンタルヘルス対策への関心の高さが見て取れるようになってはきましたが、いまだにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合は、47.2%にとどまっている現状にあります(平成24年労働者健康状況調査)。そこで厚生労働省は、平成25年度を初年度とした第12次労働災害防止計画の中で、平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする目標を掲げています。その目標を達成するために、従業員が50人以上いる企業はすべて、ストレスチェックを実施しなければならないという制度が生まれたというわけです。
 

②ストレスチェックの結果は、あなたと専門家のみしか知りません。
 

「検査結果は、検査を実施した医師、保健師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止する(同条第2項)。」

 

ストレスチェックは、心の状態を把握するためのもので、非常にデリケートな検査になります。その結果により、働くことにおいてあなた自身が不利益を被らないようにするために、専門家は本人の同意なく、実施者である企業に対してストレスチェックの結果を提供することを禁止されています。つまり、個人結果はあなたと専門家のみしか知らないということになります。
 

③結果がよくない、専門家に相談したい。そういうときはちゃんと相談できます。
 

「検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することが事業者の義務となる。また、申出を理由とする不利益な取扱いは禁止する(同条第3項)。」

 

ストレスチェックの結果がよくなく、現実問題として身体的・精神的症状が出ていて専門家に相談したいと思ったときはちゃんと相談することができます。その体制を整えることは企業の責任であり、あなたが相談したいと訴えたことによって、あなた自身が不利になる状況を決してつくらないことが企業の義務になっています。
 

④医師との相談の結果、必要な場合は心と体に無理をさせない働き方に変えることができます。
 

「面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講じることが事業者の義務となる(同条第5項、第6項)。」

 

医師による判断によっては、身体的・精神的状態を考慮して働き方を変えるように提案されることもあります。その場合は、医師の意見をもとに、働く場所や仕事内容の変更、労働時間の一時的な短縮、深夜業の回数減少など、あなたの働き方を無理のない範囲で変更できるように調整することが企業にとっての義務になっています。つまり、あなたが無理をして心と体が蝕まれることがないように、企業は配慮してくれるということです。
 

保健師の立場から働く人たちに伝えたいこと

 

ストレスチェックについて、少しご理解いただけたでしょうか?実は今年6月に公布されて以降、様々な分野の方がこのストレスチェック義務化について言及しています。ストレスチェックの結果によっては労働者が不利になるのではないか、情報開示の規制があるために根本的なメンタルヘルス対策にはならないのではないか、などといった懸念点が挙がっています。たしかにまだ明確にストレスチェック制度の内容が出来上がっているわけではないので、そういった反応がみられることも当然でしょう。
 

しかし、厚生労働省を筆頭に、私たち産業保健分野の専門家たちが働く皆さんにお伝えしたいことはたった一つ。“自分の心の健康は自分自身で守る”という意識を持ち、そのための手段としてぜひストレスチェックを受けていただきたい、ということです。根本的に誰のためのストレスチェックなのか、それはまぎれもなく働く皆さん一人ひとりのためのものです。私たち産業保健分野の専門家は、皆さんの働く権利やプライバシーの保護は徹底して守る義務がありますし、ストレスチェックを受けたことで不利になる状況を生み出さないようにするため、厚生労働省では頻繁に審議会が開催され、施行に向けて準備を進めています。
 

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これからのメンタルヘルス対策で最も重要なことは一次予防を普及させることです。メンタルヘルス不調にならないように、一人ひとりが自分の心の健康を守るスキルを持つ、これが一次予防の神髄です。ストレスチェック制度を単なる面倒なものと捉えるのではなく、一次予防を普及させるための大きな第一歩であるということを、自分たちを心の健康を守るためのものだということを認識していただくことが、本当の意味でのストレスチェック制度のスタートであると私は思っています。

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この記事を書いた人

杉本九実

1985年生まれ。順天堂大学卒の看護師・保健師。憧れだったICU看護師となるが、理想と現実のギャップ、過労、ストレスにより心身のバランスを崩し、バーンアウト状態と診断され休職。休職中に訪れた旅で自然の「ありのままに生きる」姿に感化された経験を活かし、2013年PONOプロジェクトを設立。「ストレスやこころの病気を自然の中で楽しく予防しよう!」をコンセプトに、自然の力と看護スキルを活かした今までにない新しいメンタルヘルス事業を行う。