視覚が遮断された中での対戦型球技。ゴールボールの迫力。

ゴールボールという競技を知っていますか。
 

2012年ロンドンパラリンピックで女子日本代表が金メダルを取り、世界の頂点に立った障害者スポーツです。視覚を遮断した状態で、3人対3人で行うサッカーのPK合戦のような競技です。障害者スポーツとしては、視覚障害者が行う競技です。攻撃側・守備側と交互に分かれ、攻撃側はボールをボウリングのようにゴール目がけて転がし、守備側は寝転がってボールに向かって体を投げ出して止めます。
 

11月22日、東京・多摩障害者スポーツセンターにて開催された第2回ゴールボールの交流大会に参加してきました。初めてのゴールボール体験が、交流大会という試合だったのですが、非常に楽しめました。ただ、目が不自由ではない私にとって、視覚を遮断される(競技中はアイシェードと呼ばれる目隠しをします)ことは恐怖体験であることも事実。競技もさることながら、視覚障害者の感覚を体感できたことも貴重な時間となりました。
 

このようなアイシェード(目隠し)を装着します。試合中はこれに触れると反則です。
このようなアイシェード(目隠し)を装着します。試合中はこれに触れると反則です。

 

ゴールは幅が9メートル。3人で守ります。
ゴールは幅が9メートル。3人で守ります。

 

ボールは鈴が入っており、その音でボールが転がってくる方向を判断します。
ボールは鈴が入っており、その音でボールが転がってくる方向を判断します。

 

ボウリングの要領で転がします。
ボウリングの要領で転がします。

 

視覚が遮断されているので、自分の位置はゴールとの位置関係で把握します。
視覚が遮断されているので、自分の位置はゴールとの位置関係で把握します。

 

ゴールボールの詳細を説明すると、そもそもは第二次世界大戦で視覚に傷害を負った軍人さんのリハビリテーションを兼ねたスポーツとして、1946年にヨーロッパで考案されました。70年代にパラリンピックの正式競技となった頃から、急速に普及していき、日本では80年代に紹介され、90年代から全国的に普及していったそうです。今回の大会が行われた東京都多摩障害者スポーツセンターはゴールボールの体験会等を積極的に行っている施設のひとつだそうです。
 

ルールを補足すると、コートはバレーボールと同じ18m×9m。ゴールの大きさは、幅9m×高さ1.3mでこのゴールを3人で守ります。プレーヤーは障害の有無に関わらず、アイシェードという目隠しをつけます。これにより、健常者も同じようにプレイできます。ボールはバスケットボールとほぼ同じサイズで重さは1.25kg。ボールを止めた際、うまく顔を背けないと鼻血が出ることもあります。ボールの中に鈴が入っていて、プレーヤーはこの鈴の音を頼りにボールを止めたり、投げたりします。また、自分の位置を確認できるよう、ラインには触っただけでラインだと分かるように、ひもが入っています。
 

※競技の紹介として分かりやすいシーズアスリートさんの動画です。

 

普段、「目が見えない」という状態ではないので、まずは「見えない」ことに慣れるまでが大変でした。見えないからこそ、自分の位置も分からなければ、自分の行動さえ何をやっているか把握できません。競技の最中よりも、競技前にコートに入る・練習でボールを転がしてもらうという時間が一番の恐怖でした。今、冷静に考えると、初体験でよく試合に出たなと感じます。
 

ただ、いざ試合が始まると、負けたくないという気持ちであったり、目が見えない分、他の感覚を研ぎ澄ませようと努力したりするので、なんとなくボールが転がってくる音や自分の位置が掴めるようになってきます。見えていないので、あくまでも過大な自己評価なのですが。
 

また、コートを叩く音で自分の位置を伝える、ボールを床に叩きつけることでボールの位置を伝えるなど、コミュニケーションの工夫も身に沁みました。指示は口頭が多いのですが、その指示も端的かつ具体的なものとなるように、工夫する必要があります。また、どこからの指示か、音の方向も探る必要があり、集中力を要します。普段のコミュニケーションがどれだけ視覚を頼りにしていたのかが分かりました。プレイ以上にコミュニケーションの部分でぐったりとしてしまったように思います。
 

交流大会ではチームの実力ごとにブロックが分かれてたこともあり、経験者・実力者同士の試合を見ましたが、一番驚かされたのはボールの位置や相手の動きの伝達を正確に行い、守備位置を整えていることでした。見えてないやん!とツッコミたくなるほどの正確さには驚きしかありません。また、移動攻撃や投球フォームの工夫(音を出さない・うまくバウンドさせるなど)なども驚きの連続で、口がポカンと空いてしまっていました。重ね重ね、本当は見えているのではないかと思ってしまうほどのプレイの連続でした。
 

ちょうど同時期にブラインドサッカーの世界選手権が日本で行われていることもあり、メディアに取り上げられる頻度を見ても、世間の注目はそちらにあるように感じます。サッカーという競技のイメージのしやすさをはじめ、そもそもの選手、ファンの数が多い分、競技の分かりやすさという点でも分があるのかもしれません。しかし、世界一の実力を持つ代表選手がいるというゴールボールは、非常に魅力的なコンテンツであり、2020年東京パラリンピックでも大きな成果を挙げられる可能性を秘めています。また、私のような義足を履いている障害者であっても競技ができるという身近さは、他の障害者スポーツにはなかなかないものです。視覚障害者の体験という切り口も含め、少しでも多くの方々に触れて頂きたいスポーツだなと思います。
 

日本ゴールボール協会 公式サイト:http://www.jgba.jp/index.html

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。