日本の福祉機器ってこんなにすごいんだ!-国際福祉機器展レポート-

東京ビックサイトで開催されていた「国際福祉機器展(通称:HCR(Int. Home Care & Rehabilitation Exhibition))」(10月1日~3日)に行ってきました。この展示会は、15か国・1地域から585社・団体が参加し、来場者数は3日間で12万7651人、世界で3番目、アジアでは1番の規模を誇っています。
 

「国際福祉機器展2014」HPより
「国際福祉機器展2014」HPより

 

実のところ、専門的に勉強をされている方以外、「福祉機器」と「医療機器」という両者の違いが曖昧かもしれません。かくいう私もその一人です。今回の記事を書くにあたり、最初に言葉の定義を明確にしておきたいと思います。調べてみてかなり参考になりました。
 

医療機器:「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等であって、政令で定めるものをいう。」
「薬事法第2条より(医療機器の定義は国・地域の法令や規格により異なる)」
 

福祉機器:「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具」
「福祉用具法第2条より」
 

簡単に言うと、医療機器というのは治療に関わる用具で、福祉機器というのは高齢者や障害者などのリハビリ(訓練)などの自立支援を目的としたものになります。また、現在、この福祉機器が注目産業であることをご存知でしょうか。あるデータをご紹介いたします。
 

株式会社矢野経済研究所「介護福祉用具用品市場に関する調査結果 2014」
株式会社矢野経済研究所「介護福祉用具用品市場に関する調査結果 2014」

 

この数字は、高齢化に伴う社会保障費抑制のために当事者の治療機会(医療行為が必要に)が増えている、リハビリ・訓練を促すための福祉機器の活用が進み始めている、などの背景が表しているものだといえます。そして、数字だけを見る限り、この分野が成長産業であることも事実です。
 

日本の福祉機器についてはこのような概論があるのですが、足を運んでみての感想は「日本の福祉機器ってこんなにすごいんだ!」というものでした。福祉機器メーカーの技術力もさることながら、高齢者や障害者のニーズを限りなく取り込み、まさにかゆいところに手が届く機器ばかりで、日本人のおもてなしの精神がこうした面でも生かされているという印象でした。結論は最後に述べるとして、私が、個人的におもしろいと思った機器をいくつかご紹介したいと思います。
 

※会場内は撮影禁止でしたので、画像はすべてメーカーのHPやプレスリリースなどから引用致しました。
 

●パラマウントベッド「結起」
 

パラマウントベッド「結起」
 

背上げ機能に自動的に連動して圧力を適切にコントロールする、床ずれ防止エアマットレス「ここちあ 結起(ゆうき)」シリーズです。このシリーズ自体は以前からあるようなのですが、担当の方に、「今回の新しいポイントは?」と聞いたところ、「当事者が、自分で足部を下向きに切り替えられることで、一人でも簡単に座位が保て、快適な時間を過ごせること。」だそうです。マットの柔らかさなどは、多くのメーカーが競うところですが、「足部を下げる」部分に注目をしたのはさすがですね。
 

http://www.paramount.co.jp/news/detail/6960
 

●パナソニック「みまもりシステム」
 

パナソニック「みまもりシステム」
 

ベッドの下に取り付けた電波センサが、ベッド上の当事者の呼吸数や体動などを感知します。感知した情報を、離れた場所にある介護ステーションに送信し、当事者の体調急変や離床行動を事前に察知し、適切な処置を取ることができる「先取り介護」を可能にした福祉機器(システム)です。「目を離したちょっとした間」の悲劇が多い高齢者などの介護が、このシステムによって変わるかもしれません。
 

http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/2014/09/jn140924-5/jn140924-5.html
 

●幸和製作所「テイコブリトル」
 

幸和製作所「テイコブリトル」
 

URLの動画をご覧になってみて頂くと分かりやすいのですが、歩行困難者が路上を歩く際に欲しい機能がほぼ詰まっています。日本のニーズ開発力は流石だと思います。ただ、担当者いわく、「荷物の積載重量が低いので、買い物ニーズを満たすにはもう少し改良が必要」とのことでした。
 

http://www.tacaof.co.jp/movie/HS05/1shy.html
 

●TOTO「ウォシュレット付き居室用水洗トイレ」
 

TOTO[
 

寝室などのベッドサイドに後付けできる、ウォシュレット付き室内水洗トイレになります。床に固定しないので自由に場所を動かせるのが特長、だとか。便器の背後にある粉砕圧送ユニットで固形物を粉砕し、壁に接続した排水管から流し出す仕組みです。トイレへの移動距離が短く、家族に排泄物を見られずに済ませることで、介護当事者の心理的・身体的負担の軽減を狙う、福祉機器です。私も経験がありますが、寝たきりになって人に便の処理をしてもらうのは結構な苦痛なので、ものすごく画期的だと思いました。
 

http://www.toto.co.jp/ud/style/plus/26.htm
 

●株式会社パシフィックウェーブ「GELTRON」
 

GELTRON
 

2003年に京都府舞鶴市の中小企業が開発した「立体格子型グミ状ジェル」を活用した、マットレスが話題を集めていました。とにかく柔らかい!確かにこのジェルを用いたマットレスでは、床ずれもおきないのではないか、と感じました。試しで寝そべっていた女性が「すごくいい!!」と歓声を上げるほどでした。このジェルは、マットレス以外にも車椅子の座部(クッション)にも応用しているようですが、これなら福祉以外の分野でもどんどん活用できると思いました。
 

http://www.geltron.jp/
 

あくまでごく一部をご紹介させていただきました。正直言って、数がとてつもなく多いので、とても全部は載せられません。今回ご紹介した福祉機器は、どちらかと言えば、高齢者の方向けのモノが多いと思いますが、展示会を見ていて感じたのは、「これは高齢者、あれは障害者」などと分ける必要もなく、応用可能な部分はどんどん融合させていくことが重要だということです。そのほうが、機器の進化も早いでしょう。
 

どの機器もユニークなモノばかりでしたが、私が印象に残ったエピソードもご紹介したいと思います。展示会には、台湾の企業も出展していらっしゃいました。日本語が通じたので、少しお話しを伺いました。
 

堀「台湾のメーカーさんも出展されていらっしゃるんですね。」

台「台湾も少子化の影響で、高齢化が進んでいます。あと何年かしたら、日本より老人の割合が増えると言われています。」

堀「そうなんですか。では、台湾も福祉機器産業が進んでいるんですね。」

台「私たちは、日本以外にも、ASEAN諸国を中心に売り込みを始めています。でも、日本の技術力は高くて、(日本では)なかなか売れないね(笑)」
 

私も、介護・福祉機器の関係者から話を聞くと、日本の介護(サービス)・福祉機器(モノ)の輸入をしたがっている国は、アジア諸国を中心に増えているそうです。理由としては、日本をモデルにして、来たるべき高齢化に少しずつ準備を進めようとしているからだそうです。冒頭でも述べましたが、国際福祉機器展に世界各国からの来訪者が増えているように、福祉機器分野は日本が誇る成長産業の一つになっているのです。
 

たしかに、福祉(機器)という分野において、十人十色いろいろとご意見はあると思います。しかし、「日本の成長産業」という側面から捉えてみると、「福祉」について、また新しい見解やアイデア、以前とは違う課題などが生まれてくるかもしれません。少子高齢化などで旧来の経済成長モデルが限界に達していると言われている現在日本において、福祉(機器)を、当事者や関係者だけではなく、それ以外の人たちも、少しずつでも向き合っていく必要があるかもしれません。
 

※「GELTRON」に関する原稿箇所を下記修正いたしました(2015.7.8)
「2013年に京都市の中小企業が開発した」→「2003年に京都府舞鶴市の中小企業が開発した」

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この記事を書いた人

堀雄太

野球少年だった小学4年生の11月「骨腫瘍」と診断され、生きるために右足を切断する。幼少期の発熱の影響で左耳の聴力はゼロ。27歳の時には、脳出血を発症する。過去勤めていた会社は過酷な職場環境であり、また前職では障害が理由で仕事を干されたことがあるなど、数多くの「生きづらさ」を経験している。「自分自身=後天性障害者」の視点で、記事を書いていきたいと意気込む。