自立ってなに?という回答を集めてみた。【イベントレポート】

もし「自立しなさい」という言葉を投げかけられたならば、皆さんはどのような状態を思い描くでしょうか?
 

母に「あんた、ちゃんと自立しなきゃダメよ」と言われたことを思い出してみると、「自分の身の回りのことくらい自分でできるようにならないとダメだ」という意味で使われていたように感じます。社会人になって言われたならば「経済的に自分の稼ぎで生活を回そう」というような意味で受け取るでしょう。
 

2014年6月22日、神保町大学主催の「これからの定義の話をしよう#9 【自立】という言葉について考える」というイベントのファシリテーターを務めてきました。様々な「生きづらさ」を抱える方々のお話を聞くたびに、「自立」という到達点を一括りにできないなと考えるようになりました。その問題意識も相まって、今回のイベントの進行役を買って出た運びです。
 

当日使用スライドより
当日使用スライドより

 

例えば、障害者にとっての「自立」とは、どのような状態を指すのでしょうか。仕事に就いて自分の力で生活を進めていくことかもしれませんし、自分の身の回りのことを自力でできるようになることかもしれません。自分一人の力で外出することかもしれません。障害の種類や程度によっても様々あるでしょうし、障害の状況によっては自立できないこともあり得ます。
 

ニート・フリーターにとっては「仕事に就くこと」、引きこもりにとっては「部屋から出ること」、就活生にとっては「卒業後自分の力で生活すること」なのではないか、などと考えていってみても、それぞれの属性によって自立の捉え方は違うことが予想されます。同じ言葉を使っているからといって、すべてが同じ意味で扱われていることはないのです。
 

当日、参加して頂いた受講者に「自立とは何か」と定義して頂きましたが、似て非なりというような回答でした。
 

経済的な自立と精神的な自立の2種類がある。経済的な自立は、親が資産家だったとか一儲けしたとかという場合もあるから、自力だけではない部分がある。ただ、精神的な自立は自分はこうだという意見が述べられることだと考えていて、冷静に現状を把握できる状況であれば、自立した状態と言えるのかもしれない。(若手経営者)

 

自分らしく生きることが自立ではないかなと思う。ただ、そこには自立なのかワガママなのかというものが存在するので、周囲との関係を持って、尊厳を保ちながら生きられるというのが要素として入るのではないか。自我の目覚めというものにも近いような気がする。(学校教員)

 

完全な自立は難しい。完全な自立は人を必要としない状態、周囲を必要としない状態になるのでは?自分が食べ物を生産していなくて、どこからか調達している時点で、完全な自立ではないですもんね。(自分探し中)

 

イベントでも何度もお話ししたのですが、これらは何が正解で何が不正解ということでもありません。自分と意見が似ているのであれば、何が似ているのか、なぜ似ているのかを考えるものであり、自分と意見が違うのであれば、何が違っているのか、なぜ違っているのかを考えるものです。
 

定義イベント
 

自立という言葉を考えるにあたっては、対義語にあたる「依存」に関しても考える必要があるかもしれません。特に人間関係の中で生まれる「依存」は自立を妨げてしまうものとして捉えやすいです。また、当事者と支援者が自立を目指しながらも、お互いに依存しあうような関係になってしまう「共依存」という状況もあり得ますし、うまく当事者が支援者を活用しながら共にパートナーシップを築いていく「共存」という状況もあり得ます。言葉を一つ考えるだけでも、様々な切り口から考えを辿ることができます。逆に、言葉を簡単に扱うことはできないとも言えるかもしれません。
 

◯◯福祉といった世界で、よく「自立支援」という言葉を見かけます。ただ、そのすべてにおいて同じ意味で使われているわけではないですし、利用者側もどのような意味で捉えているのか千差万別あるはずです。自立という言葉の意味も違えば、自立するために必要なものも違う。提供側が提供できるものも受け取り側の受け取りたいものもそれぞれ異なります。
 

言葉の意味ひとつとってもこれだけ違いが表れるのであれば、一人ひとり考え方や価値観が違ったって何もおかしくはありません。隣の誰かの意見に自分の意見を合わせる必要もなければ、社会に迎合する必要もないのでしょう。だからといって独りよがりの意見ではダメだとは思いますが。
 

今回のイベントを通じて、私自身は「自分で自分を満たしている状態」、つまり「他人と比較せず自分で自分の進む道を選択している状態」なのかもしれないなと感じました。自分の道を進むために必要なヒトやモノ、情報やお金などは、自分で取りに行く意識があればよいとするならば、「自立」とは企業経営と似ている、いわば自分で自分を経営(マネジメント)しているような状態なのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。