ハーフだといじめられる?ちやほやされる?

ハーフだと、いじめられる?ちやほやされる?
 

ハーフ当事者である筆者は、どちらも聞いたことがあります。一見矛盾する二つの意見、どちらが正しいのでしょうか?チリと日本のハーフのWさん(※個人情報保護のためイニシャルを使用)の経験によれば、どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、言い切ることは難しそうです。
 

ライター自身、「ハーフ」「外国人」であることもあり、世に出ている「ハーフ」「外国人」の意見って、ワンボイスすぎやしないか?と疑問を感じて始めたこのインタビュー企画。人種・性別・人生経験も様々な「ハーフ」の方々にお話を伺ってきたこの企画も第3弾です。
 

Kさん(パキスタン/日本、社会人)の場合|自分自身を「無国籍」だと思う理由とは?
Sさん(イギリス/韓国、学生)の場合|日本人に見られたくないというプライド
 

by Luxt Design
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ケイヒル(以下C): ご自身の背景について教えてください。
 

Wさん(以下W):母がチリ人で、父が日本人です。生まれも育ちも日本なんですが、小学校の頃、2年弱だけチリに住んでいたことがあります。それまではスペイン語も全く喋れなかったし、海外に行ったこともなかったです。でも2年間住んでいたら言葉もすぐ覚えて、帰ってくる頃には日本語をちょっと忘れているというくらい、あっちになじんでいました。でも、今は使っていないので、けっこうスペイン語を忘れてしまっています。向こうにおばあちゃんとか親戚が住んでいるので、電話やメールでやり取りする分には困りませんが、ペラペラには喋れません。
 

C: いきなりですが、ご自身のことは何人だと思っていますか?
 

W: 「どっち?」ってきかれたら日本人。「どっち?」って言われなければ、「ハーフ」です。
 

C: その意識は、チリに行く前から変わらないのですか?
 

W: 幼かった頃はみんなと違うのが嫌で、ミドルネームも出席簿に入れていませんでした。ハーフだというのは見た目でわかるんですが、自分は「日本人」だと思っていましたね。
 

イジメというほどではないんですが、なにかあると「ガイジン」とか「国帰れ」って言われたりとか。言っている本人にも悪意がないし、子どもの悪ふざけの延長なんだけど、ちょっとムカつくっていう。
 

チリから帰ったあとは、以前通っていた学校に戻ったので、チリに行く前まで仲良くしていた子たちとまたクラスが一緒になりました。いわゆる「帰国子女」になったので、すごく注目されちゃって。クラスで人気がある男の子たちも含めた、みんなの人気者状態。みんな群がるから、それが面白くなくて、やっかんだんでしょうね。クラスのリーダー格の女子たちから目をつけられちゃって、いやがらせをされたりしました。結局、中学校に上がる前には仲直りしたのですが。
 

中学校でも、周りは小学校からの同級生がほとんどだったから、ミドルネームとなども茶化されてネタにされてたり、変な意味での「特別扱い」が多かったです。ケンカとか、言い合いになると、ネタにされる。「民族衣装なんだろ、そっちは」とか。
 

by Hamner_Fotos
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私は生まれも育ちも日本で、東京の下町に住んでいたんですよ。神輿担いで太鼓叩いて、週に一回もんじゃ焼きを食べる、みたいな、典型的な日本人のような感じだったから、余計に「みんなと変わらないのに納得がいかない」という気持ちがありましたね。中学までそんな気持ちを持っていました。
 

C:他にも「ハーフ」で嫌だなあ、と思ったことはありましたか?
 

W:幼い頃は多かったですかね。お母さんが授業参観に超イケイケな恰好で来ちゃうから、目立っちゃって。あと、親戚にしてもお母さんにしても、時間にすごくルーズなんですよ。それを見て育ってきたから私は時間を守るんですが、南米のハーフだっていうと「結構時間にルーズでしょ」って言われたりもします。勘違いしてほしくないので、「私は親にそうされてきたので、違います」って主張しますが。
 

大体イメージは「ラテン系」「お酒が強そう」「時間にルーズ」のその3つらしいです。「じゃあお酒飲むでしょ。ワインすきでしょ」「いや、ワイン嫌いです」みたいな、ね。そういうことは、たまに言われますね。
 

でも、お母さんから、嫌な思いをしてきた話を聞いていて。大変だったんだろうなって思います。タクシーが止まってくれなかったりとか、結婚するときに日本の親戚一同にものすごく反対されて大変だっただとか。
 

C:ちなみに、ハーフで良かったなって思うことは?
 

W:よかったな、って思うことの方が多いですよ。たぶん言っている側には深い意図はないと思うのですが、「ハーフいいね」「ハーフうらやましい」って言われます。名前をすぐに覚えてもらえるし、他の人の印象に残りやすいことも得です。例えば、営業で来る方にもすぐに覚えられるんですよ。たくさんの人と会っているはずなのに覚えてもらえるから、取引あったときとかも結構優遇してくれたりとか。
 

あとは、カットモデル・カラーモデルの依頼があるから、髪はお金がかからない。それに、「ちやほやされる」というとちょっと違うかもしれませんが、ハーフだと、ネタもあるし、結構慕ってもらえる、というか。私が答えられる範囲でだけど、「どうなの、チリって」って話もできるし、「みんなとはちょっと違う」みたいな目線で見てもらえるから、人の輪には入りやすいです。高校生くらいのころから、「ハーフ」っていうだけでなんかちょっと好意的に見てもらえることが多いように感じています。
 

C:高校で環境が変わったんですね。
 

W:すごく変わりましたよ。通った中学校・高校は地域も一緒だし、どちらも公立だったのですが、高校に入ると、一気に周りの目線が「ハーフでうらやましい」といったものに変わって。「ミドルネームがあってうらやましい」だとか、「目が茶色くてうらやましい」だとか、「うらやましい」という意味での特別扱いにかわりました。「ハーフって悪くないかもな」と思うようになったのは高校ぐらいから。
 

今は、芸能人でもハーフの人って多いので、ハーフイコール芸能活動をしている子が多い、というイメージもあると思います。いま、全体的に上昇気流ですよね。
 

C:この上昇気流は最近のことですか?
 

W:土屋アンナとか、ベッキーとかが出てきたあたりくらいからだと思います。6,7年前のときに本当にブームがグン、って来ましたね。ブームが来てからは「ハーフです」っていうと「モデルやったことあるでしょ?」というようなことをいわれることが多くなりました。別に芸能人でも何でもないんだけど、ハーフってだけで、芸能界に近いイメージを持たれたみたいです。
 

全然似てないのに「滝川クリステルに似てるよね」とか、「それはハーフっていうくくりだけなんじゃないかな」って思うようなことを言われることがいっぱいあって、「ハーフ」っていう色眼鏡ですごく見られ方が変わるんだなあ、と。
 

C:ちなみに、今の自分の性格だとか、今の自分の仕事だとかに自分がハーフだということは影響していますか?
 

W:うーん、影響していると思います。ずっと平凡に暮らしてきた普通の日本人の子より、嫌なこともいいこともいろいろ経験してるから、その子たちよりかは感情とか経験値的には上だな、と、同い年の子たちと話してて思いますね。
 

あとは、差別的な人がいるということも、好意的に見てくれる人がいるということも、幼い頃から知ってるので、相手の人間性を感じ取れる力はつきました。
 

by 耿念堃
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C:今でも偏見のある人に会うことはありますか?
 

W:ガッツリ偏見がある人ってそんなにいないけど、言葉の端々に、距離を置く言葉遣いをする人がいます。「日本人とは違うもんね」みたいな。「ひがみ」とは違うんだけれども、ある種の価値観が表れる言葉。たぶん日本人特有だと思うのですが、「みんな一緒が正義」という価値観が隠れているんでしょうね。
 

整列して「前ならえ」するときに、ちょっと外れている人がいると、それを「嫌だ」って感じる人が少なくない気がします。彼らからしてみれば、ハーフは、みんなが「前ならえ」している中で「休め」をしてしまっている人なんでしょう。今では、そんなふうにハーフをネガティブに捉える人の方が少ないですが。
 

C:それでは最後に2つ。まず、同じ「ハーフ」の人に何か言いたいことがあれば。
 

W:SNSのハーフコミュニティを見ていると、「ハーフだから苦労してきて、差別を受けていて、こういうことにいら立ちます…」ってハーフとしての境遇をすごくネガティブに捉えている人が多いんですよ。そういうふうにネガティブに捉えている子たちって、やっぱり10代が多いから、「大丈夫だよ」って言いたいです。
 

同じハーフの友達何人かと話したんだけど、結局社会人になってこうやって話していると、「なんだかんだハーフで良かったよね」と言えることがすごく多くて。それぞれ育ってきた境遇が違うと思うので一概には言えないんですが、今の境遇は自分が生きている狭い世界の中でのこと。だから、ちょっと外に出たら、周りからの扱いも全く違うものになるんじゃないかな、って思うんですよ。そもそも、学校というコミュニティの中の子たちは本当に視野が狭すぎる。だから、「学校では特別扱いで悪い方に見られるかもしれないけど、大人になったら全然違うよ」って言ってあげたいです。
 

それに、この先何年か経ったときって、ほとんどの人がミックスだと思うんですよ。もう10年後とか、「え、2か国しか入ってないの?」っていうレベルとかになるんじゃないかなって思うから。だから、そのうちくくりとか全くなくなるんだろうなって思ってます。
 

C:最後に、日本社会に向けて何か言いたいことがあれば。
 

W:社会に向けて・・・迷いますね。でも、「前ならえ」教育はやめたほうがいいかもしれない、と思います。就職も進学もみんな一緒、というような、全員に同じことさせる学校生活と、英語を6年間やって何も身につかないあの無駄な授業と。小学校と中学校って、やりたくなかったらやらなければいいこととか、変なことがいっぱいあるじゃないですか。そんな教育だからこそ、ちょっとはずれちゃう子が標的になっちゃうんじゃないかな、とよく思っていました。
 

チリでは、家の手伝いがあるからっていうのもあるけど、学校行くタイミングもみんなバラバラだったし、勉強自体もみんなバラバラだったし、できない子とできる子がフォローし合う環境で、子どもの自立も早かったんですよ。将来のビジョンが結構しっかり見えていたりだとか、人のことを気にかけてあげられたりだとか。でも、日本の子たちって学校行って塾行ってで、みんな一緒のことをやるじゃないですか。自立するのがすごく遅くなる感じがします。ざっくばらんだけど、教育をもっと変えたほうがいいんじゃないかな、って思います。
 

C:Wさん、本日はありがとうございました。

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この記事を書いた人

ケイヒル エミ

米韓ハーフ。日本で生まれ、小・中・高と日本の公立学校に通ったのち、アメリカの大学に直接入学。現在公共政策学部で、貧困・格差問題やジャーナリズムについて勉強している。「ハーフ」「外国人」の観点から情報発信をしたいと思ったのは、憧れの国だったアメリカで人種問題や移民問題に直面し、そこでの問題意識を、日本での自分の体験と照らし合わせるようになったことがきっかけ。今年中国への交換留学を控えており、大気汚染の影響を心配しつつもわくわく中。