■今回のインタビュー記事の掲載について
Plus-handicapでは、株式会社よりよく生きるプロジェクトと連携して、過去に生きづらさを抱えていたけれど、現在では前向きに生きられていると感じている方々へのインタビュー記事を全5回掲載します。生きづらさを感じている人へのヒントとなり、また、生きづらさについての理解が深まればと考えております。
第2弾である今回は、元うつ・ニートだった方へのインタビューをご紹介いたします。
※インタビュー内容をそのまま掲載できるように、名前はイニシャルにしています。
ケース2:元うつ・ニートBさん(20代)
インタビュアー:織田 昇(よりよく生きるプロジェクト カウンセラー)
織田カウンセラー(以下、O):今日は、よろしくお願いします。Bさんは元うつ・ニートだったとお聞きしました。
Bさん(以下、B):はい。大学卒業して、その後1年間くらいニートしてました。今は大学院で心理学を勉強してカウンセラーを目指しています。就職活動は2、3社受けたんですけど、正直あんまり面白そうと思えなかったし、惹かれるものがなかった。周囲に就職していく仲間とかいましたけど、同じように生きていくのは自分には無理だなと思ってしまって。
O:具体的には、どのような状況だったんですか?
B:大学4年の時にやりたいこと探しというか、自分探しみたいなことをして。すればするほど、だんだん落ちていきました。この世の幸せには限界があると思ったんです。例えば、すごくかわいい彼女と一緒にデートしたいとか、すごく美味しいものを食べるとか、たくさん楽しいこと想像したんですけど、全部つまんないように感じて。人生の最高を想像しても、生きていく価値ないんじゃないかと思って。
本当に何をやったらいいのかわかんなくて、病んできて、今の状態から抜け出せるとは思えないようになりました。不眠もありましたが、一番は「死にたい」って思っていました。頭の中で「死にたい死にたい」っていうのがずっとあったんですけど、死ぬ勇気もないし。大学時代は自分探しをして、そのまま見つからなくて卒業しました。
O:その後のニート期間っていうのはどんな感じで過ごしていました?
B:やらなきゃいけないことがないので、基本、家にいるんですけど、親に「いいかげん、どうするのか考えろ!」と言われていました。自分はラッキーで、大学時代の友達2人が連れ出してくれたんです。
ずっとこのままで生きていけるわけではないので、既卒の人でも入れるところとか探し始めて、そしたら、よりよく生きるカフェにたどり着きました。矢辺さん(よりよく生きるプロジェクト代表)と話をすると、社会に合わせるんじゃなくて、もう少し自分らしく自分にあった環境で生きていこうっていうことで盛り上がりました。何度も話をするうちに、カウンセラーを目指そうという気持ちになりました。
O:Bさんはカウンセラーの何に惹かれたんですか?
B:矢辺さんと自分の人生のテーマを決めたんです。すると、「生きることと戦ってる人を応援する」っていう言葉が出てきて、そこからカウンセラーが出てきました。自分と関わった人を応援して、頑張って飯食っていけるようになって、早く親から自立したいです。なんとなく思っているのは、精神病院とかに勤めて、その後のご縁とかで息長くやっていけたらいいなと思います。
ただ、まだ具体的には考えられていないんです。臨床心理士の資格をとって、病院とか福祉施設とかで働くんだろうなと。今、塾講師のアルバイトをしていて、週1で小学校に行っているんですけど、少しでもプラスのことがあるように子どもたちと関わっています。
O:それってうつだった頃には考えられなかったんじゃないですか?矢辺さんと話してガラッと変わったんですか?
B:劇的に変わったわけじゃないですね。変わっている最中って変わっている実感ないじゃないですか。今だから、あの時変わったのかなって感じる。きっと想像つかないくらい変わっているんでしょうけど。
当時は、自分の状況を話せる場がなくて。こういうことって誰にでも話せることじゃないじゃないですか。でも矢辺さんには初対面でこの人には話せるなと思いました。同じ吐き出すでも、前に進もうとさせてくれる吐き出し方なのか、意味のない吐き出し方なのかで違うと思うんです。矢辺さんは前向きに吐き出させてくれる人でした。
O:うつとかニートとかで現在苦しんでいる人に伝えたいこととか、伝えられることとかってありますか?
B:うつの時って何を言っても入ってこないんですよ。親や兄弟もいるのにとか、こんなに良い友達がいるのにとか、生きる価値あるじゃんって思い聞かせたりしましたけど、それを全て掃除機で吸い取っちゃうくらいの威力があるんですよ、うつは。
なので、「飯がおいしいとか誰かといて楽しいとか、今は想像がつかないと思うんです。でも、本当に時々一瞬一瞬でやっぱり楽しいなと思う瞬間がある。絶対そういう時は来るんで。今ならそう思えるようになりました。」って言います。
僕の場合、夜に一人で家にいる時が一番やばくて、色々考えちゃうんですよね。だから、夜に「飛んでけ飛んでけ」とか思いながら徘徊していました。で、街に出ると、カップルとか騒いでいるおじさんとか、目の前に色々ひかれるものがあって、色々視点が動くから考えなくてすむ。
昔は「死にたい」っていう人はその人の意志だと思っていたけど、今は「死にたい」はその人の本当の気持ちじゃなくて、そう思わされちゃってる、そうならざるを得ない、本音じゃないんだなと思うようになりました。だから死んでほしくないなって。僕は先生に、病気だって言われたんです。前は、病気は自分の一部だと思って自分を責めている感じだったけど、今は、自分とは別のもの(病気)って思えて。病気だったら戦おうって思ったんですよ。
僕は徘徊するっていう手段をとりましたけど、何でもいいんです。逃げ回っても死ぬってことさえしなければ。みんながそういう行動できる・できないってあると思うんですけど、できなかったときは、YouTubeの中で擬似的に外に意識を向けたり、辛い時は目線をそらしたりしてもいいと思います。逃げは逃げだけど、全然恥じることじゃないと思います。
O:一時的ではなく、ずっと逃げている人って世の中にもいると思うんです。Bさんはそこから出られた。彼らと違うところって何かあると思いますか?
B:本質的には変わらないと思います。ただ自分は、塾のバイトをやらなきゃいけない、小学校もいかなきゃいけないっていうふうに、生活の中にやらなきゃいけないことを入れました。ショック療法かもしれないですけど、これもひとつあるかもしれないですね。
大学とかひどいでしょ。授業途中で抜けたりとか、寝てたりとか。それは強制力がないからですよ。でも塾のバイトとかはお金が発生する。自分の背中を押すためのものがあるといいと思います。家を出る時にプッシュしてくれる、変えてくれる何かが。
環境が変わるっていうのも大事ですよね。新しいバイトを始める時も最初は辛い。もしかしたら3日で辞めちゃうかもしれない。相手に迷惑かけるかもしれないけど、それでいいと思うんです。ずっと毎日YouTube見ているだけの生活から、週1や週2動くだけで変わると思うんです。
実は、バイトはじめる時、いつでも辞めてやるって思いました。大学院に行っていて、バイトと大学院の2つやっていると、どっちかがダメでもどっちかがよければいいやって。と言って、もう半年くらい続いています。僕は軽いかもしれないけど躁鬱と言われていて、いつ行けなくなるかわかんないんです。だから続けられると思ってなかった。だけど3日続けられたんで、続くだけ続けばいいかな、いつでも辞められるしって感じですかね。
僕は、辛い時期は先のことなんか考えなくていいから、足下見つめて一歩一歩今日一日を生きていくっていう視点と、ちょっと元気になって来た時に初めて将来何をしていこうか考えればいいかなっていう視点が大事だと思います。悪い状態の時に将来なんか考えたら、本当に絶望しか見えないですよ。だから僕は2つの視点で考えています。
O:過去の後悔とか重しをずっとひきずっている人もいるんですけど、良い状態になった今だからこう思えるようになったこととかありますか?
B:あります。まず、うつにならなかったら大学院に行ってないです。大げさに言うと世界の見え方が変わったんです。サングラスをかけているようなもので、何を見ても無味乾燥。あの感覚があるからカウンセラーになっても役に立つなって思えています。だって、ずっと健康な人がカウンセラーだと「お前なんかにわかるかよ」って僕は思うと思うんですよ。
あとは周りに恵まれているって思えるようになった。ずっといてくれた友人の2人には、ずっと感謝しています。かわいそうだからじゃなく、今までと同じように接してくれた。死ぬってことが頭をよぎった時も「あの2人がいてくれるのに」っていうのがつなぎとめてくれていました。感謝できるようになったら、言葉にしなくてもお互いに支えられているなって思えるようになりました。だから、今繋がっている人達を大切にしていきたいです。大学院の人達とか、矢辺さんとか。友達2人がしてくれたように、今見ている塾の生徒とかも、もっと自信もってもらいたいですし。
僕は弟に生かされていたと感じていることもありますね。弟と2人暮らししているんですが、1人暮らしだったらもっとヤバかったと思います。ちょっと友達の家に泊まりにいくとか、誰かと一緒にいるって大事だと思います。やっぱり、人は人にしか助けらんないですね。本当に人に救われました。
人とつながっていくとか、今つながりがない人は何かの集まりに行ってみて、つながってみるとかしてみるといいかもしれません。もしもつまんないとか、違うとか思っても、それも新しい発見なので、それでいいんだと思います。何もしないよりもいいですしね。
O:とても参考になりました。本日は貴重なお話ありがとうございました。
B:ありがとうございました。
インタビュー後記
誰しもが、例外なく心の目にサングラスをかけています。どんな色のサングラスをかけているかで、周りの世界も過去も未来も見え方が変わります。「自分は〜な人間だ」「会社は〜なところだ」「人生とは〜だ」などなど、みんながそれぞれの見方でそれぞれの色の世界を生きています。それぞれの解釈で、それぞれの誤解と勘違いの中で生きています。
自分にとっては当たり前すぎて、かけていることに気づかないので、サングラスというよりコンタクトレンズに近いのかもしれません。それを別のものに取り替えると、世界の見方が違って見えてくるのではないでしょうか。そのためにも、Bさんの深夜に徘徊するというお話を聞いて、状況が許す限りまずは行動を変えてみることは本当に大事だと思いました。
「人は人にしか救えない」という言葉は、Bさんの体験を通して、ズシンと伝わってきました。この記事が、今、うまくいかなくてうつうつとしている誰かの心の変化に役立てば幸いです。
インタビュアー 織田昇