障害者が活躍するスゴい事例① 古本を販売せよ:NPO法人マイライフステーション協会の取り組み

障害の種類や程度によって、障害者が働くことができる仕事内容や職域、労働時間というものは大きく変わります。私自身は両足不自由な障害者であるものの、始発から終電までという仕事をこなしていました。それは自立歩行可能であり、パラリンピックを狙ったほどの体力があるからですが、同じように両足が不自由といっても、車いすでの生活を余儀なくされていたり、麻痺で自由が利かない状況であれば、私と同じような働き方を行うことはできません。
 

今日は、先日話を伺ったNPO法人マイライフステーション協会が進めた、重度の身体障害者や知的・精神障害者が活躍しているビジネスモデル「古本販売事業」をご紹介したいと思います。このビジネスモデルは障害者就労支援施設に実際に採用されているものです。
 

古本販売というと、ブックオフを思い出す方がほとんどではないでしょうか。本を買い取り、中古本を売るという分かりやすいビジネスモデルです。しかし、今回想像して頂きたいのは、amazonを利用して中古本を買うケースです。
 

例えば、商品が送られてくる際の梱包。あの梱包作業を障害者の手で行うことによって、障害者の仕事を生み出します。他にも品番管理や発注手続きといった作業を行います。amazonで中古本を買うときに示されるネット書店のナカノヒト(運営者)を障害者が行っていると考えれば分かりやすいでしょうか。
 

アマゾン中古本梱包

アマゾン新品梱包

 

販売する古本は寄付によって集めます。地域の方々や企業から寄付として古本を集め、本の汚れ落としやカバーかけを行い、分野別に仕分けを実施します。仕分けが完了すると、データを入力し、本を保管します。保管作業まで終了した時点でアマゾンに出品し、購入が決まれば、梱包し発送します。寄付して頂いた本は、一冊一冊すべて誰から寄付して頂いたものなのかをリスト化します。販売時には寄付者に報告し、御礼状を送ります。このフローで発生する細かいタスクのひとつひとつを障害者が主体的に実行し、ビジネスモデルとして成立させているのです。
 

古本回収事業:図説
 

寄付で本を集めることで買い取り時の金額査定が発生しないため、買い取り金を支払う必要がなく(手出し金がない)、査定という短時間で正確かつ効率的に行わなければならない仕事が発生しません。重度の身体障害者や知的障害者、精神障害者の場合、当日の心身のコンディションによって仕事を休まざるを得ない可能性が健常者と比べると格段に増します。このリスクを解消し、うまくコントロールするため、寄付で本を集めるという手段が効果を発揮しています。時間に縛られることなく、障害の程度や種類によって、仕事を適切に分担できることが大きなメリットです。現在では24の事業所がこの仕組みを導入し、月に60万円売り上げる事業所もあるようです。
 

この仕組みを取り入れている事業所というのは、冒頭でも述べた障害者就労支援施設です。障害が理由で、一般企業等で働くことが困難な人に、働く場を提供するとともに、知識や能力の向上に必要な訓練を行う施設のことです。この施設に通う障害者は、働いて成果を出してお金を稼ぐというのではなく、出勤する、与えられた仕事を1つでもいいから全うする、仕事を通じてリハビリを行うなど、それぞれの障害の状況にあったゴールがあり、ひとつひとつ目標をクリアすることに重きが置かれています。したがって、難易度の高い作業というよりは、単純作業であったり、作業単価が安い(ほぼない)作業が多かったりすることがほとんどなのです。
 

フリーマーケットなど街頭で障害者が出店すれば、販売機会が増え、売上が上がります。障害者が販売しているという特徴が付加価値になります。顧客と接点ができることで、販売する側の障害者のモチベーションも高まるかもしれません。また、寄付や販売といった機会を通じて、福祉に興味がなかった層へ、この取り組みをアプローチするきっかけにつながり、支援の輪の拡大も円滑になるでしょう。
 

ビジネスモデル自体は単純作業の組み合わせであるものの、多様な成果を生み出しています。古本販売は最近生まれた革新的なビジネスモデルではなく、古くからあるものです。障害者が活躍できる仕事は、世の中にあるビジネスモデルのタスクを分解し、ひとりひとりの障害にあった仕事を割り当てるだけなのかもしれません。障害者が社会に進出できず、法定雇用率を設定しなくてはいけない事実。これは単純に社会が仕事探しをサボっているだけなのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。