生まれつき食物アレルギーはあったものの、健常者としてどこにでもいるような普通の女の子として過ごしてきた私、伊藤ユカ。そんな私がある日、交通事故に遭ってから人生は一変。『頸髄損傷』によって車いす生活になりました。
生まれつき、アナフィラキシーショックを起こしたこともあるほど重度のアレルギーを抱えていましたが、育ってきた環境のためか、さほど『生きづらい』なんて認識はなく、「食べれないものは食べれない。食べたいとも思わない」という考えで、人並みに楽しく生きてきました。
得意科目は美術系。苦手科目はその他全般。嫌なこと、面倒なこと、そういったことからは極力逃げて、楽しいことばかり、楽な道ばかり選んできたような、そんな人間です。なんだかんだ言いつつも、専門学校まで行き、無事に就職しました。
そんな私はある日、交通事故に遭いました。私は250ccのビッグスクーターを運転していて、相手のいる事故でした。相手の方は無傷。そして事故に遭った直後の私の見た目も、顔に一筋のかすり傷程度で、綺麗なものでした。
ですが、体のなかは酷いもので、至るところがバッキバキに折れていました。ちなみに、愛車のビッグスクーターも見た目はそれほどでしたが走行不可状態になり、事故の日から一度も会えずに廃車となりました。
そんなことはさておき、深刻だったのはやはり首の骨を折り、神経を傷つけていたということ。結果的に私は『頸髄損傷』により、一生車いす生活となりました。
頸髄損傷のなかでも『完全麻痺』と『不全麻痺』があり、同じ位置を損傷していてもこの損傷具合で後遺症はかなりの差があります。私は『完全麻痺』。胸から下の体の感覚は無く、筋肉も機能していません。腕は動かせますが、残っている機能のレベルが違うので、左右の腕でもできることが違います。指は両手とも全く動かせません。握力0です。
事故に遭ってから障害についての話を主治医から受けるまでには、生死を彷徨う場面が何度かあったので、3か月くらい何も知らされずに過ごしましたが、「これはヤバイ状態なのかもしれない…」と、うすうすは感じていました。
そしてここから、今まで嫌なことからはすべて逃げてきた私の、逃げだしたくても逃げられない、リハビリの日々が始まったのです。
私の周りには、今でこそ障害をもった友人がたくさんいますが、健常者だった頃には全くいなかったと認識しています。かなり活動的な人間だったので毎日外には出ていましたが、どこへ行っても障害者を見たことなんてなくて、テレビなどで出てくる障害者なんて「本当にいるのか?」とすら思っていたくらいでした。
自分が障害者になって、初めて気がつきました。『いない』のではなく、『見えていなかっただけ』だったと。
別に健常者の私は、障害者に『迷惑』だとか『弱者』だとか、何の気持ちも抱いていませんでした。そう、本当に『何も』…。自分には全く関係のない世界だと思っていたのだと思います。そこが問題だったことに、自分がなってから気づかされました。
―ついさっきまで動いていたカラダが、一瞬の出来事で動かなくなる―
まさか自分がそうなるなんて、1%も考えたことなかった若かりし頃の自分。私はちょっと考えなさすぎでしたが「自分は平気だ」と思っている方は多いのではないでしょうか?
決して他人事ではないのです。
今の技術では神経の損傷は簡単に治せるものではありません。いつか治せる怪我になってほしいけど、私はその『いつか』を待ちつつ、このカラダでもできることを1つでも増やしていきたいし、楽しんで生きていきたいし、楽しそうと思われたい。そして、多くの方に認知してもらいたいし、同じ悩みを持つ方と情報を共有できたらと思っています。
頸髄損傷になる理由というと大半は何かしらの事故だと思うのですが、女性で頸髄損傷になって情報を発信している人って、ネットを駆使してもあまり見かけません。だから私も、同じ障害の女友達は少ないですし、やっと見つけても役立つ情報は今のところ入ってきません。だからこそ、待っているだけではなく、自分のことから発信しなければいけないんじゃないか、そう思いました。
例えば、障害者になってしまったからといってお洒落を諦めたくない気持ちもあるので、バリアフリーなファッションイベントなどには積極的に参加し、メイクやネイルも、動かない指を使って、工夫して自分でやっています。
障害者として生きていく上では『お洒落をする・身だしなみを整える』なんてことは必要ないことかもしれません。でも、ひとりの女性として生きていく上では必要だと思うし、それによってモチベーションも、周りに与える印象も大きく変わると思っています。
そもそも「頸髄損傷って何?」というところから、私がこの怪我を負って経験したこと、工夫したらできたこと、こんな出来事は辛かった…など、良いことも悪いことも綴っていければと思います。また、障害についてだけではなく、お洒落への工夫や悩み、そんなことも綴っていきたいと思います。
この場を通して、少しでも『生きづらさ』を抱えている方の力になったり、私の知らないもっと良い情報を教えていただいたりできる場になればと思います。