安定志向の私が起業して、借金してまで、新規事業をやり続ける理由

「安定志向だから起業する」
 

こう言うと違和感を覚える方が多いかもしれません。「安定」と「起業」は相反する言葉と感じる方も少なくないでしょう。
 

私は安定志向です。そして起業しました。今も新しい事業をつくっていますし、そのために金融公庫から借り入れもしています。世間一般の感覚だと起業したり借入したりというのはリスクかもしれません。私にとってもリスクです。しかし、あえてリスクをおかすのは、起業もせず借入もせずに働き続ける方がリスクは大きいと思っているからです。
 


 

カネなし、コネなし、商品なしでの起業という無謀なスタート

 

私が会社員を辞め起業したのは2012年3月のことでした。気が付けばもう7年が経ちます。資本金100万円は全額自己資金、それ以外に生活費として個人の貯金は100万円ちょっと。当時の自分にとってはこれが全財産でした。
 

起業した理由は「起業してみたかったから」。
 

今思えば、起業して何かをなしたいという強い思いがあったわけではなく、当時の私にとっては起業することそのものが目的になっていたのだと思います。
 

そんな状態なので見込み顧客なんていません。具体的に何を売るのかさえ決まっていませんでした。商品が決まっていない中でのスタートです。株式会社をつくったので”起業”ではあるものの、実際には”無謀な独立”といった方が正しいでしょう。
 

改めて気付いた「自分は安定志向だ」ということ

 

紆余曲折ありながらもなんとか会社として軌道に乗るまでに3年以上かかりました。
 

その間はアルバイトで食いつないだ時期もありました。知り合いから私募債という形で借金をしていた時期もありました。もう無理だから会社をつぶしてサラリーマンに戻ろうと考えたことも何度かありました。それでもサラリーマンに戻らなかったのは「自分はサラリーマンには絶対向いてない」と思っていたからです。
 

なぜ自分がサラリーマンに向いていないと思ったのかというと、自分の生殺与奪を会社に委ねている気がしたからです。
 

私は小さいころから心配性です。待ち合わせには30分以上早く着くし、旅行に行くときの荷物はいつもパンパンです。何か起きたときに対処できるような準備をしておかないと不安で仕方がないのです。
 

見えない不安は自分の人生においても同じです。独立して仕事がなくて極貧生活をしていたからこそ、将来もう一度極貧生活になったらどうしようなどと考えてしまいます。
 


 

人に自分のリスクを委ねるくらいなら後悔なく死んだ方がマシ

 

心配性な私は生殺与奪を会社に委ねるリスクが嫌でした。起業するのも会社に勤めるのも、それぞれにリスクがあります。私はこれからの時代は会社勤めの方がリスクが大きいと判断したので自分の事業を続けることにしました。
 

会社勤めのリスクが大きいと思った理由は大きく以下の3つです。
 

・自分の望んだキャリア形成ができるとは限らない
・時間的な拘束もあり柔軟なスキル習得が難しい
・一緒に働く人を自由に選べないことによるメンタル面のリスク
 

職種や勤務地を問わない人事異動がある会社では自分の望んだキャリア形成ができるとは限りません。業務が選べないので、自分が伸ばしたいスキルを必ずしも伸ばせるとは限りません。独立していれば、一時的に収入が減るなどのデメリットを享受すれば意外とどんな環境にも身を置くことは可能です。
 

最後に、一緒に働く人を自由に選べない。これが自分にとっては一番大きいリスクかもしれません。
 

人の好き嫌いが激しい私には、嫌いな人と一緒にいることのストレスは尋常ではありません。独立していればそういう人とは仕事をしなければいいだけです。もしかしたら多少収入が減るかもしれませんが、そのデメリットさえ受け入れられれば、嫌な奴と仕事をしないで済むならば、自分は喜んで収入減を選びます。
 

なにより、新卒の会社でメンタル的に破壊された経験のある私には、メンタル面の健康が保証されない環境に身を置くのは人生のリスクが大き過ぎます。
 

会社員をやらない最大の理由は結局「納得感」

 

もしかしたら、ここまで挙げたようなリスクがない会社もあるのかもしれません。それでも、自分は会社員には戻れない気がします。
 

会社員も起業もどちらもリスクがゼロになることはないからです。どちらもリスクがあるのなら、最後は納得感の問題。
 

仮にリスクが顕在化して失敗した場合、どちらが納得できるのかを考えると、自分の意思で決めた道で失敗したのなら納得はできますが、会社を信用して会社のために尽くしたうえで最後に会社から裏切られたのでは、きっと納得がいきません。だから会社員は嫌なのです。
 


 

安定を維持したいからこそリスクを負って挑戦を続ける

 

私は今も安定を求めています。自分の将来が安定するものなのかどうか不安でなりません。だからこそ、新しい事業にも挑戦しています。正直、会社をつくった直後に比べれば今は仕事も安定的にいただけるようになり、経済的にもそれなりに安定しています。ただ、この安定がいつまでも続くものだとは思えません。だから、今のうちに新しいことに挑戦しておきたいのです。将来が不安だからこそ。
 

今回、新規事業をつくるにあたっては国民生活金融公庫からの借り入れをしましたが、過去にも一度、新規事業のために借り入れをしています。その事業は成功したとは言い難いものの無事に返済しました。決して成功体験があるわけではありません。もしかしたら失敗するかもしれません。
 

それでも私は、今に安住するよりも新しいことに挑戦した方が長期的には安定すると思っています。
 

人によって思い描く「安定」は違うのでしょう。誰もが私のように「安定」をとらえる必要はありません。ただ、一見リスクの大きいことをしているように見える人でも、実は「安定志向」の人もいるなんてことを知ってもらえればうれしいです。
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。