「生きづらさ」から学ぶ「働きやすさ」 WorkDesignLab 倉増京平さん × Plus-handicap 編集長対談。

これまで「生きづらさ」に向き合ってきたプラスハンディキャップが、今後、どこを目指していくのか。
 

ミッションやビジョンの策定でお力を借りた、一般社団法人WorkDesignLabの倉増京平さんと「Plus-handicap」編集長の佐々木一成が、改めて「生きづらさ」とは何なのかを掘り下げながら「生きづらさ×働く」について考えました。
 

WorkDesignLab 倉増さん(右)とPlus-handicap 佐々木

 

集まってきた「生きづらさ」を企業に還元したい

 

佐々木:
まずは、倉増さんと出会ったきっかけを思い出したいと思います。
 

倉増さん:
プラス・ハンディキャップの理事、井上洋市朗さんが社会起業大学で行っていた体験講座に出たことがきっかけです。井上さんに「自分も生きづらさを感じることがあって…プラス・ハンディキャップ(以下、プラハン)に興味があります」と話したら、佐々木さんを紹介してくれたんです。
 

佐々木:
あれは2年前でしたね。ちょうどプラハンのコンセプト、ミッションやビジョンを再整理したいと思っていたタイミングでした。倉増さんはコミュニケーションデザインの仕事をされていたので、お力を貸してくれませんかってお願いしました。
 

倉増さん:
特に劇的な出会い!ってわけではなかったですね。
 

佐々木:
「あ、いいひとがいた」って感じでした(笑)。劇的な出会いをする人って、たいてい劇的な別れになりますし。
 

倉増さん:
わかります(笑)。一年ぐらいかけてプラハンの存在意義や方向性を言語化していきましたよね。あれから、プラハンはどう変化しましたか?
 


 

佐々木:
当時はまだ「生きづらさを抱えたひとが生きやすくなるにはどうすればいいのか」が存在意義だったような気がします。いまは「集まってきた知見を企業に還元する」ことにだんだんと変化してきています。一番広い範囲で言えば、社会に、になるんですけど。
 

倉増さん:
「企業に還元する」とは?
 

佐々木:
例えば、障害者の世界には「合理的配慮」という言葉があります。障害が原因で発生する困りごとに対し、できうる範囲で配慮するという意味で、企業では障害者社員への対応として義務づけられています。合理的配慮を受けるためには「障害を理由にこれができない」と周囲へ言わざるを得ないんですが、こういった発信ができる文化って結構良いんじゃないかなって思っています。
 

倉増さん:
なるほど。健常者だけの職場だと「弱み」ってなかなか言えないですよね。
 

佐々木:
「働きにくい職場」は、この「弱みが言いづらい空気」に起因するのかもしれないなと。障害の有無に関わらず「自分はコレができません」と言える職場だと働きやすくなっていくのではないかと考えたんです。障害者雇用の世界ではそれができているのに、一般的な職場だとなぜ?って。
 

倉増さん:
お互いができる範囲で弱みを補完し、協力しあう。たしかに「合理的配慮」が健常者の世界にも広まったら、企業は働きやすくなりそうですね。でも、弱みってなんで見せられないんでしょうね。
 


 

人はなぜ「弱み」を見せられないのか?

 

倉増さん:
自分も、昔から人の言っていることがわからなくて、置いてけぼりになることが結構ありました。人が話している言葉が宇宙語に聞こえてしまっているような感覚で「自分は言語の処理能力が低いのかな」と思っていました。
 

佐々木:
倉増さんは心臓の病気を患っていたこともありましたよね。
 

倉増さん:
あのときは「このまま死ぬのかな…」って思いました。そういう点で、自分の弱みを実感する機会が多かったのかな。失礼かもしれませんが、身体障害は弱みが自己認識しやすいと思うんです。身体を見れば「ない」ことがわかる。でも、発達障害のような特徴だと、違和感はあってもはっきりとした弱みがわかりにくいかもしれません。
 

佐々木:
たしかにそうですね。障害者って、自分の困りごとや弱みと向き合う機会って多いので、自己認識しやすい。
 

倉増さん:
機会が多いというのは?
 

佐々木:
たとえば、就職活動のとき、一般的な面接では「強みはなんですか?」と聞かれますよね。障害者雇用の場合だと「障害はなんですか?」と聞かれる。つまり「弱みはなんですか?」と聞かれるようなものなんです。いわば、健常者は企業に対して「can」が求められますが、障害者は「can not」のバランスを見られるんです。
 

倉増さん:
なるほど。健常者はそもそも「弱み」に向き合うケースがない。「強み」にフォーカスしたセミナーは多いですし、仕事でも「甘ったれるな」とできないことでもできるようになることが求められる。「強み」を意識する機会は多いけど、「弱み」を意識し、検証する機会は少ない。だから、興味を持ちづらいし、気づいても隠す傾向にあるのかな。
 


 

倉増さん:
ジョハリの窓ってありますよね。僕らが本当に知るべき自分の弱みって「自分は知らないけど、他人が知っている自分」に入っているんでしょうね。障害に起因するものは「自分が知っている」のどちらかの枠に入りそうだけど。
 

佐々木:
弱みにも、自分ではどうしようもない弱みもあれば、経験やスキルアップによって改善されていく弱みもあります。僕らがフォーカスする弱みは前者のほうです。働く上での障壁といったほうが適切かもしれません。
 

倉増さん:
働く上での障壁というのはどういったものがありますか?
 

佐々木:
ここまでの話では障害が一例になっていますが、病気もメンタルコンディションもそうです。妊娠・出産・育児もあれば、介護や家族の問題もあるでしょう。経験やスキルの不足も「不足している」という事実を素直に伝えることが大事で、それによって生まれる配慮があると思います。
 


 

倉増さん:
弱みというより、働きづらさを生み出す問題・課題といったほうがいいのかもしれませんね。
 

佐々木:
突然、脈略のない話なんですけど、バーベキューにいったときに、この野菜切ってきてくれない?って言われると、僕はめちゃくちゃイヤなんですよ。料理するのが本当にダメなので、野菜切るだけでも恥ずかしいし、絶対に厚さがバラバラ。火をおこす役目のほうがまだ助かる。仕事でいうところの弱みを見せる意味って、こういうことかなと。
 

倉増さん:
料理が苦手な人には、違う役割を振ったほうが、お互いにとってポジティブですね。
 

佐々木:
「will(やりたい仕事)」「can(できる仕事)」「must(やらなくてはならない仕事)」という3つの軸で自分の仕事を区切ったとき、willとcanに含まれる仕事が多いほうが楽ですよね。だからwillとcanを周囲に伝えることが大事だし、反対に「やりたくない仕事」「できない(苦手な)仕事」を伝えることも大事。もっといえば、willとcanを邪魔する存在が「働く上での障壁」ですよね。
 

will/can/mustのバランスは大事。

 

「弱み」をさらけだせる組織を増やす。

 

佐々木:
僕がいまプラハンでやりたいのは、生きづらさ指数みたいなのがあったとして、その指数が100の人が80ぐらいになったらいいなということなんです。いきなり「生きやすい!生きづらさ指数0!」に変わるのなんて難しいですけど、20点減くらいならできそうじゃないですか。
 

倉増さん:
そうですね。少しずつでも「生きやすい」に向かっていくのは良いですね。
 

佐々木:
これを個人の力だけではなく、個人が属している組織内でもできるようにしていきたい。合理的配慮のような考え方を企業に浸透させていきたいんです。これまでの組織は社員それぞれの強みを生かしていたと思うんですが、さらに弱みを補完し合える組織づくりをサポートしていきたい。
 

倉増さん:
「めっちゃ生きづらい」を「ちょっと生きづらい」に変える。組織で言えば「めっちゃ働きづらい」が「ちょっと働きづらい」に変わる。なんか面白いですね。
 

佐々木:
「それならできるかも」っていうカンジ。
 

倉増さん:
そう思えますね。具体的にどうしていくべきかは考えているんですか?
 

佐々木:
意識づけ・動機づけのきっかけしだいだなと思っています。今まで自分の強みは周囲に伝えることができていたなら、それを弱みの部分でもやってみる。管理職やプロジェクトマネージャーみたいな役割の人が「弱み」を見せていく。先ほど伝えた「働く上での障壁」のようなものです。
 

倉増さん:
うーん、なるほど。ただ、上司が率先して弱みを見せていくことは、簡単ではないと感じます。弱みを見せて、そこを突っ込まれたら痛いですよね?立ち直れなくなるかも。見せても大丈夫というセーフティネットが必要です。
 


 

佐々木:
倉増さんが実践している複業やパラレルワークって、そのセーフティネットなんじゃないかなと思っているんです。「ココがダメでも向こうなら」がある。「自立とは依存先を増やすこと」という東京大学の熊谷先生の有名な言葉があるんですが、個人的には自分の弱みを全員に全部受け入れてもらうのは難しいけど、多くの人にちょっとずつ受け入れてもらうのはどうでしょう?ってことなんです。
 

倉増さん:
先ほどの「めっちゃ生きづらい」を「ちょっと生きづらいに変える」と似てますね。
 

佐々木:
「弱みを周囲が受け入れる」ことは、寛容な職場につながります。強みは受け入れてもらいやすいけれど、弱みは受け入れてもらいづらい。でも、働きやすさは「周囲が各人の弱みを受け入れること」によってもたらされる。
 

倉増さん:
そう上手くいくかなあ…最初の一人目、ファーストペンギンが刺されたら周りも弱みを見せられなくなっていくんじゃないですか。博打になってしまう気がします。
 

佐々木:
たしかに、これは性善説的な発想ですからね。でも、弱みを刺すようなひとって、そもそも人としてダメなような気もするんですけどね(笑)。一緒に働いていて心地よいはずがない。とはいえ、ファーストペンギンのためのインセンティブを仕組み化しないとダメだと思います。
 

倉増さん:
自然発生しないならプランニングするという流れは大事ですね。ファーストペンギン、セーフティネットをパッケージ化するとか。
 

佐々木:
そのサービス、その商材を作っていくことが、これからのプラハンの屋台骨になるんじゃないかなと思っています。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

Plus-handicap 取材班