障害者雇用を進める地方企業の前にそびえる3つの課題ー長野県松本市 障害者雇用セミナーレポート

2018年11月に長野県松本市で開催された障害者雇用セミナーには、会場規模いっぱいの企業(約30名)が参加し、障害者雇用に対する意欲、そして採用と戦力化に対する熱意が感じられました。
 

障害者雇用がうまくいっている企業もあれば、なかなか採用できない、どのような仕事を任せればいいか判断が難しいといった課題を抱えている企業、これから取り組もうという企業もあり、参加企業の状況はさまざまでした。
 

講師として登壇した株式会社綜合キャリアトラストの戸谷さんの講話や当日参加した方々の声などから、障害者雇用を進めていきたい地方企業の前にある3つの課題をまとめました。
 

障害者雇用セミナーの様子

 

車で通うことができるのか。交通手段の課題。

 

セミナーが開催された長野県という立地上、交通手段としてまず選択されるのは自家用車です。電車で通勤することも可能ではあるものの、自宅から最寄り駅の間、職場から最寄り駅の間と、その区間はまた違う交通手段が必要となります。
 

通勤時間帯に、ホームで待ってさえいれば、矢継ぎ早に電車が来る首都圏とは違い、電車の本数が限られている地方部でいえば、出勤・退勤時のちょうどいいタイミングに電車が来るかどうか難しいところですし、1本乗り遅れれば、大幅に時間が遅れてしまうことも想定されます。
 

また、障害者は、障害の種類や程度によって、自動車運転免許を取得できないこともあれば、取得できたとしても判断能力等の状態からオススメできない場合があります。家族など別の誰かの助けを借りることも想定できますが、通勤の不自由さは残ってしまいます。
 

免許をもっていない(車の運転ができない)障害者が一定数いることによって、採用できる母集団が必然的に少なくなってしまう。これは一番の課題であり、首都圏ではクローズアップされにくいテーマといえるかもしれません。
 

セミナーの講師を務めた綜合キャリアトラスト 戸谷さん

 

人を介するマッチングをどう活かすか。採用ルートの課題。

 

「WEBを介して企業を探す機会は、首都圏と比較すると格段に減ります。基本的には、求職者の皆さまは支援者の方々とともに企業を探します。企業は、どれだけ支援者の方々と関わりを持てているかによって、採用活動の幅が広がり、また、障害者雇用に対する理解や意欲が変わってきます。求職者側は、支援者の皆さまとつながっていることで、企業の情報や考え方などを得られる量が大きく変わります。」

 

そう語ってくれたのは、セミナーで講師を務めていた綜合キャリアトラストの戸谷さん。
 

そもそも、新卒採用や中途採用のマーケットと比較すると、WEBサービスが充実しているとはまだまだ言いづらい障害者雇用のマーケット。
 

企業と求職者の間に介在する支援者の方々に雇用の成否がかかっているのであれば、どこまで“つうかあの関係”が築けるのかが肝。これは求職者と支援者、企業と支援者のどちらの関係性にも言えることです。
 

企業にとってありがたい支援者を見つけられるかどうか、支援する求職者を紹介したいと思える企業づくりができるかどうか。支援者を介して障害者雇用を進めるという選択肢をとらざるをえない状況ならば、その重要度・緊急度は高まります。
 

ただ”支援者頼み”の障害者雇用が広がると、良くも悪くも支援者の方々のさじ加減になってしまうと筆者としては懸念しています。支援スキル、経験値、価値観、人間性など、地方部のほうがより幅広く求められるのではないでしょうか。そして、地域の支援者同士の連携や資質の向上がより重要になるのではないでしょうか。
 

ワーク中の様子

 

仕事を切り出すのではなく、仕事を増やす。職域の課題。

 

セミナーの折、自社で障害者社員に任せられそうな仕事や作業を整理する時間がありました。
 

シュレッダー作業ならできるかも!社用車の洗車とかはどう?といった回答が挙がっていましたが、当日の特徴としては「今の職場にある仕事の中から探す」というものでした。今ある仕事は、すでに社内の誰かがやっている場合は、障害者社員を雇用すれば、その業務を担っていた方は別の仕事に異動することになります。
 

もちろん、担当者が違う仕事に専念できるといったメリットがあればいいですし、外注していた仕事の場合はそのコストが抑えられます。しかし、そうでなければ「数合わせに雇っているだけ」という単純な法令遵守目的の雇用にしかなりえません。
 

「本当はやりたいのだけど、誰も手を付けられていない仕事」「重要だけど緊急ではない仕事」「障害特性的に向いているのではないかという仕事」といった観点から、仕事をつくる・増やすという発想で考えると、障害者雇用の有用性が増します。
 

セミナーでの回答の特徴から見出したことなので「地域性」に当てはまるとは言いづらい点ではありますが、この発想はひとつ提案しておきたいところです。
 

株式会社 綜合キャリアトラスト(サイトのスクリーンショット)

 

障害者雇用は「新しく取り組む」時代へ。

 

交通機関、支援者経由の採用、任せる仕事の選定といった課題の中で、交通機関は地域性が特に色濃く出るもの(首都圏でいえば満員電車)ですが、それ以外の課題は全国共通しているとも言えるでしょう。
 

しかし、例えば、自宅で働けるスキルを有した障害者求職者を、WEB経由で採用し、自社では取り組んでいなかった在宅就労の取り組みを進めることにするとしたら。上記の3つの課題が課題ではなくなるかもしれません。
 

従来の採用スタイルはそのまま走らせておいたとしても、障害者雇用への新しい取り組みを始めなければ、自社にフィットする障害者人材を雇用することはどんどん難しくなっていくでしょう。水増しが発覚した公的機関が一気に障害者を雇用しようと動き出せば、なおさらです。
 

障害者雇用を単なる義務と捉えるのではなく、新しい仕事・働き方への契機と捉えることが、巡り巡って採用力の強化につながるのではないでしょうか。テンプレート的な障害者雇用ではなくなるため、障害者社員の働きやすさにもつながるはずです。
 

(今回の取材先)
株式会社 綜合キャリアトラスト
東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービルディング8階
http://socat.jp/corporate/

※上記リンクは、綜合キャリアトラスト社の障害者雇用における企業向けサービスの紹介ページです。
 

ライター:佐々木一成
 

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この記事を書いた人

Plus-handicap 取材班