2016年8月28日(日)畿央大学(奈良県)にて開催された『なんとカンファレンスゴールデン』。夏休み最後の日曜日に120名あまりの人が「奈良の障害支援をなんとカしたい」というコンセプトのもとに集まりました。
なんとカンファレンスってそもそもどんなイベント?
奈良における障害支援を『なんとカ』したい!という思いで始まった”なんとカンファレンス”ですが、元々は別の障害支援に関するカンファレンスで集まった、奈良県に所縁のある研究者や特別支援学校の教師、支援技術に関わる支援者、発達障害がある当事者とその家族が集まり、意見交換会を開いたところから始まりました。
その意見交流会に参加したメンバーを中心に”なんとカンファレンス”実行委員会が結成され、2012年10月に『なんとカンファレンス1st』が開催されたのを皮切りに、今回を含め計6回のカンファレンスが開催されました。
今では日本全国からゆるく障害支援の未来について考え、つながっていこうと参加していただくまでのイベントになりました。参加される方も障害支援に直接関わる方はもちろん、障害支援に直接関わらない人も『何かおもしろそうだ』言ってと参加されていたのが印象的でした。
「困り」が主役の支援なんて、もういらないのでは…?
写真のチラシを実行委員会から受け取ったとき、私は「困ってるから支援するんちゃうの?」と心の中でツッコミを入れました。
前回(なんとカンファレンス4th)で皆さんに案を出してもらって気がついたんです。困りの先にある楽しさを実現できる支援を求めていることに。
オープニングで村瀬直樹実行委員長(奈良県立明日香養護学校教諭)が投げかけられた言葉に合点がいきました。
私も参加させていただいた前回の『なんとカンファレンス4th』では、障害支援に関して一緒に考えていくことを忘れていたのではないかという気づきから、今回の『なんとカンファレンスゴールデン』で何をやるか参加者全員で企画を立てていくという企画が実施されました。
「障害特性を体験してもらえるおばけ屋敷なんてどう?」
「いきなりフラッシュモブやって予想外のことがどれだけアタフタするか知ってもらおうよ。」
前回のワークショップは非常に楽しかったのですが、それは、楽しみながら障害を理解してもらおうというポジティブな啓発について考えることが出来たからだと思います。困り感を解消するだけの支援を障害者は求めていないということの表れではないかと考えます。
『モチベーション支援』という発想
さて、今回のなんとカンファレンスゴールデンのオープニングに話を戻します。オープニングの中で『モチベーション支援』という言葉が出てきました。この言葉は実行委員会が提唱してきた言葉です。
「モチベーション支援」を「やりたいことをやると思い続けられるようにするための支援」だと私は捉えました。
障害のある人は困り感を解消してほしいと思うことは多々ありますが、それと比例して、やりたいことを実現させたいと願っています。
例えば、障害特性が邪魔をして仕事が長続きしない傾向の方が、転職して長く働きたいと言っていたとします。困り感だけを支援するのであれば、就労をメインとした支援を考えますが、そこに「なぜ」長く働きたいのかという動機に対する支援がうまく組み込まれなければ、相手はモチベーションが保てず、困り感が拭えないまま、転職を繰り返すこともあります。
実際、私も動機に対する支援がなかったときは、しんどいことがある度に転職を繰り返していましたが、スーパーマーケット勤務の際、上司から「ここでどんなことをやっていきたいんや?」と聞いてもらえて以来、仕事にやりがいをもち、長く働けるようになりました。これからは「何か実現させたいという気持ち」を大事にしてもらえる支援がトレンドになるのではないか。そんな予感がオープニングから感じられました。
オープニングまでの内容だけでも、とてもとても濃いもの。午前中の内容までまとめているので、もう少しお付き合いください。
合理的配慮とモチベーション支援
午前中は実行委員会による公開生ミーティングが行われました。
写真左上から
・松谷真由美さん(一般社団法人無限・LD児の母)
・村瀬直樹実行委員長(奈良県立明日香養護学校教諭)
・小川修史先生(兵庫教育大学准教授)
・松谷正大さん(一級建築士・LD児の父)
・赤井伸充先生(奈良県立明日香養護学校教諭)
公開生ミーティングでは『子供達の困りについての情報共有』『モチベーションについて考えてみる』という二つのテーマが話し合われました。
前半の『子ども達の困りについて情報共有』では、村瀬直樹実行委員長がとある番組の話をされていました。視覚障害者の方が散歩していると、道に迷っていると勘違いされて「案内しましょうか」と声をかけてくるという話。「あてもなく散歩をするのが趣味なんですけど、ウロウロしてるとどうしても先入観で困ってると判断されてしまうんでしょうね。」視覚障害者のカップルがインタビューにこう答えたそうです。
親切で声をかけたとしても相手が困っていなければ配慮とは言えず、お節介と受け取られることもあるのだと認識させられました。これはなかなか難しいことです。
後半の『モチベーションについて考えてみる』では、最初に小川修史先生が『天職三大要素』を挙げ、どうすれば相手のモチベーションを保てるような支援ができるのか話し合いました。
仕事にのめり込んでいるとき、人よりできる仕事があるときは、苦にならずにいい仕事が出来るけど、苦手な仕事のときはどうすればいいのか…。
私がそう考えているとき、松谷真由美さんが息子さんの危険物乙四種受験のきっかけを話しておられました。彼は中学二年生のときに受験し、合格したそうなのですが、人と関わるのが面倒と思っていた息子さんが戦車に興味を持ち、同じ趣味を持った人と繋がりを持とうと行動している中で受験を志したそうです。
松谷さんの息子さんは学習障害があり、文字を書くのが極端に苦手です。勉強するモチベーションをどうやって保ったのだろうと疑問に思っていると、「子どもの興味のあることを聞いてくれる親がいてるかどうかで、モチベーションが違ってくるのでは?」と松谷さんは話してくださいました。
松谷さん夫妻は学習障害のあるお子さんのために、普段からタブレットに教科書をスキャンするなどの学習支援をされています。文字が自分の手で書けなくても学習できる環境を整えることで、学習に対するモチベーションを保つことができる支援に繋げているのだなと感じました。
・『モチベーション支援』をするには、困り事そのものを楽しむ姿勢が必要
・困り事に固執して支援するのではなく、障害のある方の楽しみにつながる支援を考える必要がある
公開生ミーティングを通して私が感じたことは、この二点です。
合理的配慮が叫ばれる昨今、困り事だけに焦点を当てた支援は支援する側にとっても、支援される側にとってもお互いに精神的な負担を強いる結果になると私は考えます。困り事そのものを楽しむ姿勢が『モチベーション支援』なのかなと思いました。
ここまででもイベントの半分しか紹介できておりません。明日の記事に続きます。お楽しみに!