世の中の経営者はみんな、本音と建前を使い分けながら経営をしているものだと思っていました。株式会社セブンコードの代表である濱野氏に会うまでは。
濱野氏と知り合うきっかけは、ニュースアプリで見つけた「『他社で新人教育を受けて社畜に成長したら入社』自称ブラック企業が『カッコウ採用』をスタート」という記事。私がSNSでシェアしたところ自称ブラック企業の社長である濱野氏が絡んできてくれたのです。
カッコウ採用とは、内定後に別の会社で15ヶ月以上働いたうえでセブンコードに入社するという仕組みです。鳥のカッコウが他の鳥の巣に卵を産んで育ててもらうように、他の会社で社会人としての必要な教育を受けてきてくださいということなのですが、濱野氏は「立派な社蓄に育ってから入社してほしい」と語ります。
私の知り合いでも似た仕組みをアイデアとして考えている人はいました。会社説明会で「うちはブラック企業かもよ」という人もいます。でも、ここまで大々的に「ブラック企業です」「社蓄募集」という会社は他にはないでしょう。
ブラック企業と名乗ることで条件が悪くても採用応募数は多く、ITベンチャーとして採用には成功していたという濱野氏ですが、新卒で入社してくる大学生に対しては怒りを感じていたそうです。
「自立してないんですよ。ベンチャー企業で働きたいと言ってうちの会社に入ってきたのに、辞める時には公務員になりたいとか言っちゃうんですから。自分でやりたいことをできる環境をつくる力がないんでしょうね。」
新卒は採用してもほとんど辞めてしまう一方で、中途採用の定着率は高く、戦力になっているのだとか。
「大手企業から転職してきた人は活躍しています。大手だと上が詰まっているから出世のスピードが遅いというのを感じてベンチャーに転職した人は戦力になっています。」
経営者の中には新卒採用をしていることを誇りにしている方もいます。「新卒採用が成功のカギだ」と講演している人もいます。しかし、濱野氏は否定します。
「自分が創業した頃の先輩経営者は新卒採用で成功した会社が多かったのは事実ですが、最近は聞きません。10年くらい前の成功モデルを今追っても成功できるわけがない。そもそも新卒にも給料を払っているのだから、会社に新卒を教える義務はありません。だからうちは教えないことにしました。」
セブンコードでは利益の半分以上を採用や教育に投資していた時期もあったそうですが、うまくいかず「教えない」という結論に至ったのだとか。育てないことを決めた濱野氏ですが、人材育成においてはベンチマークにしている企業があるといいます。
「人材獲得・育成の最強は吉本興業ですね。芸人養成の講座で学びたい人からお金を払ってもらい、力がつけば自社の戦力として活躍してもらうという仕組みです。入学者の半数が1年で辞めるそうですが、受講者からお金をもらっているから会社としては痛くありません。」
濱野氏自身は大学を1年生で中退しているため、学びとお金の関係についても持論を持っています。
「みんな、お金を払わないと学べないと思っているんですよ。だから会社からお金をもらっているのに自分で学ぼうという意識がない。大学4年間が人間を腐らせていると思いますね。4年間という時間と学費の500万があればやりたいことなんてほとんどできるのに、大学に行く意味なんてないですよ。自分が大学に行って良かったのは、大学に入ったから大学を批判できることくらいだと思っています。」
カッコウ採用をブラック企業だ、おかしいと批判する人は今後出てくるでしょう。でも、私はアリだと思います。
ブラック企業という言葉が使われるようになってから、なんでもかんでもブラック呼ばわりして批判する人が増えました。セブンコードがブラック企業なのかどうか、私にはわかりません。そもそもブラック企業なんてものがこの世に存在するのかどうかもわかりません。
ただ、ブラック企業を糾弾するよりも、自分の環境を自分で切り開く力を身に付ける人が増えることの方が、みんなが生きやすい社会になるはずです。