「何がしたいかわからない」ーその希望を奪ったのは誰だ?

精神科病院に入院している患者さんの中には、入院期間が長期にわたる人が多くいます。私が受け持つ患者さんの中にも、20年を超える長い月日を病院で過ごしている人もいます。そんな患者さんに「これから何がしたい?」と問うと「わかりません」と答えることも多いです。
 

彼らから、人間らしい望みを、希望を、奪っていったのは誰なのか。それは他でもない、病院そのものなのかもしれません。
 

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廊下に響く鍵の音

 

「カチャン」ーーー
 

廊下に響き渡る、無機質な音。1日のうちに何回も聞く、病棟の扉の鍵をかける音です。
 

病状の安定した一部の患者さんは、自由に出入りできる病棟(開放病棟と呼んでいます)にいて、散歩や売店での買い物など自由に病棟を出ることができます。しかし、閉鎖病棟といわれる鍵のかかる病棟には、病状の良くない患者さんが多く、許可がないと外へ出ることができません。
 

閉鎖病棟では、基本的に1日のほとんどを病棟内で過ごすことになります。携帯電話など娯楽になるようなものも、場合によっては持てないことも多いです(持ち込み禁止となるものは、病院や病棟によって異なります)。
 

長い長い1日という時間を、病棟という閉ざされた空間でしか、過ごすことができないのです。
 

病院で過ごす、変化のない毎日

 

病院内での生活は、毎日単調なものです。
 

朝起きて、朝食をとって、体温などを測って、お風呂に入って、昼食を食べて、ゴロゴロして気がついたら夕方で、夕食をとって、寝て…という繰り返し。日によっては医師の診察や作業療法プログラムがあったり、というくらいです。自由に外出できませんから、毎日、毎週、毎月、いつもいつも変化のない生活。季節を感じられるのは、窓の外から見える景色だけ。
 

楽しみは?と聞くと、だいたい「作業療法の時間」か「おやつの時間」、あるいは「ない」と答える人が多い印象です。
(※私が勤める病院では、15時頃におやつを食べる時間が設けられています)
 

作業療法で行っているプログラムが、自分に合うものであれば良いのですが、興味のないものばかりだと楽しみにはなりません。そうなると、食べることくらいしか楽しみがないのです。食にも関心がない人は、入院中の楽しみを作ることもできないまま無為な毎日を過ごしていることも多いです。
 

ただ、寝て起きて食べて、という毎日。この中で、どうやったら自分の将来へ希望が持てるでしょうか。ただ時間を持て余している中で、悪い考えばかりがぐるぐると回ってしまう、そんな人もいるんじゃないかと思います。
 

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医療従事者ができることとは

 

私たちスタッフとしても、できることはしているつもりです。けれど、すべての人に毎日ゆっくりと話を聞く時間をとったり、退院後のプランをじっくりと考えたりといった十分な時間をとることができないのが実際の現状。
 

人が少ない、時間がない…たくさんの制約がある中で、十分な関わりができないことも多くあります。それが望ましくないことだとは分かってはいるのですが、どうしようもない現状が、そこにはあるのです。
 

スタッフに心の余裕がなくなれば、それは患者さんへも伝わってしまいます。何かあっても「忙しそうだから話せなかった」「自分でどうにかしようと思った」と言った理由で、自己流で乗り切ろうとする患者さんもいます。その結果、無理をしてしまって調子を崩してしまう…といった状況になってしまうこともあります。
 

きちんと治療するために、ちゃんと病気と向き合うために入院してくる患者さんたち。私たちも、薬を飲んでもらうことや日常生活の援助をすることだけではなく、もっと違った関わりができれば、この現状を少しは変えられるのではと思えてなりません。
 

不安を訴える患者さんに、もっと長く寄り添う時間がつくれれば…
社会になかなか戻ることのできない患者さんに、少しでもできることを伸ばせるような関わりができれば…
もっと気分転換になるような時間をつくることができれば…
そんなふうに感じても、現実にはうまくいかないことも多いです。
 

閉鎖病棟という閉ざされた空間で、患者さんが一番接するのは、私たち看護師です。最もそばにいる私たちが苦悩を抱えてしまうような現場で、果たして心の病を本当の意味で回復することができるのか。私のこの疑問が解決されるのは、まだまだ先になりそうです。
 

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