入試も定期試験もない学校?都立高校の新たな仕組み

「大学のAO入試や推薦入試が増えたので、最近は履歴書で大学だけでなく出身高校を見るようにしています。」
 

そんなことをドヤ顔で言う人事の方に会ったことがあります。でも、ちょっと待ってください。今の高校の実態を知っていますか?あなたの高校時代を前提に考えていませんか?
 

特に公立高校の入試制度は新しい試みが多く行われていますし、統廃合が進んで学校名が変わっているケースもあります。また、偏差値も時期によって変動があるのも事実です。そこで今回は、一時期の不人気、不振から復活したといわれる都立高校の取組みについて紹介します。
 

入試なし、定期試験一切なしの都立高校

 

東京都が平成15年度から始めた「エンカレッジスクール」に指定された学校では入試も定期試験もありません。入試なしでどうやって入学者を選抜しているのかというと、調査書や面接、小論文などを課しています。入試の方法自体は大学のAO入試のイメージに近いかもしれません。その他、東京都の教育委員会が発表しているエンカレッジスクールの特徴は以下の通りです。
 

・30分授業の展開⇒国、数、英を中心に集中して学習
・1学級2人担任制⇒一人一人に目が届くよう1クラスを2人の担任が指導
・習熟度別少人数授業 ⇒国、数、英を中心に学習進度に応じた少人数授業を展開
・豊富な体験学習や選択授業⇒午後は体験学習や選択授業を中心とした展開
・生活指導の徹底 ⇒生活指導の徹底により、学校の落ち着きと活力を醸成
・学力検査によらない入学者選抜⇒調査書、自己PRカード、面接、小論文、実技で合否決定
 

入試や定期試験がないからといって、ゆるゆるというわけでもなくて、生活指導は厳しめのようですね。
 

エンカレッジスクールは以下の通りです。
・足立東高等学校
・秋留台高等学校
・練馬工業高等学校
・蒲田高等学校
・東村山高等学校 ※東村山高等学校はエンカレッジスクールですが定期試験があります。
 

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内申点オール1でも関係なし。内申書不要入試の高校

 

入試がないだけではなく、内申書(調査書)の提出すら不要な学校もあります。都立高校の中では「チャレンジスクール」と呼ばれる学校です。入学者選抜は面接や志望申告書などをもとに行います。この学校の特徴は昼間定時制というシステムをとっている点です。1部~3部までクラスが分かれており、イメージとしては1部の生徒は午前~午後に授業を受ける、2部の生徒は午後~夕方、3部の生徒は夕方~夜間で授業を受けるというイメージです。
 

定時制なので4年間で卒業するのが通常のカリキュラムですが、単位制のため、授業を履修すれば3年間での卒業も可能ですし、必修科目以外は自分の好きな授業を取ることができます。東京都は「中学での不登校経験者や高校の中途退学者を対象としている」と断言しているので、単純に成績が悪いとか勉強が苦手な子とは対象が異なるようです。
 

チャレンジスクールは以下の通りです。
・大江戸高等学校
・世田谷泉高等学校
・桐ケ丘高等学校
・立六本木高等学校
・稔ヶ丘高等学校
・八王子拓真高等学校(普通課とは別にチャレンジ枠あり)
 

ちなみにチャレンジスクールの場合、同じ学校の中であれば1部、2部、3部のすべてを同時に受験することができます(志望順位は出願時につけること)。例えば、絶対に大江戸高校に行きたいと思えば「第一志望1部」「第二志望2部」「第三志望3部」と記入することもでき、1部の合格最低点に届かなくても、2部の合格最低点に達していれば2部の生徒として入学できます。
 

20150701写真③
 

不登校でも名門校に進学できる?都立の特別選考

 

内申書がなくても受験できる学校があるのはわかったけど、勉強はばっちりできるのに不登校になった子はやっぱり進学校は諦めなきゃいけないの?という意見の方もいるかと思います。ズバリ、名門校にも行けます。
 

都立高校は学校独自で入学者の1割~2割の人数分「特別選考」という枠を設けることができます。特別選考の内容も一定の範囲内で自由に決められるようで、進学校の場合は入学定員の1割を「当日のテストのみ」で評価するとしている学校が多くあります。つまり内申点がオール1だろうが、調査書に「こいつは最悪です」と書かれていようが関係ないということです。
 

「テストのみ」の特別選考をやっている主な学校は以下の通りです。
・日比谷高等学校
・戸山高等学校
・両国高等学校
・小松川高等学校
・西高等学校
・武蔵野北高等学校
・立川高等学校
・国立高等学校
 

公立高校の東大合格者数全国1位の日比谷をはじめ、かつての学区制で地元のトップ校といわれた学校の多くが特別選考を実施しています。地域的にも東京の東側~西側まで網羅されているので、地元の学校に行きたいという人のニーズにも対応できそうです。内申点が悪いからって諦める必要はないということですね。ただし、特別選考は次の入試から廃止されるという話も出ています。正式発表はまだですが、個人的には残してほしい制度です。
 

都立高校以外でも、埼玉、神奈川、大阪ではチャレンジスクールやエンカレッジスクールに近い取り組みをされています。また、都立高校はここ最近は人気が高い傾向にあり、開成高校と日比谷高校に合格しても日比谷に進学するケースもあるそうです。ちなみに私の母校(都立高校)は、かつては地元の名門だったのに私が入学する頃は定員割れ(名前を書けば入れる)状態でした。
 

自分の受験や、家族の受験が終わってしまえば、興味を示す機会なんてほとんどない高校入試の仕組みですが、時代に応じた変化を遂げています。チャレンジスクールやエンカレッジスクールが登場した背景には不登校の問題もありますが、経済的に私立高校には通えない生徒が多いという貧困の問題も関係しています。
 

時代や地域の社会問題が反映される鏡として公立高校の仕組みを調べてみると、まだ知らぬ生きづらさにぶつかりそうな気がします。
 

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この記事を書いた人

井上洋市朗

「なんか格好良さそうだし、給料もいいから」という理由でコンサルティング会社へ入社するも、リストラの手伝いをしてお金をもらうことに嫌気が差し2年足らずで退職。自分と同じように3年以内で辞める若者100人へ直接インタビューを行い、その結果を「早期離職白書」にまとめ発表。現在は株式会社カイラボ代表として組織・人事コンサルティングを行う傍ら、「生きづらい、働きづらい環境を変える方法」についての情報発信を行っている。