私達はいかにして外国人と共に生きるか。「非正規滞在外国人問題」が問う、これからの日本社会のあり方

「日本人、特に日本政府は、外国人が日本に遊びに来るのは歓迎するけど、日本に住むのは歓迎しません。でも、外国人はロボットじゃないんです。人間には感情があるので、行きずりのパブでフォーリンラブしちゃうカップルもいるかもしれないし、何があるか分からないわけです。人間がやって来る以上、『日本楽しかった!グッバイ、ジャパン!』って帰っちゃう人ばかりじゃないと思うんですよね。」
 

左)ボランティアとしてAPFSを支える小野晴香さん 右)APFS代表理事の加藤丈太郎さん
左)ボランティアとしてAPFSを支える小野晴香さん 右)APFS代表理事の加藤丈太郎さん

 

時に真面目に、時にユーモラスに日本の非正規滞在外国人の現状について話しをしてくれたのは、加藤丈太郎さん。日本在住外国人への支援活動等を行う特定非営利活動法人ASIAN PEOPLE FRIENDSHIP SOCIETY(以下APFS)で代表理事を務め、日本で生活する外国人のために日夜奔走している。
 

現在、外国人が日本に滞在するには何がしかの「在留資格」が必要で、在留資格がない、あるいは在留期間を過ぎたまま滞在している外国人は、非正規滞在者、俗に言う「不法滞在者」となる。メディアでは「不法滞在者」という言葉で彼らを表すことが多いが、APFSでは「犯罪」などのイメージと結びつきやすい「不法滞在者」ではなく、「非正規滞在外国人」という表現を用いている。2015年現在、日本に住む6万人の非正規滞在外国人のひとりひとりを見てみれば、そこには子を持つ父親や、日本で生まれ育ち、日本人と一緒に通学する高校生など、日本社会でごく普通に生活を営む人達がいるからだ。
 

90年代から現在まで 外国人受け入れの変遷

 

日本には、現在27種類の在留資格があり、それぞれに在留期間が定められている。例えば、短期滞在(観光)であれば、最長90日、留学ならば最長4年3ヶ月の在留が認められる。なお、日本で働くためのいわゆる「就労ビザ」は、医療、研究、法律など、高度な知識や技術を要する分野に限定されており、建設現場やコンビニで働くために就労ビザを得ることはできない。
 

「日本の非正規滞在外国人数は1993年の30万人がピークでした。当時は、外国人登録人口が120〜130万人ですから、街を歩いている外国人の5人に1人がビザを持っていない非正規滞在者ということになります。バブル崩壊以前、外国人は貴重な労働力だったんです。日本政府も、ビザが切れた外国人に対して見てみぬふりをしていたところがありました。」

 

そんな「グレーゾーン」が狭められ始めたのは、2003年のこと。2001年9月11日に起きた米同時多発テロを受け、03年から08年までの5年間で非正規滞在外国人を半減する政策がとられた。03年時点で22万人いた非正規滞在外国人は、09年には11万人まで減少した。
 

「恐ろしい話ですが、テロの影響でなんとなくイスラム教の人が怖いという風潮が出てきたんです。ターミナル駅には警察や入国管理局の職員がいて、肌が褐色の人たちを片っ端から捕まえていく。疑わしきは捕まえてしまおうということですね。」

 

肌の色が褐色だから疑われるー。それは、加藤さんが大学時代、ロンドンに留学したときに感じた違和感とも通ずる。
 

「ロンドンは多民族の街ですが、トイレでお金を集める仕事をしている人は、十中八九肌が褐色で、金融街を闊歩しているのは十中八九白人。僕がホームステイしたのはアフリカ系移民の家庭でしたが、その家の息子さんは、高校を卒業してディズニーストアの売り子さんの仕事をしていました。一方、僕は大学に進学して語学留学までしている。出自によって将来が決まるというのはどういうことなんだろう?と疑問を抱いたわけです。」

 

APFSの活動を通じて、当事者や支援者の方々と直接関わることで、支援の重要性が理解できたと語る小野さん
APFSの活動を通じて、当事者や支援者の方々と直接関わることで、支援の重要性が理解できたと語る小野さん

 

非正規滞在外国人支援の実状

 

そんな疑問が元になって、非正規滞在外国人支援に足を踏み入れた加藤さん。血統主義を採用している日本では、オーバーステイ(超過滞在)の両親から生まれた子どもは、生まれたその日から「非正規滞在外国人」となる。社会保障を受けられない、行動制限があるなどの不自由を抱えながらも、小学校・中学・高校と進学するが、ある日突然、入管法違反で強制退去を命じられる可能性が常につきまとう。申請の結果、日本で生まれ育った子どもは在留資格を得られたものの、両親は強制退去を命じられ、親子がばらばらになるケースも少なくない。
 

そんな現状に対し、APFSでは、非正規滞在外国人家族の在留資格獲得のための支援会立ち上げや、地方議会・国への陳情、当事者の実状を社会に伝えるためのワークショップや街頭パレードなど、様々な活動を行っている。しかしながら、「なぜ不法滞在者を支援するのか?」という世間の疑問は根強い。日本に国際協力団体は数あれど、日本在住外国人を支援する団体が少ないのは、その疑問の現れとも言えそうだ。社会の関心は低い。助成金も出ない。そんな状況でも加藤さんやAPFSのスタッフが支援を続けるのには、日本社会の抜き差しならない現状がある。
 

「私たちは、非正規滞在を正当化するつもりはありません。ただ、本当に非正規滞在外国人の問題は、当事者だけの問題なのでしょうか?非正規滞在外国人は、これまで社会保障も何もない状態で、労働力の調整弁として使われてきた側面があります。経済格差、労働需給といった非正規滞在者を生み出す社会構造そのものに目を向けなければならない。個人が入国管理法を違反したことを責め立てる近視眼的な方法では、非正規滞在の問題はいつまでたっても解決しないんです。」

 

問題は解決しないどころか、日本で働く外国人は増加傾向にある。政府は、オリンピックや東北の復興事業で不足する建設業界の人材を補うために、外国人技能実習生の受け入れを拡大。3年間の技能実習に加え、「特定活動」という名目で、2年もしくは3年の在留資格を認めるのだ。この措置により、7万人分の労働力が確保できるとしている。
 

「でも、オリンピックまで5年間日本で働いた外国人が、5年後に全員帰国するでしょうか?滞在中に地域とのつながりが出来て、ましてや子どもが生まれたりしたら、彼らはまた非正規滞在者にならざるを得ない。先進諸外国では、外国人と同じ住民としてどう一緒に生きるのかという移民政策がありますが、日本には出入国管理政策、つまり、日本にきた外国人の出入国をどのように管理するかという政策しかない。安倍首相は、移民政策はとらないと明言していますが、政策がないがゆえに負の連鎖を繰り返しつづけているんです。」

 

労働力が不足している時だけ働き手として外国人を迎え、用が済んだら帰ってもらう。帰らないのであれば、「不法滞在者」のレッテルを貼る。日本社会にとって、外国人はいつまでたっても「労働力の調整弁」なのだろうか。日本人も外国人も「ロボット」ではない。人生における3年なり5年の間には、出会いや就職など様々な出来事がある。そんな人生の節目を日本で迎えた人たちを、ひとくくりに「不法滞在者」として見捨てていく社会は、果たして私達が本当に望んでいる社会なのだろうか。
 

「日本も少子高齢化で、今後いかに労働人口を維持していくかが喫緊の課題になっていますよね。日本が再び鎖国をするならば話は別ですが、今後も外国人の流入が不可避なのであれば、『外国人と一緒に生きていく』という政策を考えなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。」

 

非正規滞在外国人問題を考えることは、これからの社会を考えること

 

APFSの活動目的は、非正規滞在の正当化ではない。いかにして外国人と日本人が共生できる社会を作るかという、非常に重要な課題に取り組んでいるのである。同時に、非正規滞在外国人の問題に向き合うことは、外国人だけでなく人間を単なる労働力、ロボットとしてしか見ていない日本社会のあり様を根底から問い直す作業でもある。
 

現在APFSでは、クラウドファンディングサイト「REAFYFOR?」で、プロジェクト「家族みんなで日本に住みたい!超過滞在外国人家族に在留資格を!」を立ち上げ、6月1日まで支援を募っている。集まった資金は、各地の非正規滞在外国人家族の支援会立ち上げ等に用いる。当事者の外国人家族だけでなく、友人や元職場の上司、学校の先生といった地域の人たちの支援が、在留資格取得のための大きな力となる。なぜなら、周囲の人達の支援は、「外国人家族と日本人が共生している」ことの証しだからだ。
 

READYFOR?のプロジェクトページ。新着情報ページでは、APFSの活動や当事者の実状を発信している
READYFOR?のプロジェクトページ。新着情報として、APFSの活動や当事者の実状を発信している

 

APFSの支援を通じて、09年〜10年にかけては、12家族44名の在留が認められた。社会の構造的要因で、非正規滞在者とならざるを得なかった外国人家族が、一家族でも多く日本での生活を続けられるよう、APFSの活動を是非応援してほしい。そして、自分は今後どのような社会で暮らしていきたいか。自分にとって望ましい「共生」の形とはなんだろうか。そんなことも考えていただけたら、日本の将来にほんの少し明るい兆しが見えるのではないだろうか。
 

(参照先)
特定非営利活動法人ASIAN PEOPLE FRIENDSHIP SOCIETY ホームページ
http://apfs.jp/

家族みんなで日本に住みたい!超過滞在外国人家族に在留資格を! | READYFOR?
https://readyfor.jp/projects/livingtogether2

入国管理局「在留資格一覧表」
http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/kanri/qaq5.html

法務省「統計に関するプレスリリース」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00013.html

法務省「本邦における不法残留者数について(平成27年1月1日現在)」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00051.html

NHK解説委員室 時論公論「外国人技能実習その意味と課題」
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/187188.html

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この記事を書いた人

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科でジャーナリズムを専攻。大卒後メーカー勤務等を経て、現在は美学校やプラスハンディキャップで運営を手伝う傍ら、フリーランスとして文章執筆やイベント企画などを行う。美術家やノンフィクション作家に焦点をあてたイベント「〜ナイト」や、2005年に発生したJR福知山線脱線事故に関する展覧会「わたしたちのJR福知山線脱線事故ー事故から10年」展などを企画。行き当たりばったりで生きています。