「独断で選んだ注目の障害者便利アイテム5選」の記事を2014年1月から4半期ごとに書いていますが、その後も新しいアイテムが続々と登場しています。
このシリーズを始めた当初は、障害者の生活を便利にするアイテムそのものが珍しいという印象で記事を書いていましたが、ものすごいスピードでアイテムは進化しており、その目まぐるしさについていくのがやっとです。技術的要素もさることながら、特に感じるのは、障害者が困難するであろう生活の一場面を切り取り、それを改善するためのアイテムが数多く登場していることです。今回は、2015年春、私が独断と偏見で厳選した5アイテムをご紹介いたします。
●「3D立体楽譜(視覚障害者の演奏向け)」
(出典:http://news.mynavi.jp/news/2015/01/16/424/)
一般的に、視覚障害の方が楽譜を読む場合、耳からの情報と合わせて「点字楽譜」を使用するそうです。しかし、他の点字図書などと同様に、点字楽譜は通常の五線譜と比べて分量が多くなりがちな上に、複雑な楽曲には対応できないという問題がありました。この3D立体楽譜は、五線譜を電子データ化して3Dプリンタに入力すると、プラスチックシートの上に音符や音楽記号が立体的に盛り上がった楽譜が製作されるます。これまでは五線譜から点字楽譜への翻訳は人力に頼っている状況でしたが、3Dプリンタにより立体(点字)楽譜がはるかに容易に作れるようになる画期的なアイテムです。
●「Smartcall(聴覚障害者の混雑時の待ち合わせなど向け)」
(出典:http://nge.jp/2015/02/01/post-94154)
Smartcallには、BluetoothやGPSが装備されており、Bluetoothによる着信があると震動で知らせてくれます。GPSを使って、連絡してきた人のスマートフォンの位置を知らせてくれ、その方向までも震動でナビゲートしてくれます。「駅などの人混みで迷ってしまった(電話・会話などが困難な)聴覚障害者とのコンタクトに活用するツール」と記事には書かれています。また、グループコール機能もあり、複数人での使用も可能です。
緊急時の手段として活用できることはもちろん、聴覚障害以外の方も十分に使えるのではないかと感じました。デザイン性が高いSmartcallは、人混みの中でも、困っている感を見せることなくスマートに使えることも魅力ではないでしょうか。
●「Loopwheels(車椅子ユーザーのアウトドア向け)」
(出典: http://nge.jp/2015/03/06/post-97480)
車椅子のホイール(車輪)のリム(外周)とハブ(中央)の間にスプリングを入れることにより、そのスプリングが衝撃を吸収してくれるというものです。
これによって、車椅子のユーザーは荒れた路面も悪路も草の上も移動することができるようになります。大きい衝撃だけでなく細かい振動も吸収してくれるので、普段の街中での使用も快適になるほか、スプリングはトルクを増幅させてくれる働きがあり、縁石を越えることも楽になるといいます。車椅子ユーザーのアウトドア(レジャー)やスポーツ等のシーンを想定しているそうです。
このアイテムの開発費用はクラウドファウンディングで募っているそうですが、現時点で集まりが思わしくないとのこと。理由としては、「車椅子を進化させる」というところで用途が限定されるため、希望者の絶対数が少ないせいではないかと考えられています。機能性に優れている車椅子であれば外で試してみたくなりますし、車椅子ユーザーのレジャー等を促進させる意味でも、是非、一般化してほしいアイテムだと思います。
●「SIMVIZ(視覚障害者のニーズ発掘)」
(出典:http://nge.jp/2015/01/03/post-91259)
視覚障害者の方が、どのようなことに困っているのか、そのニーズを発掘するための重要なアイテムとして、SIMVIZ(仮想現実デバイス)を紹介します。これは、様々なタイプの視覚障害者が見る景色を再現できるシステムです。視覚障害者の見えかたをリアルタイムで再現することで、機械や設備など、さまざまなインターフェイスを開発する際に、視覚障害者にも見やすい(使いやすい)ものをつくることができるという趣旨の元で作られました。
使い方は簡単で、写真のヘッドマウントディスプレイを装着するだけ。あとは、色覚障害や緑内障、白内障、糖尿病による網膜障害、加齢黄斑変性などの特有の見えかたを再現するフィルターを使って、映像を作り出すことができます。
●「人工皮膚搭載ロボット義手(義手の方でも愛する人を抱擁できる)」
(出典:http://nge.jp/2014/12/24/post-90630)
装着した人の意思で腕や指が動かせるなどの「ロボット義手」の進歩が近年著しいですが、さらに最近では、人工皮膚を搭載した義手の開発が急ピッチで進められています。圧力・温度・湿度センサーが埋め込まれ、伸縮性があるシリコン・ナノリボンという素材を使った人工皮膚を、ロボット義手に被せて各センサーを脳に繋げば、装着した人は「普通の手」と同じように感覚を持つことが可能になります。すると、熱さや寒さはもちろん、水分で湿った感じやすべすべした感覚、愛する人を抱擁した時に感じる温もりなど、様々な「感覚」を得ることができるようです。
冒頭で書いたように、「障害者が困難を感じるであろう生活の一場面を切り取り、改善するためのアイテム」を作るには、ニーズ発掘のためのマーケティングが必要です。障害者もマーケティングの対象となり、想定顧客として考えられている時代に突入しているのではないでしょうか。
もちろん、障害者全員が想定顧客となり得るとは言えませんし、アイテムの恩恵があるわけではありません。しかしながら、障害者の生活を便利にするアイテムの進化は急速に進んでおり、情報を手にしなくては、世の中の流れに取り残されていってしまうかもしれないと痛切に感じます。情報を手にするための第一歩は、障害などで自分のやりたいことにつまづいたときに、それが改善できないか「調べてみる」ことです。このクセを付けるだけで、人生が一気に好転する可能性がもうすぐやってくると私は思います。