当事者と非当事者が関わるということー「福知山線脱線事故から10年展」を通じて

みなさんは、2005年4月25日に発生したJR福知山線脱線事故を覚えていますか。またはご存知でしょうか。兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口ー尼崎間で、走行中の快速電車が制限速度を大幅に超えてカーブに進入し脱線。線路脇の9階建てマンションに激突し、乗客106名と運転士が死亡、562名が負傷した事故です。
 

当時、私は17歳で、テレビで事故現場を空撮した映像を見た時は、「普段自分も利用している電車で、こんな事故が起きるんだ」と衝撃を受けたことを覚えています。ただ、身内や知人が事故にあったわけではなく、時間の経過とともに事故の記憶も薄れ、この10年間、事故が起きる前と同じように電車を利用し続けてきました。
 

そんな、いわば事故の「部外者」である私が、事故から10年を迎える今年4月に、事故に関する展覧会を東京で開催します。事故車両2両目に乗車していた男性が事故現場の様子を描いた絵画作品や、事故当時芸術大学の学生で、事故後、人物画を描くことに苦悩し続けた負傷者の方の絵画、関係者のインタビューなどを展示する予定です。
 

なぜ当事者ではない非当事者である私が東京で?と思われる方も多いと思いますが、簡単に理由を述べるならば、私が日々関東で鉄道を利用しているからで、また、多くの人が鉄道を利用しているにも関わらず、事故の記憶が薄れている関東だからこそ意味があるのではないかと思ったことも理由のひとつです。もう少し詳しい理由や、展覧会に至った経緯は、展覧会HPの「展覧会について」に記してありますので、興味をもってくださった方はそちらをご一読いただければ幸いです。
 

展覧会の会場模型
展覧会の会場模型

 

今回は、先日私が見た一本のテレビ番組について書くことで、展覧会の取組についてお伝えできればと思います。
 

2015年2月21日、NHK EテレでETV特集「薬禍の歳月〜サリドマイド事件50年〜」が放送されました。「妊婦が服用しても安全」と宣伝された薬(サリドマイド)を飲んだ母親から、重い奇形を負った子どもが相次いで生まれた薬害事件を取材した番組です。50代になった当事者たちが、長年の肉体的負担で二次障害に苦しんでいる様子などが伝えられていました。
 

「サリドマイド」という名前くらいしか知らなかった私は、彼らの50年がどんなものか、全く想像したことがありませんでしたが、番組を通して知った当事者の人生は、想像を遥かに超えて厳しいものでした。障害を持って生まれたために親に捨てられた人。世間の目を恐れて外界と隔離されて育てられた人。補償金で父親が始めた事業が失敗し、一家離散になった人。それでも生きなければ、と仕事を見つけて家庭をもち、なんとか自分の人生を歩み始めた矢先に二次障害が現れる。自らの人生を「地獄ですよ」と表現していた当事者もいました。
 

あくまでも個人的な感想ですが、私はこの番組を通じて、当事者が発信すること、社会が関心を持つことの重要性を思い知った気がしました。薬害のような、国や企業が起こした事件・事故では、被害者は立場の弱い存在です。弁護士を雇ったり裁判を続けたりする財力も、国や企業の方が圧倒的に大きいでしょう。
 

そんな状況で、当事者の支えになるのは世間の声や関心なのではないでしょうか。番組では、ドイツの被害者が二次障害に苦しむ自分たちの姿を社会に訴え、社会の関心が高まった結果、被害者に支払われる年金が大幅に増額されたことを伝えていました。ドイツはサリドマイドの開発国で、被害者も最も多いので、当然といえば当然の取組なのかもしれませんが、当事者の現状は、当事者自身の訴えがなければ、中々分からないものだと思います。もちろん、当事者の声をより広く伝えるメディアの役割が重要なのは言うまでもありませんし、当事者が発信したところで、社会が無関心であれば、それはあまりに冷淡な社会と言うより他ありません。
 

もうひとつ、当事者の発信が大事だと感じたのは、厳しい現実の中で生きてきた当事者の言葉は、非当事者の人生にも強い影響を与えうると思ったからです。私は、番組で聞いた、ある当事者の言葉が今も強く印象に残っています。
 

「私のこの小さい腕は、常に私に幸せとは、生きるとは何か、差別とは何か、あなたにとって大事なものは何かを問うてきたと思います。」

 

薬害による障害とともに生きてきた50年の人生から発せられたこの言葉は、当事者でない人たちにこそ、人生や生きることについて強く問いかける力を持つと思いました。
 

福知山線脱線事故に関する展覧会は、目下準備中で、果たして自分が目指すものになるのかどうか分かりませんが、部外者である私がこのような試みをすることで、当事者と非当事者がつながるひとつのきっかけになればと思います。
 

もちろん、当事者にしか分からない思いや現実は存在しますが、薬を服用することも、電車に乗ることも、特別な行為ではなく、誰もが当たり前に行っていることです。薬害も鉄道事故も、あってはならないことですが、自分も当事者になる可能性があった・あるわけで、もし自分が同じ境遇にあったらどうだろう、と考えてみることは、決して無駄だとは思いません。展覧会を、当事者と非当事者の関係性や、自分たちの生きる社会について一緒に考えることの出来る場にしたいと思っています。
 

展覧会のフライヤー(デザイン:合田祥之)
展覧会のフライヤー(デザイン:合田祥之)

 

【展覧会概要】
展覧会名:わたしたちのJR福知山線脱線事故ーー事故から10年展
会期:4月22日(水)― 26日(日)
会場:KOMAGOME1-14cas (東京都豊島区駒込)
詳細:http://fukuchiyama10years.tumblr.com/
会期中無休・入場無料
 

※展覧会開催にあたり、クラウドファンディング「READYFOR?」にて3/28までご支援を募っております。趣旨にご賛同いただけましたら、ご支援賜れますと幸いです。

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この記事を書いた人

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科でジャーナリズムを専攻。大卒後メーカー勤務等を経て、現在は美学校やプラスハンディキャップで運営を手伝う傍ら、フリーランスとして文章執筆やイベント企画などを行う。美術家やノンフィクション作家に焦点をあてたイベント「〜ナイト」や、2005年に発生したJR福知山線脱線事故に関する展覧会「わたしたちのJR福知山線脱線事故ー事故から10年」展などを企画。行き当たりばったりで生きています。