なかなか知られていない吃音者の世界とその困りごと

皆さん、はじめまして。吃音者で広汎性発達障害とADHDとLDを持っているAoki Masamichiです。今回から、吃音について記事を書くことになりました。吃音には幼児期から発症する「発達性吃音」と、脳や神経に損傷、心理的なことが原因で発症する「獲得性吃音」の2種類がありますが、前者の発達性吃音について記事を書きます。よろしくお願いします。
 

吃音ってなに?

 

皆さんは、「吃音(きつおん・どもり)」の事を知っていますか?発話することに障害がある人のことを吃音者と呼びます。2014年現在では吃音とは呼称せず、アメリカ精神医学会が出版するDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM))の使用する「小児期発症流暢症(吃音)/小児期発症流暢障害(吃音)(Childhood-Onset Fluency Disorder (Stuttering))」のように「流暢性障害」とすることもあります。
 

吃音は、テレビやメディアではあまり取り上げられることはないので、想像するのがなかなか難しいかもしれません。例えば、芦屋雁之助さんの出演した『裸の大将』やアカデミー賞でも話題になった『英国王のスピーチ』は吃音を扱った作品でも有名どころ。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『きよしこ』『青い鳥』なども吃音を扱った作品です。もし機会があれば、一度触れてほしいと思います。
 

吃音がテーマとなっている「英国王のスピーチ」
吃音がテーマとなっている「英国王のスピーチ」

 

吃音には3つの種類があります。「連発」「難発」「伸発」です。どのように症状として現れるかどうかは個々人により全く違います。
 

1つ例を挙げて、その違いを説明したいと思います。「私の名前は○○です。よろしくお願い致します。」と吃音者が発話するとどうなるでしょう。
 

連発の場合は「わ わ わ わ わ わ わたしの なまっ なまっ なまっ なまっ 名前は○○です」というように発話してしまいます。難発の場合は「…………………………………私の」というように発話してしまいます。伸発の場合は「わーーーーーーーーーたしの名前は○○です」というように発話してしまいます。
 

また発話の際に随伴運動が伴うこともあります。腕や手を動かす、脚を動かす、発汗や赤面、顔の表情が歪む、目玉が白目を剥いてしまう、不自然な目の瞬き、口をとがらせる、視線が定まらないなどなど色々なことが起きます。それでもなんとか発話しようとして相手の人に唾を飛ばしてしまうこともあります。
 

吃音の原因はなんでしょうか?実はまだ明確にメカニズムが解明されていません。『ボクは吃音ドクターです。』を執筆した医学博士菊池良和氏が執筆した書籍『エビデンスに基づいた吃音支援入門』の14頁によると、吃音とは7割が遺伝的要因と3割の環境的要因が関係していると言われています。アメリカ精神医学会が出版したDSM-5日本語訳版の46頁にも、吃音の遺伝要因と生理学的要因の説明が書かれており、小児期発症流暢症をもつ人の生物学的第一度親族における吃音症の危険は、一般人口の3倍以上であると説明されています。
 

吃音と俗にいう発達障害の関連も指摘されています。自閉症スペクトラムや広汎性発達障害、ADHDやLDの当事者の中には吃音を併発している人もいます。DSM-5の発達障害が掲載されている「神経発達症群/神経発達障害群」カテゴリと吃音症が同じということもあります。『エビデンスに基づいた吃音支援入門』の38と39頁に吃音と発達障害の併発のデータが掲載されています。ヤンセンファーマ株式会社が販売するADHD向け薬品コンサータの『薬剤師のみなさまへ 適正使用のための手引』にも併発障害として吃音症があるというように掲載されています。
 

ただしこれだけは言えます。親の躾や親の教育が悪いというのは間違いです。吃音がまだまだ勘違いされていた時期は、このようなエビデンスのない流言飛語が親御さんを苦しめたこともあったのです。
 

吃音者の困りごと。日常生活編。

 

さて、吃音者はどのような生活をしているのでしょうか?吃音は個々人により症状が違います。発話だけでは症状が軽いのか重いのかも判断が難しいのです。とてつもなく吃ってしまい会話が困難な人もいれば、吃音ではあるがなんとか生活をできている人もいます。ただし、なんとか生活ができている人でも、発話の際に「言い換え」や「あのー、えーっと、を付け加えること」などを駆使して全力で発話をコントロールしている場合もあるので、症状が軽いとは断言できません。言い換えというのは、日本語では「トイレに行ってきます」を「お手洗いに行きます」「ちょっと席外します」と言い換えることです。「ト ト ト ト ト」と吃ることを避けるためです。
 

吃音者が困っていることは学校や職場、社会との接点です。学校であれば吃音で吃ってしまうのに、国語の授業で順番に音読しなければならない。これはとても苦痛です。順番が近づくにつれて苦しくなるでしょう。算数であればその問題の解答は頭の中で完璧に理解していて発表できるのに、「先生!はい!!」と挙手することはできません。ペーパーテストで良い点数を取ったとしても教師に「発言がたりない、積極性がない。知っているのに答えない」と評価されることもあるかもしれません。
 

クラスルームの当番もやりたくないでしょう。「起立!礼!」と言い換えすることができない場合は吃ってしまい笑われるかもしれません。大勢の前で何かを発表しないとならない場合は、これも言葉で表現できないほどの心労と苦痛が広がります。体育なら大丈夫では?と思う人もいるかもしれませんが、身体だけを動かすならなんとかなりますが、「パスくれ!」といったコミュニケーションを伴うスポーツは危険です。
 

バスケットボール
 

吃音者は授業や講義だけが大変とは言えません。人間関係や友人関係の構築も難しいのです。例えば学校で「昨日のドラマみた?やばいよねー」という会話に吃音者は入れるでしょうか?吃ってしまうことを避けるため本当はテレビ番組を見ていたのに見ていないフリをすること、または、相槌だけで会話を済ますということもあります。
 

買い物をすることも大変です。コンビニエンスストアに行き、店員さんに「肉まんがほしい、あんまんがほしい、からあげがほしい、おでんがほしい」これも言えないのです。仮に言えたとしても吃ってしまえば店員は不審そうな怪訝な顔をしてきます。特におでんの注文だと発話の際の唾を飛ばしてしまい弁償ということもありえるかもしれません。

 

吃音者の困りごと。働く編。

 

一番大変なことは社会人になって働くことではないでしょうか。昨今の日本社会は「コミュニケーション社会」であり、マニュアル通りの喋り方をしないと怒られ、なおかつ1秒1秒すら改善して仕事を早くさせることはできないのか?と追求する社会です。吃音でない人が15秒で済む報連相を吃音者が1分ほど時間を使ったらどう思うでしょうか?
 

吃音者にとって大変なのは就職活動の面接もあります。ペーパーテストは突破できたとしても、その次には面接があります。最近では学力のペーパーテストの他に性格の適性検査や精神疾患が発病しやすいかどうか調べることを売りにする適性検査を提供する企業もあります。
 

面接
 

そんな中ペーパーテストを突破した吃音者が面接に臨んだとしても上手く発話することができません。日本の教育では「相手の立場にたって考えましょう」という素晴らしい教育があります。企業の人事部門の面接官はどのように思うか、この定義にあてはめて考えてみます。
 

・うーんこの人喋り方おかしいよな…。なんか病気なのかな?よし!不採用!!

・この人なんか喋り方変だし、発話するとき顔を歪ませるし唾も飛ばすしなぁ。よし!不採用!

・この人の喋り方でお客様に不快感あたえることや仕事上の意思伝達のミスなどの問題は起こらないかな?不採用かな。

・この人、言葉はうまく話さないし腕や脚を動かすし、なんだろう?うーんわからないから不採用っと。

・この人、こんなに喋り方おかしいのに弊社のサービス業についてこれるのかな?不採用!

・この人こんなに喋るのが大変なんだからこの職業(医師や看護師やアナウンサーや警察官や自衛隊)は向いてないだろ。とっさの事態に対応できないよな。不採用!

・この人喋るだけでこんなに時間かかるなら、普通の人が報告に15秒で済むところを1分だから時間のムダだな。ホウレンソウで時間がムダになるなんてもってのほかだ。よし不採用!
 

こんなところではないでしょうか?すべての吃音者がこうなるとあてはめることはできませんが、就職活動戦線ではこのような不都合が起こるかもしれません。もちろん、中には理解のある企業もあるでしょう。ちなみに筆者は「吃音であっても堂々と吃れ、吃音を隠すな、吃音があっても成功している人がいるじゃないか!」という吃音者の主義思想を掲げる派閥のことを信じていたため、履歴書にも「私は吃音があって話すことが大変ですが御社のために頑張ります」と明記して何度も何度も就職に失敗しました。結局、新卒で就職はできませんでした。それがひきこもり生活のはじまりでした。
 

現在、発達障害であることを診断されてから障害者雇用とは何なのか?企業の人事部門はどのように考えているのか?ということを調べてからは、就職活動では吃音を隠すべきだったと痛感しています。なぜなら、「仕事をする際に配慮が必要」というのは余程のスキルがある場合を除いて採用しないのです。「配慮が必要」な人はいらない。採用するとしても障害者雇用なのです。
 

じゃあ吃音者も障害者手帳を取得すればいいじゃないか?これがまた難しいのですが、次回以降の記事で説明したいと思います。
 

吃音者は社会人になって仕事をしている人もいれば、そうでない人もいます。その理由は吃音という症状・障害にグラデーションがあることです。本当に個々人によって症状が異なるのです。故に例えば幼少期からの環境が悪く、吃音のことでからかいやイジメがあれば学校に行き学ぶ機会を奪われるかもしれません。最悪、成人してもひきこもりやニートになってしまう場合もあるでしょう。
 

その一方で、なんとか社会人になるが本当はやりたい仕事に挑戦できないことや人事考課が不利になるといった問題もあるかもしれません。それ以外にも吃音があったとしても幼少期からのチャンスや機会を失うことなく成人して吃音を隠さずに堂々と吃り社会に溶け込める吃音者も存在します。
 

この吃音者の症状の違い、クオリティオブライフと生活水準の違いによってwikipediaにも書かれているように「吃音者間の治療観の相違」というものが存在するのも事実です。
 

吃音について詳細が書かれている参考サイト:
国立障害者リハビリテーションセンター研究所 感覚機能系障害研究部 吃音について
http://www.rehab.go.jp/ri/kankaku/kituon/overview.html

記事をシェア

この記事を書いた人

AokiMasamichi