認知度ほぼゼロ。もうひとつの白衣の天使「保健師」ってなにする人?

皆さん、こんにちは。心の健康を守るナースこと杉本九実です。
 

突然ですが「保健師」っていう職業をご存知ですか?
 

私は看護大学を卒業し、看護師と保健師の国家資格を持っています。看護師は皆さん想像がつくはずです。病院にいるナース服を着たあの人です。では「保健師」と聞いて思い浮かぶイメージはありますか?おそらく「ない」と答える人が圧倒的に多いと思います。
 

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仕事柄、いろいろな分野の方にお会いすることが多いのですが、「私の本職は保健師です」と言っても、「保健師?なにする人?看護師となにがちがうの?」と聞かれることが100%です。この驚くほど認知度が低い「保健師」という職業。実はこれからの医療社会を引っぱっていくキーマンであると言われています。そもそも「保健師」って一体何なのか、なぜキーマンになるのか、お話したいと思います。
 

保健師ってなにする人?看護師となにがちがうの?

 

保健師ってなにをする人なのか。一言でいえば「健康な人がいつまでも健康でいられるようにサポートする看護職」のことです。英語では“Public Health Nurse”と呼ばれています。そう、保健師もナースなんです。日本において、保健師は看護師の上位資格となっていて、看護師の免許がないとたとえ保健師の国家試験に合格していたとしても、保健師と名乗ることもできなければ活動することもできません。保健師は今全国に約5万5千人ほど。看護師が約100万人ですから、その少なさがお分かりになるかと思います。(平成25年版厚生労働白書より)
 

では、保健師と看護師ってなにがちがうのか?それはケアをする相手の健康レベルがちがうということです。どういうことか分かりやすく下の図を使って説明しましょう。
 

保健師と看護師のちがい
 

まず、私たちがふつうに生活できる状態を健康レベル0とします。何らかの病気にかかり入院して治療しなければならない場合、健康レベルが-50まで低下した状態になります。この健康レベル-50の状態に対して治療やケアを行い、0まで回復させるためのサポートをするのが看護師です。
 

一方で保健師がサポートする相手は健康レベルが0以上の人です。健康な人がより健康レベルを上げられるように、病気とともに生きている人が健康レベルを下げないように、本人が望む健康レベルまで導き、それを維持できるようにサポートするのが保健師です。
 

つまり、看護師は病気になった人に対して日常生活に戻るためのケアをする人、保健師は健康な人に対して病気にならないように予防するためのケアをする人なのです。同じ看護職でも目指すゴールやケアの方法がちょっとちがう。だから看護職はそれぞれの強みを活かして、世の中すべての人に適切に対応できるのです。
 

「生きづらさを抱えた人の可能性を救う」それが保健師の仕事

 

日本で本格的に保健師の活動が始まったのは、1923年の関東大震災のときです。病人やケガ人の処置、妊産婦の保護、高齢者への看護、衛生環境の整備など被災者への援助活動が原点であると言われています。
 

2011年に発生した東日本大震災でも公衆衛生活動のプロとして保健師はその力を発揮しました。災害発生直後に一番問題になったのは、避難所の劣悪な環境です。トイレは少なく、手を洗う水もない。配給される食事は冷たいおにぎりや菓子パンばかりで栄養バランスもとれない。プライバシーなんて完全にないストレスフルな生活。先進国のはずなのに、当時の避難所の多くが難民キャンプで設定されている基準以下の環境でした。こうした環境では普段なら健康で何の問題もない人でも、感染症にかかったり持病が悪化したりと、健康上の問題が起きやすくなってしまいます。二次的な健康被害を最小限に食い止めるために、衛生環境を整えて被災者の方々への健康支援を行ったのが保健師だったのです。
 

こういった緊急時だけでなく、常に保健師は地域で生活する生きづらさを抱えた人たちをサポートしています。育児に悩むお母さん、独り暮らしの高齢者、難病や障害を抱えた方々、病気と付き合いながら仕事している人などなど、いろいろな生きづらさを抱えた人たちのいろいろな健康問題が少しでも良い方向に進むように日々活動しています。
 

保健師としてお仕事中の私。社員の方の健康相談を受けています。
保健師としてお仕事中の私。社員の方の健康相談を受けています。

 

私は、保健師の仕事は「生きづらさを抱えた人の可能性を救う」ことだと思っています。よく私たちは命を救うことが仕事だと言われますが、それだけではないと思うのです。確かに命を救うことは大前提です。でもただ命を救えばいいのではなく、その先にある、その人にしか歩むことのできない人生の様々な可能性を救うことが本質的なミッションであり、私たちにしかできない仕事だと思っています。人生の中で起こる楽しいこと、やってみたいこと、幸せなこと、そんなたくさんの可能性をその人なりに味わい尽くしてほしい。だから、可能性を奪ってしまう生きづらさや健康問題を一緒に改善していきたい。私たちは、そういう想いでいつも命や人生と向き合っているということを多くの方に知ってほしいと思っています。
 

未来型医療のリーダーは保健師だ!

 

さて、ここからは保健師の未来のお話。皆さんは“医療の2025年問題”のことを知っていますか? 来る2025年は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる年です。その数なんと4人に1人。これまで国を支えてきた団塊の世代が給付を受ける側に回るため、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政のバランスが崩れる、と指摘されていて大きな問題になっています。
 

この2025年問題に大きく貢献すると言われているのが、まさに保健師です。医療システムや財政が崩壊し、病院にかかりたくてもかかることができなくなる時代が、あと10年で訪れようとしている今、これからの医療は「病気にならないように予防する」ことが中心になってきます。しかし、現代医療は予防よりも対処することに手一杯で、まだまだ予防を中心とした医療体制にはなっていません。あと10年で世の中は「予防中心の医療」へとシフトしていかなければならない。予防活動のプロである保健師には、未来型医療のリーダーとして時代を引っぱっていく大きな役割があると思っています。
 

健康な人がいつまでも健康でいられるように、それぞれの人生の中にあるたくさんの可能性を救えるように、今日も保健師たちは誰かの命や人生にそっと寄り添っています。病院にいる看護師だけが白衣の天使じゃない。皆さんのすぐ近くにも、もうひとつの白衣の天使はいるということを覚えておいてほしいと思います。

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この記事を書いた人

杉本九実

1985年生まれ。順天堂大学卒の看護師・保健師。憧れだったICU看護師となるが、理想と現実のギャップ、過労、ストレスにより心身のバランスを崩し、バーンアウト状態と診断され休職。休職中に訪れた旅で自然の「ありのままに生きる」姿に感化された経験を活かし、2013年PONOプロジェクトを設立。「ストレスやこころの病気を自然の中で楽しく予防しよう!」をコンセプトに、自然の力と看護スキルを活かした今までにない新しいメンタルヘルス事業を行う。