健常者からみると、うらやましい? おいしい? 障害者福祉サービスって幅広い。

私事ではありますが、今年の3月に引っ越しました。江東区民から北区民へ。東京23区内での移動となりましたが、障害者福祉に関しての情報が増えた、いい機会となりました。
 

引っ越しを行った場合、ほとんどの方は住民票を移動することになります。転入届・転出届を出すために、自分が住んでいた/これから住む役所へ行くことになるはずです。役所に行くのはめんどくさい、時間が取られる。そんな想いを抱える方も少なくないでしょう。ただ、障害者の場合、もう一手間かかります。障害者福祉に関する課へと足を運ばなくてはならないのです。
 

北区役所から持ってきた3冊。障害者福祉のしおり/社会資源シート/防災行動マニュアル
北区役所から持ってきた3冊。障害者福祉のしおり/社会資源シート/防災行動マニュアル

 

私も例に漏れず、区役所の障害相談係まで足を運びました。義足ユーザーであり、身体障害2級である私の場合、障害者福祉の申請・義足の修理のプロセスの把握(下記関連記事参照)・受けられる障害者サービスの情報収集・障害年金の住所変更(これは年金係ですが)といった手続き、ヒアリングを行います。
 

そこでもらったのが「平成26年度版障害者福祉のしおり」です。おそらく江東区からも受け取っていたはずですが、記憶にないということは大して読んでいないということ。今回30年近く生きてきて初めてじっくり読んでみました。
 

障害者福祉のしおり 目次①
障害者福祉のしおり 目次①

 

障害者福祉のしおり 目次②
障害者福祉のしおり 目次②

 

なかなかの有益な情報量。江東区のもちゃんと読んでおけば良かった。激しい後悔が巻き起こりました。以前から把握しておけば・・・と悔やむような内容までありました。
 

例えば、税金。所得税や住民税の控除は知っていましたが、自動車税や相続・贈与税の軽減は知りませんでした。福祉車輛(私の場合はアクセルを左側に転移する改造が必要)の改修費の支援や駐車禁止規制の適用除外は教えてくれたのに、自動車税に関しては聞かなかったなというのが個人的なモヤモヤです(笑)。
 

多くの方が知っているサービスでいえば、交通機関の半額などが挙げられると思います。しかし、他にもNHKの受信料が減免されたり、身体障害者福祉マッサージ券が支給されたりと、障害者福祉のサービスは多岐に渡っています。健常者から見れば「うらやましい」、あるいは「おいしい」ものかもしれません。
 

身体障害であり、肢体不自由というジャンルの人間である私は、当たり前ですがそのジャンルに該当するサービスしか受けられません。同じ身体障害でも視覚障害や聴覚障害は、また別物のサービスラインナップになっていますし、知的障害・精神障害となれば、また違うものになります。
 

マッサージ券なんてズルい!と思われるかもしれませんが、両足が不自由な人間にとって歩く・座るという動作だけでも健常者以上にバランス感覚が問われます。したがって、身体へかかる負担は非常に大きく、場合によればその負荷によって2次障害(膝や腰が悪くなる/義足→車いすユーザーに変わるなど)も発生します。そのような背景も加味して、障害者福祉のサービスは定められているようです。
 

編集長お気に入りのタクシーチケット。
編集長お気に入りのタクシーチケット。

 

生まれつき、あるいは幼少期の頃のアクシデントによって障害を負っている場合、自分で役所に行く経験がなければ、このような手続き等があることは知らないということがあり得ます。親御さんが知っているものの本人は知らない(うまく情報の引き継ぎができていない)ことが理由です。私は東京で義足を作ることになったとき、初めて障害者福祉のサービスの数々を知りました。
 

また、身体障害でなければ役所での手続き、交渉等が自分ではできないことも考えられます。障害者にとってメリットの多い障害者福祉サービスですが、役所をノックしない限り、サービスを受けられないので、メリットを生かしきれていないケースも想定できます。本人ではなく、周囲の支援者がどこまで知っているかによって、受けているサービスにばらつきが発生してしまっていることもあり得そうです。
 

大切なのは知っているかどうか、つまり情報を持っているか否かです。障害者福祉はその性質上、マイナスをゼロに引き上げるものなので、この情報を持っていることが平等なスタートラインに立つためのカギです。「情報を取りにいかなくてはならない→合理的配慮が足りない→不公平だ」というロジックで語るのは簡単ですし、私自身、同じ想い(役所側からもうちょっとノックしてくれてもいいのに)を抱いていますが、客観的に見て、サービスが構築されつつある現状へは感謝すべきものでしょう。
 

せっかく障害者福祉のサービスがあるのであれば、私たち障害者自身はうまく活用して、社会に対して価値を提供できる存在にならなくてはならないのではないでしょうか。もちろん、障害によってできること、できないことがあるので全員がやるべきとは言えません。ただ、価値を生み出すための最低限の努力はしなくてはいけない。実は私たちも公務員と一緒、皆さんから納められた税金を元にサービスを受けているのですから。公務員と違って、働きぶりを社会から監視されていないだけ、まだラッキーなのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

佐々木 一成

1985年福岡市生まれ。生まれつき両足と右手に障害がある。障害者でありながら、健常者の世界でずっと生きてきた経験を生かし、「健常者の世界と障害者の世界を翻訳する」ことがミッション。過去は水泳でパラリンピックを目指し、今はシッティングバレーで目指している。障害者目線からの障害者雇用支援、障害者アスリート目線からの障害者スポーツ広報活動に力を入れるなど、当事者を意識した活動を行っている。2013年3月、Plus-handicapを立ち上げ、精力的に取材を行うなど、生きづらさの研究に余念がない。