体調が悪いなあと思い、病院に行く。医者からの診察を受け、検査を受けた結果、難病と宣告されたなら、あなたはどうしますか?あなたはどんな感情や考えを抱きますか?
難病という言葉を聞けば、多くの方は「治らない」「死ぬかもしれない」「原因が分からない」といったイメージを抱くかもしれません。厚生労働省の定義の中にも、原因不明・治療方法未確立・経済的、精神的な負担といった文言が並んでいます。
私の場合だと「やばい。死ぬ。人生詰んだ。」という絶望感を抱き、「これからの人生どうしよう。家族との時間はどれくらい残っているんだろう。」という孤独感を抱き、「この病気は治るのか。」という不安感を抱き、周囲に当たり散らすだろうなと思ってしまいます。生きづらさを抱えた方を多く取材してきた背景があっても、この有様です。
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では、実際の話として、難病だと宣告されてしまった場合、自分自身とどう向き合えばよいのか、何をすればよいのか、どんな社会保障制度が使えるのかといったことのハウツーは、なかなか世の中に出回ってはいません。ちょっとした体調不良だと思って病院に行ったら、難病と宣告され、そのまま入院となったときの最初の夜、手元にこれがあったら不安が緩和されるだろうなという本が『難病患者の教科書』です。
Plus-handicapでも何度か取材させていただいたことがある、多発性硬化症という難病当事者である浅川透さんが著したこの本は、帯に「やりたい事をあきらめる前に読んでください」と書かれてある通り、難病と告げられたばかりの方や難病と向き合いながら生きている方に対して、社会制度の紹介や指定難病受給者証や障害者手帳の説明、病院での相談方法の解説などが整理されています。
社会制度、指定難病受給者証などといった文字が並ぶと「おカタい」「分かりづらい」イメージが浮かびますが、浅川さんの解説は非常に分かりやすく、シンプル。サクサクと読み進めることができます。個人的にはこの「読みやすさ」が最もいいところだと思います。
また、各章において「章のまとめ」が整理されていたり、「気づき」「自身がやってみたいこと」を書き込むことができる欄が設けられているなどの工夫がされており、『教科書』と言うだけあるなという気遣いが散りばめられています。
私自身、難病患者の方々を考える上で「働くことができるのか」という問いが真っ先に思い浮かびました。例えば、障害者を引き合いに出すならば、障害者雇用は制度上存在していますが、難病患者雇用という制度は存在していません。企業としても雇いづらい点はあるように感じていました。
しかし、難病患者の雇用率は、ある調査によれば56%という数値が出ているという話ですし(198頁)、2016年4月に制定された障害者差別解消法は、障害者に限らず、社会生活に制限がある難病患者も対象であるため、合理的配慮の提供義務の範囲内にも含まれます(206頁)。属性で区切って考えていた自分を反省しました。たしかに、難病といってもその症状は様々なので、働ける方も活躍できる方もいます。この本の後半部分にある「自分らしく働く」という章は、難病に限らず、様々な制限や障壁を抱える方々にも共通するものです。
難病に限らず、自分の身に降りかかってきた問題をどう乗り越えてきたかという体験記はいろいろと発信されています。実際、このPlus-hancicap自体も体験記に近いものです。ただ、当事者の目線から、どのような制度があるのか、どのような相談が必要なのかといった情報を誰が読んでも分かりやすく、体系立てて説明されている本はほとんどありません。特に難病の場合でいえば、その病気・症例によってどうしても縦割りで情報が整理されてしまうため、この本の価値は非常に高いものだと思います。
もし明日あなたが難病と告げられたら?というリスクに対しての予防となる、保険となる情報が詰まったこの本。すべての病院に一冊あればというのが浅川さんの願望としてありましたが(過去のクラウドファンディング参照)、一家に一冊とは難しくても、自分の属する地域コミュニティの中に一冊あればいいな(公民館や学校などの書架にあればいいな)と思う一冊です。
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※ もしAmazonに本の在庫がない場合、下記リンクからも書籍はお求めになれます。
難病患者の教科書ホームページ|「難病患者の教科書」を注文したい方へ
http://goo.gl/thgUV8
【浅川さんを取材した際の過去記事】
●難病と宣告されたときの絶望感とそこから抜け出すための冷静さ。多発性硬化症を患う浅川透さんからの提案。
https://plus-handicap.com/2015/09/6543/
●「病気を患っていることが外見からでは判断できない」という現実が引き起こす生きづらさ
https://plus-handicap.com/2016/01/7068/
【難病患者の教科書ホームページ】
http://nanbyo-kyokasyo.com/