摂食障害を乗り越えられたきっかけは「自分への許し」だった。

私は14歳から18歳までのおよそ4年間、摂食障害にかかっていました。摂食障害には複数のタイプがありますが、私の場合は拒食症でした。
 

拒食症が始まったのは14歳になったばかりの頃。昔から背が高く、しっかりした体つきの私は、思春期に入り自分の容姿が更に気になるようになりました。こんな姿では誰にも好きになってもらえない、せめて痩せていなくてはと思い、徐々に食事の量を減らすようになっていきました。
 


 

食事を減らすとその分体重が減っていくのが分かり、その「コントロールできている」という感覚にある種の喜びと達成感を覚えるようになりました。
 

思春期はまだ親の擁護の元にいますし、全ての面において自分でコントロールできることが限られています。そんな中、自分の意思決定によって効果が目に見えて現れる食事制限は、私の行き場のない気持ちのはけ口となっていったのです。
 

摂食障害のきっかけは様々ですが、環境などが引き金となって辛いことが発生し、その辛いという気持ちを自ら抑圧してしまうことが重要な鍵となっているのではと考えます。
 

行き場のない抑圧された気持ちが、それでも何とかはけ口を見つけようとして、その矛先を自己に向け出します。それが摂食障害やうつ症状などの心の病として表面に現れ始めるのではないでしょうか。
 

私の場合も、幼い頃から繰り返した転校、その度に自分の外見や内気な性格のせいでよくからかわれたこと、両親の仲が悪くしばしば喧嘩を目撃していたこと、そして片方の親の私に対する(意図的ではない)精神的な支配感が摂食障害の発症に大きく影響していたと思います。
 


 

最も症状が悪化した頃。そして回復したいという気持ちの現れ。

 

1番酷くなったのは中学3年生の冬。ちょうど受験シーズンでした。身長は165cmありましたが、体重は33kgまで減り、歩くだけでもかかとの骨が地面に当たって痛いような状況でした。それでも私は毎日片道1時間30分かけて学校に通い、休みの日は1人で美術館や映画館に通い、見た目からは信じられないくらい通常よりも活動的に動いていました。
 

人間は極限状況になると、身体にその力がなくても気力が身体を動かすのだと思います。その頃の私は明らかに体力不足でしたが、思い返せば「自分は痩せていない」「もっと新しいことを吸収しないといけない」という焦りのような気持ちが私を突き動かしていたと感じます。
 

高校受験の時期になり、受験会場に行った私は周りからの視線に気がつきました。私があまりに痩せすぎていたので、周りの学生が驚いてちょっとしたざわめきが起きたのです。そのときは、特に気にしないようにしていました。
 

後日、電車の中で向かいに座った若い女性2人が「ちょっと、あの人…。」「私痩せたいけど、あそこまでにはなりたくない。」と囁き合っているのが聞こえてきた時、私は悲しさと悔しさが混じった何とも言えない感情が湧いてくるのを感じました。
 

きっとその感情と、高校で新しいスタートをきるという節目が重なり、改めて自分の健康状態を振り返って「やっぱり元気になりたい」という気持ちが少しずつ頭をもたげてきたのだと思います。
 


 

回復までに行ったこと。

 

摂食障害が長引き、低栄養状態が続くと、無月経になったり、甲状線ホルモンの働きに支障が出てきたりと、様々な影響が出始めます。
 

回復したいという気持ちが芽生えると同時に、将来の健康状態に不安を感じ始めた私は、甲状腺ホルモンの検査をするため、親に付き添ってもらい病院を受診しました。
 

検査の結果、甲状腺ホルモンの働きに目立った変化はないということで、診察を担当してくれた医師は「好きなことはある?好きなことをするといいよ」と、自分の好きなこと、興味の持てることを見つけ試してみるよう薦めてくれました。
 

当時は低栄養状態が続き、常に体はだるく頭はぼうっとしているような状態でした。回復したいと思い始めてからは、明るい方へ向かい始めた自分の気持ちになかなか着いてこない身体にかなり不安を覚えていたので、医師の優しい言葉にとても励まされたことを覚えています。
 

「ああ、そうか。自分に好きなことをするのを許していいんだ。」
 

胸のつかえが取れたようでした。
 

その後、少しずつ回復の道を辿り、18歳になる頃には体重も安定し月経も定期的に来るようになりました。回復の過程では、漢方のクリニックを受診し暫く漢方薬を服用していたことなど、他にも様々な要因があると思いますが、要となったのはやはり「自分を許していい」「自分にそんなに厳しくしなくていい」という自分自身に対する”許し”の感情でした。
 

おわりに。

 

私は摂食障害を心の病だと考えます。摂食障害で苦しんでしまう方は、自分に厳しすぎるが故に様々なことに罪悪感を感じ、それが摂食障害の症状となって現れてきてしまうのではと思います。その背景にある事情は人それぞれですが、自分にそこまで厳しくせずとも良いはずです。
 

人生で最も長く一緒にいるのは自分自身です。一気に好きになれなくても構いません。まずは自分の外見も中身も「受け入れる」ことを目標にしていくのはどうでしょうか。そのプロセスが進むにつれ、摂食障害の症状も自然と軽くなっていくことと思います。それが私にとっては“許し”という感情から芽生えたものかもしれません。
 

記事をシェア

この記事を書いた人

吉本 なつ実