利便性の先にある、ひとの気持ちをデザインする。視覚障害当事者の学生起業家が語るユニバーサルデザイン。

当事者でないひとに対して、自分の生きづらさを伝えるということは、とても難しいことです。理解して欲しくても、共感してもらえないという想いは、誰しもが一度は感じたことのある葛藤だと思います。それでも時には、他人の手を借りなければ生きていけない時もあります。そんな時、当事者と非当事者はどういった形でコミュニケーションを取っていけば良いのでしょうか。
 

視覚障害当事者の学生2名が2015年2月に設立したベンチャー企業、株式会社アーチャレジー。社長の安藤将大さんは、必ずしもモノに頼らずとも、ひとの気持ち次第でより生きやすい社会を作ることが出来ると語ります。弱視者向けに使いやすい製品やサービスの開発を行う彼らの、その根底にある想いを聞きました。
 

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安藤 将大(あんどう・しょうた)
1994年生まれ。神奈川県育ち。
株式会社アーチャレジー 代表取締役 社長。東京工科大学在学中(2015年12月現在)
朝顔症候群という先天性視覚障害のある障害当事者。2014年に横浜ビジネスグランプリにて視覚障害者向けサービスを提案し、120組の応募者の中からファイナルに進出。2015年2月に、株式会社アーチャレジーを設立。視覚障害者向けの製品、サービス開発を手がける。
浅野 絵菜(あさの・えな)
1993年生まれ。東京都出身。
株式会社アーチャレジー 取締役。明治学院大学在学中(2015年12月現在)
網膜色素変性症という進行性の視覚障害のある障害当事者。共同経営者として株式会社アーチャレジーの設立に参画。同社の開発した白黒反転の手帳「TONE REVERSAL DIARY」のデザインを手がける。

 

株式会社アーチャレジー 公式ウェブサイト
http://archalle.co.jp/index.html

「TONE REVERSAL DIARY」特設サイト
http://trdiary.archalle.co.jp/
 

━ まず、御社ではどんな事業をされているのでしょうか?
 

安藤:弊社は視覚障害者向けの商品、サービスの開発、コンサルティングを行っています。製品としては視覚障害者当事者の目線でより使いやすいものを生み出していこうと考え、作らせて頂いたのが黒地に白のペンで書く白黒反転の手帳「TONE REVERSAL DIARY」になります。弱視の方は白黒反転が見やすいということが一般的なのですが、黒い紙にこういった罫線の印刷された手帳は今まであまりありませんでした。見やすさは担保しつつデザインを良くしているという所がこだわりですね。なかなか福祉系の製品でデザインにこだわったものは少ないと思います。しかしデザインにこだわりすぎると見やすさというもの失われてしまいますので、視覚障害者でも使いやすいように様々な工夫を凝らしています。見やすさへの工夫は当事者ならではだと思いますね。視覚障害イコール全盲というのが皆さんのイメージにはあると思うのですが、微妙に見えるひとたち、微妙に見えないひとたちが居るんですよということをもっと発信したい。そういった考えから、当事者でも使いやすいし、晴眼者にも十分使える手帳というものを作らせて頂いております。
 

白黒反転の手帳「TONE REVERSAL DIARY」2016年版

白黒反転の手帳「TONE REVERSAL DIARY」2016年版


 

━ この手帳は具体的にはどのような特徴があるのでしょうか?

安藤:まず表紙を含めて全ての角を丸くしています。これは近づいて見た時に目を傷つけないようにという工夫です。加えて、開きをかなり良くして、ぺたんと開くようになっています。眼を近づけて書いた時に、紙が自分の方に跳ね返ってくるのが煩わしいので、癖をつけてしまえばきちんと平たくなるようにという工夫です。線の部分は白色に近い銀色になっているのですが、これは白色のペンで予定を書き込んだ時に、予定が目立つようにという工夫です。年間スケジュールとマンスリーの部分については、まず休日が一目で分かるように、細かい数字までは見えなかったとしてもハイライトで白抜きになっておりますので、連休の部分がどこに有るかなどは大体解るという風になっています。また、日付をまたいではみ出しても見やすいように、マンスリーの縦線は点線にしています。一方で、行を読み間違えないように横線は太めの線を使っています。これは視野狭窄の方向けの工夫ですね。
 

手帳を開いてみると…

手帳を開いてみると…


 

安藤:ウィークリーの部分は、よく見て頂くと、罫線の所にドットが入っていまして、これは見える方には時間区切りのドットとして使って頂ける。逆に見えない方については、ドットを小さめに打っているので、文章を書いた時に邪魔にならないようになっています。
 

マンスリーとウィークリー、それぞれに細かい工夫が施されている。

マンスリーとウィークリー、それぞれに細かい工夫が施されている。


 

安藤:あとはフリースペースなんですが、以前のものは完全に無地だったんですが、そうすると黒っぽい机の上だと紙と机の境目がよく見えないので、ここで終わりですよという線を引いて解りやすくしています。これは2015年版からの改良点になりますね。
 

━見やすさというのも色々なレベルのひとがいたり、色々な見えづらさがあったりすると思いますが、そのリサーチはどのように行ったのでしょうか?
 

浅野:まずは私たち二人が障害当事者であるということで、それぞれで見やすいものをお互いにモニタリングしました。例えば、フォントに関しては、安藤にモニターしてもらって、どれが見やすいかというのを検証しました。とくに「5」と「6」とか「8」と「9」みたいに繋がっていると別の数字になってしまうものは区別しにくいので気をつけました。同様に、日本語と英語で見やすいフォントを使ったり、3種類のフォントを混合で使っています。ある程度飾り字にしたいなと思いつつも、やりすぎると見えづらくなってしまうので、なるべくシンプルで見やすくおしゃれなものを選びました。大きさについても、晴眼者の方にとって大きすぎるというのは良くないので、程よい大きさを検討して。そのあと、当事者団体の方々にある程度出来た段階でご覧頂いてご意見を頂いたりしました。程度や種類の問題に対応する為にはまず当事者の方に触ってもらわないと解らない部分も有りますので、当事者に協力していただくかたちでリサーチを行っています。
 

━ 私自身も弱視がありますが、私の場合は筆圧が強く、濃く書くので鉛筆の先っぽが折れてしまったり。紙を貫いてしまったりということが良くありました(笑)。
 

安藤:私も小学校の頃は6Bの鉛筆を使っていましたね(笑)その方が濃くて見やすいですから。ゆっくり濃く書くという方は結構いらっしゃるので、裏抜けがしないように、紙は気を使っているんです。最近の手帳は薄いので、しっかり書くと後ろに透けてしまったりということがありますから、透けないようにしっかり厚みのある紙を使っています。
 

━ ノートとかに目を近づけて書くと、前のめりになるせいで手首の辺りが真っ黒になるんですよね。
 

安藤:私の場合はもっと近づけないといけないので、頬や目元が黒くなりますね(笑)。
 

━ 実際多くのひとに見てもらっての反響はどうですか?
 

安藤:こういうのを待っていたという声を頂いたというのが弊社としては一番嬉しかったところですね。手帳としてだけでなくとも、実際に使いやすい、使えるものが出来たのかなと思っています。
 

━ 視覚障害当事者として、いままで多少なりとも生きづらさを感じることがあったと思います。その辺りをお聞かせ頂けますでしょうか。
 

安藤:私の場合は「朝顔症候群」という先天性の視覚障害があります。視力が悪いんですが、右眼はゼロ。左眼は0.03。視野は30度くらいですかね。紙に文字を書く際は机から数センチの距離に顔を近づけて書いています。小学校は盲学校で、中学校は一般の中学校に行ったんですが、そこでやはり晴眼者の方との差は感じますよね。授業の進む速度も違いますし、出来ることも違う。例えば、体育はバレーボールはさすがに無理かなとか。あとは、試験の時は別室受験、時間延長があったり。ただ、私の場合は先天性の視覚障害なので、これが私の普通なんですね。これよりいい世界を知らないので。でもそういった違いを私自身は気にしないけど、周りが気にするケースがあって、そこが確かに生きづらさですよね。皆さんそこまで知識も無いですから、理解してもらうまでに時間がかかるというのがもどかしいし、辛い所ではあります。私の場合は動ける時は動けますし、走ろうと思えば走れるし。けれど、本をかなり近くで見たり、弱視机と言われるもの使っていたり。晴眼者の方にとってみたら、一体何が良くて何が悪いのか凄く理解しづらい。見えない訳ではないけど、見える訳でもないという。そういう所でぎくしゃくするところもありますし。周りとのやり取りがすごく複雑になりますね。
 

安藤社長のデスク。文字はPCの拡大機能を使って読んでいる。

安藤社長のデスク。文字はPCの拡大機能を使って読んでいる。


 

浅野:私の場合は「網膜色素変成症」という視野が次第に欠けていったり、暗い所がよく見えなくなる進行性の病気で、今両眼の視野が5度ずつです。視野狭窄が進行しているというのは最近解って、障害者手帳を持ったのが2年前なんですが、その時から白杖を使っています。視力に関しては、今はハードコンタクトを付けていて、左が0.5の右が0.6〜0.7くらいですね。私の場合は安藤とは逆に、読み書きは特に問題は無いんです。ふつうに小さい文字も読めますし、けれど視野が狭いので歩いている時に周りのひとにぶつかってしまったり。白杖を持っていないとちょっと歩くのが怖くて。でも周りのひとには、どういう時に見えるのかが解らないって言われちゃう。暗い所だと見えないといっても、微妙な暗さだと、これでも見えないのかって言われちゃったり。なかなか説明が難しくて。友達と夜にどこかに一緒に行ったり、花火をするのにも自分からは取りにいけないから、それも友達に任せてとか。みんなに迷惑かけちゃうと思ってしまう。私も色々気を使わないといけないし。あっちも気を使うしってなって。居づらくなることがあります。それと、以前は自分が視覚障害という自覚が無いというか、自分がなると思っていなかったので、それをなかなか受け入れられなくて。受け入れた瞬間からは、自分の病気をポジティブに捉えられるようになったんですけれども、それまでは大変でしたね。私もその気持ちがわかっているから、やっぱり中途のひとたちをどうにかしたいなって思います。
 

━ まず眼鏡をかけていないというところが。普通のひとには理解出来ないところですよね(笑)。
 

浅野:私、実は視覚障害あるんだよね、視野が狭いんだよねって言ったにも関わらず、「眼鏡かけないの?」って聞かれて。眼鏡かけても視野は広がらないしって思ったり(笑)。
 

安藤:絶対それは言われますよね。「どんな風に見えているの?」と「眼鏡かけないの?」って。そんなの知らないよと思いますけど(笑)。だから、結局イメージですよね。固定概念。視覚障害者イコール全く見えないひと。眼が悪いイコール眼鏡をかけているひと。白杖イコール視覚障害者だし。そういう○○っぽいなみたいな思い込みは解消していきたいなと。それぞれの色があって、障害にも色々あるということを伝えていく、解決のきっかけを作れればいいなと思います。
 

━ でも、何で理解してくれないんだというスタンスで伝えていってもしょうがないですよね。
 

安藤:そうですね。伝え方の問題もあると思いますし、理解してくれないひとが決して悪い訳でもない。
 

━ やっぱり難しい面はありますよね。ひとと比べてどう見えづらいかって程度がつかめないから、どう伝えていいのか解らないし、どういう風に聞いていいのか解らない、その辺りはどう伝えていけばいいと思いますか?
 

安藤:見えづらさを伝えるのは非常に難しいですよね。いま手を差し伸べるべきなのか、いや、でも今手を差し伸べても、見えていたら邪魔だしなとか、周りも思う訳ですよね。結構、お互い気を使ってしまう。相手に気を使わせているということを考えることが、私たちにとっても多少の負担はありますし。私が取り組んでいるのは、伝える時に何か例えを考えるんですね。例えば黒地に白が見えやすいんだと言っても、「ふーん、そうなんだ。」で終わってしまいますけれども、小学校って黒板使っていたよね、ホワイトボードじゃなくて黒板なのは眼に優しいし緑は落ち着く色だから小学校の児童には昔から黒板が使われているんだよという話をすると、確かに!ってなる。プログラミングをやっている方だったら、ソースコードって黒地に白で書いてますよねとか。そういうことを例えでお話しする。
 

キーボードも黒地に白文字のものが多い。

キーボードも黒地に白文字のものが多い。


 

安藤:視野狭窄のお話をする時は、例えば、歩きスマホをしていらっしゃるときに周りにぶつかる時ありますよね。スマホに意識が集中していると視野が90%くらい無くなってしまう、だから視野狭窄ってずっと歩きスマホをしている状態なんですとか。そういう、実際そうではないけれども少し近い例えで表現してみる。身近に落としこんで説明すると意外とラフにコミュニケーションが取れるようになるのではないかと。過度に重たく捉えられても困るという所もありますから。冗談半分に言えるようになればいいんですけど、なかなか聞いていいのか良くないのかも解らないという方が多いですよね。
 

━ そういった所は、当事者から発信していかないとなかなか認知されないですよね。
 

安藤:そうなんですよね。そこは難しい所で、当事者が発信していかないと解らないよというところはある。それを補助するものが周りのハード面でも、ソフト面でも、必要だなというのはありますね。
 

━ 例えば、今日ここまでバスで来たんですけれども、乗り場の導線が複雑になって、黄色い点字ブロックを縦断していて、機能を果たしていないなと感じました。
 

安藤:実際、使う側の使いやすさという観点から点字ブロックを設置している状態というのが、あまりないのではないかというのが私たちの見解ですね。作る時はバリアフリーだと思っていたけれども、その場所を使う時、例えばバス会社がレーンをひいいたときにその点字ブロックが生きるかというとなかなかそうはならない。だから、ハードもしっかり考えて導入しないと、逆に邪魔になってしまうこともありますよね。列にわざわざ突っ込ませてしまう為のブロックなんてあってはいけないし。もう無い方がよっぽどいい。そういうものも世の中には点在しているかなというふうに思っています。
 

点字ブロックを横断して引かれた導線。

点字ブロックを横断して引かれた導線。


 

安藤:でも、もしも点字ブロックが無かったとしても、視覚障害のひとが来た時にまわりのひとが声をかけて「列はこちらですよ」「ありがとう」っていうコミュニケーションが日常的に成り立つのであれば、そのソフト、ひとの気持ちだけで全て解決してしまって、実は点字ブロックは要らなかったということにもなりますよね。やっぱりソフトの部分、気持ちの面を作らないといけないということになるかなと思います。
 

━ 便利なものがありさえすれば解決する問題ではないと。コミュニケーションがありきということですよね。
 

安藤:そうなんですよね。結局は便利なものが無かったとしてもソフトの面で支えられれば、意外と解決出来るものって沢山あると思うんですよ。ハードが絶対に解決するものかというとそうではなくて、結局ソフトが一番重要でハードはいっそ要らない物かもしれない。要らないハードを作るよりも、ソフトを支えるハードを作る方が面白いじゃないかというのが私たちの考えですね。結局、弊社で出している手帳も実は弱視向けとしては売っていないんです。ただのおしゃれな変わった手帳として売っていて、それは何故かというと、まず普通のひとに手に取って頂いて、まず最初はおしゃれでいいなと思って買って頂く。調べてみたら黒地に白文字の方が見やすいひとが居るということに気づく、それで弱視の存在を知って頂く。それで、じゃあ今度弱視のひとに会った時に、私はこういう手帳を使っていて、そういうひとも居るんだよねという話が出来る。そういうきっかけにも、こういうプロダクトの存在はなるのかなと。そういうところで、ソフトを支える為のハードというものを私たちの方では考えて、製品やサービスを世の中に提供して、それぞれの個々のアクションのきっかけに繋げていく。会社としてもそういう所が課題なので取り組んでいきたいなと思っています。
 

━ 言い方を変えたらメディア的なというか?
 

浅野:そうですね。ひとつの媒体に弊社がなるのもいいのかなと考えています。最初からこの手帳は障害者にも優しいんですみたいに売っていたら、手に取りにくいですし。
 

安藤:ユニバーサルデザインに興味のあるひとしか買いませんからね(笑)。私たちが届けたいのは全く興味の無いひとたちなんですよ。そこがなかなか難しい。もっと気軽に感じてもらいたいなと。
 

━ 今後これをやっていきたいということがあれば教えて下さい。
 

浅野:手帳に限らず、既存の文具で文字が小さかったりとか、そういった視覚障害者ならではのニーズに応えていければなと思っています。福祉系の機器は、機能性に特化しがちなので、女性にはもっとお洒落なものとかすっきりしたものとかがあったらいいなと思うひともいると思いますので、なるべく誰が使ってもおかしくないようなものを作っていけたらいいなと思っています。まさに視覚障害者っぽくないものがいいなと。
 

新商品の白黒反転ノート 「TONE REVERSAL NOTE」

新商品の白黒反転ノート 「TONE REVERSAL NOTE」


 

安藤:障害当事者に対しては、東京では、日本点字図書館や、視覚障害者向けの施設や団体があって、中に入れば結構情報が入ったりするんですが、僻地に住んでいるひとにはそういう情報が入らないといったことがあります。弊社で今行っているのはYoutubeでの動画配信なんですけれども、視覚障害者でも使えるこういったものがありますよといった形で製品を紹介する。そしてどういった所で買えるのか。買えないようなものは弊社のネットショッピングを通じて提供出来るようにしていく。一般の方向けには、視覚障害者が普通どういった生活をしているのかという紹介をしていくことで理解を促していく。製品としては、白黒反転の文具を他の形で展開出来ないかといったところで、ある程度広い視野を持ってやっていこうと思っています。
 

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