仕事で新入社員研修の講師をしていると、不思議なもので「こいつは数年後に伸び悩むだろうな」という社員がわかるようになってきます。
そんな社員は得てして入社時の知識やスキルは高く、プレゼンもうまいから不思議なものです。知識もスキルも他の新入社員より優れている新入社員は、意識的か無意識的かに関わらず、どこか周囲を見下してしまうのです。けれども、知識やスキルは、特殊なものを除くと、入社半年もすれば他の新入社員も同じものを身につけられます。結果として、その頃には、入社時に持っていたアドバンテージなどなくなってしまうのです。これが、入社時に優秀なだと思った社員が伸び悩む理由の一つです。
では、入社時にはたいした知識もスキルもないけれど、伸びる社員はいるのでしょうか。私の感想では、確実に存在します。むしろ、そういう人材の方が多いのではないかと思うくらいです。伸びる社員はできない自分を自覚しています。できないとわかっているから、こちら(現場では上司や先輩)の指摘は素直に聞いて修正してきます。いわば、常にPDCAを回している状態です。「現状の自分ではヤバイ」と感じているからこそ、変化をいとわないのです。
実際に私が研修を担当した企業でも、入社時の研修にて、人前で挨拶するにも顔を真っ赤にしていた女性が、一年後には好成績で史上最速の昇進を果たした例があります。一方、入社時には「史上最速で昇進したい」「絶対に一番を獲る!」と息巻いていた社員の成績が芳しくないとのことでした。両者の違いが何かといえば素直さであったと思います。少し極端に言いかえれば「このままの自分ではダメだ」という危機感です。「絶対に一番を獲る」と言っていた社員は「自分の能力なら一番はいける」という過信があったような気がします。知識量も豊富でよく勉強しているという印象で、研修中も積極的な質問がありましたが、もしかするとあの質問も「自分は他の新人とは違うんです」というアピールだったのかもしれません。
以前「クリリンはサイヤ人にはなれない」という記事にも書きましたが、新入社員においても、自分の状況を素直に認めることが非常に重要です。仕事で言えば「自分は優れた人間ではないから周囲の人と協力して仕事を進めよう」とか「他の人を頼ろう」と考えることが、その人の評価を高めることにつながりやすいと思います。
クリリンは自分自身が最強ではないものの、ドラゴンボールという物語のキーマンであり主要キャラの一人であり続けました。企業は一人の天才よりも組織として好結果を出し続けられるキーとなる人間を求めるものです。一人のスーパーサイヤ人に頼るのは組織としてリスクが大きすぎるので、たくさんのクリリンを用意しておきたいのです。ですから、企業人として生きていきたいのなら、無理にスーパーサイヤ人を目指すのではなく、自分はクリリンだと認め、他者との良好な関係性を築くことに力を入れたほうが、結果的に周囲からも認められ、生きづらさが軽減していくのです。
今の時点での能力なんて気にする必要はないのです。ボスキャラだと思っていたラディッツが、実は弱虫ラディッツだったなんてことは、実社会においてもたくさん起きているのですから。