先月(2015年7月)の話ですが、岩手県矢巾町の中学2年生の男子生徒が自殺するという痛ましい問題が起こりました。メディアでも連日話題に上がりましたが、その原因にいじめがあるということは大々的に報じられました。
平成25年9月に「いじめ防止対策推進法」が施行され、全国のほとんどの学校でいじめを防止するための基本方針が策定されているようですが、今回のケースのような痛ましい問題は防ぎきれてはいません。またメディアに報じられていない突発的な児童や学生の自殺なども含めて考えると、いじめを苦にしての自殺というものは根深い問題として横たわっています。
国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターは先月、教職員向けに「いじめに備える基礎知識」という小冊子を発行しました。法律や制度を整備したところで、それを運用する側の意識や行動が変わらない限り、問題は解決しません。この小冊子は教職員に求められるいじめに対する正しい認識、また教職員に期待されている行動等を改めて解説することを目的に作成されており、「いじめの理解と定義」「いじめの発生実態」「いじめの未然防止」といった章立てで構成されています。
個人的には「いじめの理解と定義」のサブキャッチが「いじめイメージを更新する」という文言だったことが印象的でした。この章では、いじめと暴力の違いの説明をした後、暴力を伴ういじめと暴力を伴わないいじめと二分した際、暴力を伴わないいじめが昔ながらのいじめという認識を生みやすく、深刻に捉えにくいという意見が提示されていることに、教室の現場感が伝わってきました。学校現場にいろいろと意見を言いたくなるひとは多数いますが、現場のプロは教職員。教職員なりの温度感での判断を知ることができ、非常に勉強になりました。
ただ、最近の傾向のひとつとして挙げられるネットを介したいじめやSNSが絡んだいじめに関する言及等が非常に少なかったことには危機感を覚えます。
近年、評論家や専門家の中には、学校のいじめ対応が後手に回る理由として、「スマホ(LINE 等)で行われていること」や「児童生徒が相談してくれないこと」などを挙げ、学校の対策が追い付いていない点を指摘する傾向があります。しかし、重大事態にまで発展したものを見る限り、そうした指摘は当たっていません。(11ページ)
これは調査としては事実なのかもしれませんが、若者や学生のコミュニケーションツールに間違いなくスマホが入り、コミュニケーションの場のひとつがSNSである以上、ここで起こりうるいじめのリスクを考えなくてはこの小冊子の価値が薄れてしまいます。学校としてスマホを禁止していることはあるでしょうが、それは学校内での話でしょ?”重大事態にまで”ってそこにいくまでに防がなくては意味がないじゃん!というのが子どもをもつ親としての本音です。
もちろん、ネット上のいじめを教職員が面倒を見るかというのは論点のひとつになると思いますが、この小冊子が「いじめに備える基礎知識」という名前になっている以上、それでは意味がなくなってきてしまう。結局は対策的な側面でしか構成されておらず、予防的な側面は入っていないのではないかと心配になってしまいました。
とは言っても、まずは小冊子があるという事実が大切で、そこからブラッシュアップしていくことでより精度の高いものが生まれてくるものだと思います。ネット上では教職員だけでなくほとんどのひとが閲覧可能ですので、ぜひ一度読んでみてください。
(参照)
「いじめに備える基礎知識」|国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/2507sien/ijime_std.pdf
生徒指導支援資料(いじめ関連)|国立教育政策研究所
http://www.nier.go.jp/shido/shienshiryou/