文部科学省は4月末、性同一性障害に係る児童・生徒へのきめ細かな対応の具体的な配慮事項等をとりまとめ、各都道府県や指定都市の教育委員会などに向け、通達しました。「学校における支援体制の整備」や「医療機関との連携」、「学校生活の各場面での支援」や「当事者である児童生徒の保護者との関係構築」など様々な観点での指針が打ち出されています。
学校における支援事例として、自認する性別の制服・衣服や体操着の着用を認めるという服装面、保健室・職員室トイレ・多目的トイレ等の利用を認めるという更衣室・トイレ面、名簿上自認する性別で扱う、希望する呼称で校内文書を記すなど呼称の工夫面など、様々な切り口での事例が挙げられています。他にも体育の授業や水泳、修学旅行での宿泊などのケースも挙げられています。
ただ、この支援事例の多くはハード面、まだまだ人の心や価値観の部分に当たるソフト面までは言及できていないことが実状です。学級やホームルームの運営、教職員の姿勢に関しての通達はあるものの、最終的には教職員一人ひとり、学級にいる同級生一人ひとり、それを取り巻く親御さんやPTA、地域住民に至るまでの一人ひとりが、どのような考え方をもち、どのように接していくのかが鍵になります。知識や情報を得た上での各人の意見であれば尊重すべきだと思いますが、知識や情報がない中で生まれる偏見や思い込みから、性的マイノリティの方々に対する価値観が生まれるのはもったいないですし、双方に前進がありません。
性はグラデーションです。生まれつきの性(戸籍上の性)である身体的な性、自分自身の性別をどのように認識しているかである性自認、性的な意識(男性が好き、女性が好き)の方向性である性的指向、社会生活上での振る舞い(服装、行動、役割)に関わる社会的な性、この4つの軸で考えたときに、自分がどこに位置するのかで自身の性が判別されます。気づいていないだけで、自分の性と同じ位置の人がいないケースも往々にしてあります。
性的マイノリティの方の講演などでは、性がグラデーションであるという説明から始まることがあります。まずは「知ってほしい」というニーズが、当事者のベースとして存在しているのでしょう。初等教育の時点で学んでいれば、大人になって初めて性に関する知識を得るなんてことはほぼあり得ません。学校で習うのであれば、教えるのは教職員。まずは教職員を始めとする教育業界の方々が、偏見なく伝えられる基礎を作ることが大事なのだと思います。今回の通達は、当事者児童・生徒への配慮を促すことだけでなく、教職員の方々がフラットな視点で性に関する知識、性的マイノリティの方々に関する情報を伝えていかなくてはならないというメッセージなのではないでしょうか。
●参照
文部科学省|性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について(2015.4.30)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/04/1357468.htm