バスが走っていない。自分で車が運転できない。近くにお店がない。様々な理由や背景から、食料品や日用品などの買い物に困難が発生するひとのことを「買い物弱者」といいます。経済産業省は「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買物が困難な状況に置かれている人々」と定義しています。平成27年4月15日の経済産業省の発表によると、買い物弱者は700万人いるといわれ、5年前の前回調査時から100万人増え、今後ますます増加傾向にあることが想定されています。
700万人という数字は、60歳以上の高齢者人口4,198万人(総務省調査)に「日常の買い物に不便」と感じている高齢者の割合17.1%(内閣府調査)をかけて算出しているもので、計算式からは、買い物弱者が高齢者であることが分かります。ちなみに、700万人は、障害者人口や糖尿病人口と近く、埼玉県の人口総数とも近い数です。
買い物環境の悪化は、低栄養状態を引き起こし、結果的に健康問題につながります。また、英国では低栄養が医療費や介護費の増加をもたらすとして、その経済損失が議論されているほどです。買い物弱者の問題は福祉的な面だけでなく、経済的な面でも影響を及ぼします。
買い物弱者を減らす、あるいは状況を改善するための事例はたくさんありますが、興味深い事例は以下の2つです。
●株式会社光タクシー「枝光やまさか乗合ジャンボタクシー」
福岡県北九州市の枝光地区での取り組みである「枝光やまさか乗合ジャンボタクシー」は、株式会社光タクシーが創業50周年の記念事業としてはじまりました。高台に位置し、急な坂道の多い枝光地区の高齢者を商店街まで運ぶための14人乗りジャンボタクシーを走らせました。タクシーの運賃が150円ということもあり、採算性が難しい背景はあるものの、枝光地区内でのタクシー事業の売上上昇の一因となったという検証結果が出ています。買い物弱者の問題を解決しながら、自社の営業促進にもつながったという事例です。
●株式会社大国屋/がんばろう若山台「リトルマート大国屋」
大阪府三島郡の「リトルマート大国屋」は、2007年に団地内スーパーが閉店して以来、4年間団地に買物施設のない状態が続いていた状況を受け、団地の自治会が中心となりスーパーの大国屋を誘致、100㎡の敷地に「リトルマート大国屋」が開店しました。年間7200万という売上を確保し、当初の想定通りの採算が取れています。また、お店に行くという一歩を通じて、団地住民が外に出てくるようになり、地域コミュニティの場が形成されていることは大きな価値のひとつです。買い物弱者問題を通じて、採算がとれ、団地としての一体感を高めることに貢献している、win-winの事例です。
高齢化社会は今後より顕著に進んでいくことが明らかですが、たくさんの問題が付随して発生します。買い物弱者の問題はその一部です。解決の手段、支援の形など、アイデアも様々出てくると思いますが、採算が取れる、ブランディングにつながるというメリットがなくては、なかなか実現できません。上記のような事例から、社会問題の解決のヒントを見つけてみるのもいいかもしれません。
(参考)
買物弱者応援マニュアルver3.0
http://www.meti.go.jp/press/2015/04/20150415005/20150415005-4.pdf