『彼は秘密の女ともだち』ー「男らしさ」からの脱出ー

こんにちは、新名庸生です。今回扱うのは2014年のフランス映画『彼は秘密の女ともだち』です。
 


 

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【ストーリー】(公式サイトより)
 

クレールは幼い頃からの親友のローラを亡くし、悲しみに暮れていた。残された夫のダヴィッドと生まれて間もない娘を守ると約束したクレールは、二人の様子を見るために家を訪ねる。するとそこには、ローラの服を着て娘をあやすダヴィッドの姿があった。ダヴィッドから「女性の服を着たい」と打ち明けられ、驚き戸惑うクレールだったが、やがて彼を「ヴィルジニア」と名づけ、絆を深めていく。
 

夫に嘘をつきながら、ヴィルジニアとの密会を繰り返すクレール。優雅な立ち居振る舞いにキラキラ輝く瞳で、化粧品やアクセサリー、洋服を選ぶヴィルジニアに影響され、クレール自身も女らしさが増してゆく。とある事件を境に、ヴィルジニアが男であることに直面せざるを得なくなったクレールが、最後に選んだ新しい生き方とは──?

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私自身もたまに女装をします。しかし「女装」という言葉にはあまりにも多くの偏見や先入観にまみれているため、私はこの言葉をあまり好みませんし、この映画のテーマとしても言葉足らずです。この映画に通じる部分があると感じるので、少し私自身の話を紹介させていただきたいと思います。
 

私が女性の服に興味を持ち始めたのはおそらく思春期あたりで、綺麗だったり可愛かったりする女性に心惹かれたときでした。最初はそれを恋だと思っていたのですが、世の中には多くのそういう魅力的な女性がおり、そんな女性たちと接するとすぐに心惹かれる自分自身に次第に疑問を感じるようになりました。相手の人となりを良く知らないのに好きになるのは何故だろうかと。そして思い当たったのがその女性らしいルックスやファッションでした。
 

たとえ高級品でなくても女性の服のデザインは過去からの研鑽を受け継いでおり、身に着けるだけでその女性を魅力的に見せる力を持っているのではないかと思いました。可愛らしさや美しさを与えてくれるデザインに興味が湧くのは男性にとっても自然なことだと私は思います。社会的便宜上、人は男と女の二種類に分けられていますが、性はグラデーションであり、多くの男性にも女性的な部分があると思うからです。
 

しかし、可愛らしさ・美しさは女性の担当であり、男が自ら身に着けようとするのは滑稽であるという固定概念があります。ですから男は可愛らしさ・美しさを手に入れるため、自ら装うのではなく、そういう魅力のある女性を手に入れたいと思うようになります。しかしもしそうなら、これは遠回りであり、不自由なことです。おそらく多くの男性がこの不自由さの存在をどこかで感じ取っているはずですが、それをはっきりと意識して自らも可愛らしさ・美しさを装うという行動に出ようと思う前に壮絶な壁が立ちはだかっています。「男らしさ」の壁です。
 

20151110
 

「男だから泣くんじゃない」「男なんだからしっかりしないと」「弱音なんて吐くな」。こういった教育は世界中の多くの文化圏でなされており、多くの男性に社会的アイデンティティを与え、目指すべき理想を示してきました。しかしこれらの価値観は段々と時代に合わなくなってきています。
 

日本の自殺率が世界の中でも高いことはよく知られていますが、その約7割を男性が占めており、男性の自殺率が女性よりも高いという傾向は世界でも同じようです。様々な事がその要因として挙げられるでしょうが、私は「男らしさ」への固執が男性から生活の潤いを奪っており、それが一つの要因になっているように思います。
 

ひとつの例として思い浮かぶのがまさにファッションです。お洒落をするということは日々の生活にちょっとした変化と潤いをもたらしてくれるものですが、男性のファッションのバリエーションは女性のものより限られており、男性ファッション誌は女性ファッション誌にくらべ種類もページ数も少ないというのが現状です。男という生き物が先天的にそういうものに興味がないわけではなく、そういうものに目移りしないのがかっこいいとされてきただけに過ぎません(「見た目より中身」)。自らの女性性を認めることも解放することもできずに社会が求める「男らしさ」だけを装い続ける人生に喜びがあるとは思えません。
 

私は、女性だけのものと思い込んでいた美しさが、タイツとハイヒールを履いた自分の脚にも宿ったときの驚きと感動を多くの男性にも味わってほしいと思っています。主人公ダヴィッドが女性の服を着るのに夢中になったのも、女になりたいからではなく、社会が作り上げた「男らしさ」から解き放たれ、より自由に生きることができるようになったからだと思います。スタンフォード監獄実験が示したように服装は予想以上に人の思考を制御しており、男性的な服装を着続けることは自らを「男らしさ」の檻に閉じ込めることです。
 

最近のサブカルチャーからの影響で、若者にとって男性が可愛さ・美しさを装うことへの抵抗は徐々に薄れつつあるように思います。アングラ的なイメージが強かった女装文化ですが、最近はコスプレのように気軽に楽しむ人も増えてきました。また、ボーイズラブ(BL)は既存の男らしさ(汗臭さ・豪快さなど)とは真逆の男性性の魅力(美しさ・繊細さ)も提示している点で、「男らしさ」の根本的な転換の契機になる気がしています。
 

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