「心地いい人材」であることが障害者雇用の輪を広げる ー就労移行支援事業所「SAKURA前橋センター」レポート

群馬県の県庁所在地である前橋市。JR前橋駅のすぐそばにある障害者就労移行支援事業所「SAKURA前橋センター」には、一般企業への就職を目指し、就職に必要なスキルの向上や情報の入手のために、多くの障害者が通っています。
 

就労移行支援事業所には、求職中の障害者が企業に就職できるようにサポートする就労支援、就職した本人が継続して働けるように企業との橋渡し役としてサポートする定着支援という2つの役割があります。
 

今回は群馬県で求職者へのアプローチ、企業へのアプローチをそれぞれ行っている戸谷さんと村上さんに、群馬県の障害者雇用の現状や就労移行支援の役割を担う側としての気概などを伺いました。
 

戸谷さん(左)と村上さん(右)

 

群馬県前橋市という地域柄

 

ー東京都心からだと電車で2時間ほどの距離にある群馬県前橋市。障害者雇用における地域柄、地域の特色などはあるのでしょうか。
 

「東京からは少し距離がありますが、大手企業が進出してきて、工場を出しやすいエリアになっています。実際に群馬県内の障害者雇用の求人を見ていても、工場での製造補助業務が多い印象を受けますね。」

 

ー以前行った取材(障害者雇用を進める地方企業の前にそびえる3つの課題ー長野県松本市 障害者雇用セミナーレポート)で、地方の障害者雇用の課題には「自動車通勤できるかどうか」が鍵になるとありました。
 

「それは群馬県も同じで、求人票の特記事項に自力通勤できる方と記載されているものがあります。東京などの首都圏と違うところですよね。それこそ、工場は人が住んでいないようなところに建つので、駅からは遠く、車で通勤できないと厳しくなります。就業場所が駅やバス停から近ければ・・・というお声を頂くことはありますね。」

 

ー綜合キャリアトラスト社は群馬県の障害者雇用の啓発事業を委託していると伺いました。
 

「はい。群馬県内の企業に訪問し、障害者求人や職場実習受入れ先企業を開拓するという事業です。「働きたい」と思っている方の選択肢が少しでも広がればいいなと思っています。群馬県の特徴として、群馬東部のエリアは東武線の影響で東京に働きに出るひとにいる。また、前橋と高崎でも状況は違います。県内の地域性をつかむことは、開拓活動には大切なポイントですね。」

 

パソコン実習の風景

 

「明日は我が身だ」と意識して臨む支援のカタチ

 

ー就労移行支援に携わる側として意識していることはありますか?
 

「SAKURA前橋センターに通ってくる方の中には、最近障害者手帳を取得された方がいます。その時に『明日、事故や病気に遭う、自分の気持ちが落ち込んでしまうかもしれない。明日は我が身なんだな』って感じたんです。だから『もし、自分がそうなったときに、自分がいいと思える支援・関わりを行っていこう』と話しています。」

 

ー障害者雇用の現場で上司や同僚が「障害のある方に遠慮してしまう」というケースがあることをよく聞きます。支援の現場でも、どこまで言っていいのかというハードルがありそうな気がします。
 

「障害があるひとに対して、心理的な遠慮が生まれてしまい、ブレーキをかけてしまうことはあると思います。それは、相手の方とどうやって関わりを持てばよいか不安だから・・・でもそれは、自分以外の誰かと関わるときには誰もが感じるものだとおもいます。だから、『ひととひととの関わりとして考えよう』、『相手にとって心地いい人材になってほしい』『支援者である以前に、いい人間であってほしい』そのあり方が、相手のために大事なことを伝えられる存在になっていくのでは…と思います。」

 


 

ー相手にとって心地いい人材っていいですね。
 

「心地いい人材であると同時に、利用者さんにとっては気兼ねなく相談できる、都合のいい人材、自分が就職するにあたって頼りになる使い勝手のいい人材でありたいなと思っています。私たちの人間性が試されるんですけどね。」

 

ー支援の現場にいる方々の「人間性が試される」という部分は支援者の皆さんにとっては大変だと思いますが、通っている方々にとっては「大切な拠り所」になりますよね。
 

「私たちが利用者さんと向き合うとき、寄り添う部分と俯瞰する部分が半分半分くらいでちょうどいいんだと思います。共感は大切なことだけれど、それだけになると利用者さんが安心して寄りかかれないというか、利用者さんにとって安定した存在ではなくなってしまう。一方で支援員の私たちが自分自身と向き合った時、いい人材にはなりたいという願いや意欲を持ちながらも、今の関わり方で良かったのかという思考や意識でいることが大切。そのバランスが難しいんですけど。」

 


 

100点を求めてしまいがちな障害者雇用の今

 

ー就労移行支援は、最大2年の通所の後に、求職中の障害者を企業に送り出す必要があります。送り出す企業の見極めなども行っていると思うのですが。
 

「配慮はしても遠慮はしない職場がいいですね。気を遣われるって気持ちがいいものではないと思うんです。仕事としてお願いするものに工夫はしてほしいけれど、遠慮はしてほしくない。その遠慮が関わりの遠さや薄さにつながってしまい、働く側に伝わってしまいます。」

 

ー先ほども「遠慮」について話題に挙がりましたが、企業側に「遠慮」はなぜ生まれるのでしょうか。
 

「障害者雇用の場合、一度うまくいかなかったと思うと、その一度が企業や職場全体に尾を引いていることがあります。『本当はこうしてほしい、でも伝えるのはちょっと・・・。』というような遠慮が生まれてしまうんです。『こういうところを工夫した方法で伝えてみよう』という配慮をしていただけると嬉しいです。そうやって採用活動のサイクルを何度もくり返して、働きやすいひとを見つけていけるといいんですけどね。」

 

ー失敗してはいけないという空気感が、障害者雇用には広がっているような気がします。
 

「常に、みんなが『よかったね』と思える状況を続けていきたいですが・・・。現実的には、とても難しいです。だから、一つの事象について一喜一憂するのではなくて、『次はこうしてみましょうか』というコミュニケーションや検討の機会を積み重ねていくことが大切なのかなと思っています。」

 

株式会社 綜合キャリアトラスト(サイトのスクリーンショット)

 

(今回の取材先)
株式会社 綜合キャリアトラスト SAKURA前橋センター
群馬県前橋市表町2丁目30-8 EKITA 4F
http://socat.jp/sakuramaebashi/
 

ライター:佐々木一成
 

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Plus-handicap 取材班