「生まれがどーのこーのじゃねェ お前が弱いから悪いんだ」
自分の辛さや苦しさを環境のせいにするのは簡単です。「親のせいだ」「家が貧乏だからだ」「障害があるからだ」などなど。
Plus-handicapの理事という立場上、読者のみなさんからいただくメールにも目を通していますが、ご自身の苦しさとその理由がつづられていることは少なくありません。しかし、理由を外部要因に求めている内容については私は一切返信する気がありません。むしろ、そういった方々には次の言葉をお送りします。
「一生、そうやって環境のせいにしてろ。」
冒頭の言葉は、漫画「るろうに剣心」に出てくる悪役、志々雄真実のセリフです。志々雄の信念は「弱肉強食」であり、「強ければ生き、弱ければ死ぬ」ことを自然の摂理とまで言っています。極悪人を自称する志々雄ですが、その配下には志々雄に心酔している者も少なくありません。命をかけてでも志々雄の理想実現のために尽くす者さえいます。「弱ければ死ねばいい」という考え方は、ともすればすぐに部下を切り捨てそうなものであるにも関わらずです。
私はそこに「極悪人の組織論」とも言える、組織のあり方を感じます。
組織には目的が必要ですが、志々雄一派の目的は「日本社会を変える」ことです。そのために明治政府の転覆(るろうに剣心は明治維新後、文明開化の最中の頃の話です)を狙っており、この目的は全員が共有しています。そこに志々雄の強さとカリスマ性が加わって組織として機能しています。
漫画を題材にした組織論だと、最近では「ワンピース」が取り上げられることが多いです。主人公ルフィ率いる麦わらの一味には、最終的に違う目的を持ったメンバーが集まっています。実は麦わらの一味は組織としての最終目的はバラバラであるとも言えます。
一方で志々雄一派は個々人の目的はあるものの、明治政府転覆という目的は共有していて、そのためには自分たちが悪人と罵られようと関係ないという態度も共通しています。
現実においても、社会を変えようとすれば多かれ少なかれ反発にあいます。価値観の違いによって生じる衝突の場合はその解決が難しいケースも少なくありません。そんなときに組織の活動を前進させるには、極悪人の組織論が必要だと私は思うのです。
具体的には、目的の共有、能力重視、絶対に価値観を崩さない姿勢の明示の3つの実践です。
目的の共有は言うまでもないかもしれませんが、本当に徹底できているケースは実は多くありません。志々雄一派の場合、メンバーは自分たちのやっていることが「悪」であると理解しています。志々雄の恋人(?)役である由美が死に際に「一足先に地獄でお待ちしています」と言っていることからも、自分たちは地獄に落ちる存在と認識していることがわかります。自分たちは正義でないと認識しながらも目的を共有できる。これが極悪人の組織の強みかもしれません。
能力重視も物事を遂行するときには絶対に必要な要素です。ここできれいごとを言って「能力よりも気持ち」などと言っていては前進しないでしょう。志々雄一派の十本刀ナンバー2の実力と言われる宇水は「いつでも志々雄の命を狙ってよい」ことを条件に協力しています。トップの志々雄が圧倒的実力を持っているからこそ、そんな条件も認められています。
最後に絶対に価値観を崩さない姿勢をトップが明示すること。これはなかなかできるものではありません。どれだけ叩かれても「自分の考えを変える気はない」と言い切れるでしょうか。志々雄の言葉を借りれば「てめえのものさしで語るんじゃねぇよ」です。トップが絶対に価値観を崩さない姿勢を示しているからこそ、トップを心から慕うものも出てきます。相手によって自分の考えを曲げてしまうような人間は、無難に嫌われない生き方はできるかもしれませんが、人を率いることは難しいでしょう。
Plus-handicapの読者のみなさんの中には、社会に怒りを感じている人もいると思います。社会を変えていきたい、変えなければいけないと思っている方もいるでしょう。そんな方々にこそ極悪人の組織論は必要です。
自分の不遇が環境のせいだと思うのなら、その環境を変えましょう。環境を変えられないなら、他の方法で自分だけでも不遇から脱しましょう。あなたの力で。そのために周囲からなんと言われようと、自分の価値観を押し通してみてはどうでしょうか。自分の価値観を押し通しても周囲がわかってくれない、何も改善されないのなら、それはあなたの価値観が間違っているのではありません。あなたが弱いから周囲を変えられないのです。