医療現場の闇から光を見つけた私のリアル。社会起業家ナースという働き方を選んだワケ。

皆さん、こんにちは。人と自然をつなぐナースこと杉本九実です。
 

私が「病院ナース」という働き方ではなく、「社会起業家ナース」という働き方を選んだ理由を医療現場の闇に飲まれそうになった私の体験をもとにお話したいと思います。
 

皆さんは「医療現場」を一言で表すとどんな言葉が思い浮かぶでしょうか?「病気を治療するところ」や「助けてくれるところ」といった言葉が思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、医療者の頭の中にはこの言葉が必ず浮かぶはずです。「医療現場=戦場」だと。そうです。私たちにとって医療現場は、戦場以外のナニモノでもないのです。
 

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私が「医療現場=戦場」だと思う理由は二つあります。「特殊な職場環境と労働内容」と「患者さんも含めた人間関係と倫理観」です。
 

医療現場の特殊な職場環境と労働内容

 

私が新人ナース時代を過ごしたICU(重症集中治療室)は特に戦場感が高く、いのちの緊急度も高い患者さんばかりで、常に一分一秒を争う現場でした。このような現場で働くナースは、短時間での情報収集力や鋭い観察力、総合的なアセスメント力や危険予測力が非常に重要なスキルになります。通常のスピードではなく、短時間もしくは一瞬での判断が求められる現場なので、新人ナースは当然のようにそんな高度な技術は持っていませんから、就業時間以外にもトレーニングを重ねなければなりません。
 

当時の私の平均勤務時間は12時間でした。しかも、12時間常に緊張状態にさらされるのです。これをほぼ毎日のように繰り返すので、新人ナースの身体的・精神的疲労度は計り知れないほどになります。このような職場環境と労働内容は、新人ナースのメンタルダウンやバーンアウト、休職や離職などの問題へと移行する一番の要因であると言われています。
 

医療現場の患者さんも含めた人間関係と倫理観

 

医療現場というのは、「つらい、苦しい、悲しい」という感情がはびこる場です。ときに患者さんはその気持ちのやり場に困り、一番受け止めてくれそうなナースにぶつけてきます。私も殴られたり、噛まれたり、蹴られたり、怒鳴られたり…いろいろありました。それでも私たちはその気持ちが少しでも和らぐように寄り添うことが仕事なので、自分の感情を押し殺してでも患者さんを受け入れなければなりません。
 

ナースの世界は女社会であることもあり、人間関係がとっても複雑です。足並みを揃えていないといじめられたり、ウワサ話は急速に広まったりと、男っぽい性格の私にとってこの社会は生きづらさそのものでした。
 

また、倫理観も仕事に大きく影響してきます。患者さんが望む治療やケアが提供できているのか。ただ苦しみを与えてしまっているだけなのではないか。生きる意味って何だろう。ナースは倫理観を大切にしている人が非常に多いので、いのちへのジレンマを常に抱いています。自分のほんの少しの不注意やミスが、患者さんのいのちに影響を及ぼしてしまうこともしばしばで、当時私は患者さんをケアするどころか、触れることさえもこわくなってしまった時期がありました。
 

肉体的にも精神的にも過酷な医療現場で戦い続けるには?

 

職場環境と労働内容だけではなく、人間関係や倫理観の問題も抱えながら戦場で戦い続けるには、相当タフでストレスマネジメント能力が高くなければ生き残ることはできません。つまり、全員が全員、医療現場という名の戦場で戦い続けることはできないのです。
 

日本看護協会の「病院の看護職員受給状況調査」によると、全国の病院で常勤ナースの離職率は11.2%、新卒ナースの離職率は8.6%でした(2010年度)。また、ナースの23人に1人が過労死の危険レベルにあるという報告もあります。これは非常に高い離職率であり、ナース不足や労災問題などの大きな社会問題につながる原因とされています。
 

これこそが医療現場の闇だと私は思います。高給与をもらうために過労やストレスと戦いながら働き続けるか、自分に合った働き方を見つけるか、ナースを含む医療者は必ずこの選択に悩むときが来るのです。
 

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社会起業家ナースという生き方を選んだワケ

 

私自身は、新人ナースのときに過労とストレスによりバーンアウト状態になり、3ヶ月休職をしました。休職中に様々なことを考えましたが、自分のいのちや健康を守ることを第一優先事項としたとき、このまま全ナース人生を医療現場に注ぐことは無理だと思いました。そして、医療現場では私の提供したい看護を届けることができないと思いました。医療現場で働くのは3年だけ!と見切りをつけて復職し、3年間は修行だと思って盗めるスキルは全部盗んで辞めました。
 

医療現場の闇に飲まれて、自分らしさを失うことだけは絶対にしたくなかった。どんなリスクを背負ってでも、私にしかできない看護を届ける場を、自分で創る道を選択したのです。だから私は医療現場から飛び出し、「社会起業家ナース」という働き方を選んで、ストレスや心の病を予防するためのPONOプロジェクトを設立しました。
 

もしかしたら、その働き方のほうがタフなんじゃないの?戦場なんじゃないの?と言われてしまうかもしれません。でも、この道を選んだ私には、自分の働き方や生き方を通して、社会に発信する使命があると思っています。社会の皆さんに対しては、ナースは皆さんの健康を守る身近な存在であるということを、そして働き方に悩んでいるナースに対しては、自分らしい看護を発揮するためには、こんな働き方もあるということを。
 

闇を知ったからこそ、新たな光を見つけられる。人には両方とも必要なのかもしれません。
 

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この記事を書いた人

杉本九実

1985年生まれ。順天堂大学卒の看護師・保健師。憧れだったICU看護師となるが、理想と現実のギャップ、過労、ストレスにより心身のバランスを崩し、バーンアウト状態と診断され休職。休職中に訪れた旅で自然の「ありのままに生きる」姿に感化された経験を活かし、2013年PONOプロジェクトを設立。「ストレスやこころの病気を自然の中で楽しく予防しよう!」をコンセプトに、自然の力と看護スキルを活かした今までにない新しいメンタルヘルス事業を行う。