『この世界の片隅に』『仁義なき戦い』 ー同じ時代、同じ場所でー

こんにちは。新名庸生です。今回ご紹介する映画は『この世界の片隅に』『仁義なき戦い』です。

 

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現在大ヒットして上映規模を広げている『この世界の片隅に』ですが、この作品が全国公開されたのが昨年の11月12日でした。公開前から既に評判が高く、私は初日に劇場へ足を運びました。同月の28日は菅原文太さんの三回忌で、代表作『仁義なき戦い』シリーズが一挙上映されるということでその追善上映も観に行きました。
 

同じ呉を舞台に、終戦直後までを描く『この世界の片隅に』、終戦直後から話が始まる『仁義なき戦い』。トーンははまるで違えど、どちらも同じ時代の同じ場所でそれぞれの世界の中で生きてゆく人々の話です。この二作品についての文章を書こうと少し前から考えていましたが、1月23日、松方弘樹さんの訃報を聞き筆を執りました。
 

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どちらも戦争が大きな影を落とす時代の話ですが、中心に描かれるのは戦争という大きな事件自体ではなく、常に「今」を懸命に生きる登場人物たちのごく身近な人間関係や出来事です。そこには単に「戦争もの」「任侠もの」と括ることのできない、「生きる」という普遍的なテーマを感じ取ることができます。
 

この二作品の主人公には時代と場所以外にも共通点があります。それはそれまで赤の他人だった人たちとある日突然「家族」になり、その中で生きていくという点です。『この世界の片隅に』では主人公のすずさんが十八歳の時、広島から呉へ嫁ぎ、夫の家族と暮らし始めます。
 


 

『仁義なき戦い』では主人公広能昌三(菅原文太)は友人を襲った暴漢を殺して捕まりますが、獄中で知り合った若杉と兄弟の契りを、出所後は保釈金を積んでくれた山守と親子の盃を交わし、山守組という家族の一員として生活を始めます。
 


 

すずさんの新しい家族と広能の新しい家族は随分と違うものですが、どちらにとっても突然見ず知らずの人たちと生活を共にすることは大変なことでした。すずさんの場合、義父母は優しくてもやはり気をつかい、後から同居することになった義姉は物言いがきつく、すずさんの頭には十円はげができてしまいます。
 

一方、広能はひとり組全体のことを想い、抗争相手の組長の暗殺へ乗り出し再び収監されます。広能の思いも虚しく、仮出所した頃には組は分裂寸前で親分の山守からのねぎらいも素っ気なく、その上兄弟分である坂井(松方弘樹)を殺すようそそのかされ広能は苦悩します。
 

本来互いに助け合って生きていく為のものである「家族」の中で、不信感を抱いたり傷つけられたりするのは辛いことです。しかし地に足のついた二人の主人公には、今の自分には生きていく場所が他にないことを覚悟を持って受け入れる強さがありました。現状を受け入れた上で今自分には何ができるか、それを真摯に考え試行錯誤し悪戦苦闘します。二人は全く違うタイプの人間ですが、その意志の強さ、健気さに私たちは同じように共感し心を動かされます。
 

以前にも少し書きましたが映画を観ることの効能のひとつに、様々な人たちの物語の中で自分自身を相対化し、いろんな生き方のひとつとして少し距離を置いて自分の人生を見つめ直すことができるということがあると思います。そう考えたとき、同じ時代、同じ場所が舞台でありながらこれ程までの振れ幅を通して当時そこで懸命に生きた人々に思いをはせることのできるこの二作品は本当に素晴らしいと思います。
 

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【『この世界の片隅に』ストーリー】(公式サイトより)

18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。ある時、道に迷い遊郭に迷い込んだすずさんは、遊女のリンと出会う。またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校の同級生・水原哲が現れ、すずさんも夫の周作も複雑な想いを抱える。1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。そして、昭和20年の夏がやってくる――。(公式サイトより)

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【『仁義なき戦い』ストーリー】(公式サイトより)

実録やくざ映画の金字塔!広島やくざ・流血20年の記録 欲望!背信!そして復讐!そこに渦巻く男たちの想像を絶する激烈なドラマ!!日本暴力団抗争史上、最も多くの血を流した“広島やくざ戦争”の渦中にいた元・美能組々長・美能幸三の獄中での手記をもとに、作家・飯干晃一が描いた実録ノンフィクションを映画化。昭和二十二年、敗戦直後の広島県呉市を舞台に、背信、復讐、憎悪や欲望が渦巻く組織の中、やくざの垢にどっぷり浸かった主人公・広能昌三はじめ若い組員たちの苦悩や悲しみ、怒りを描きながら、実際に起こった抗争事件を生々しく再現していく。深作欣二監督のバイオレンスの美学、主演・菅原文太をはじめ個性派俳優らの血気盛んな演技が衝撃を与えたシリーズ第一弾。(DVDパッケージより)

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