こんにちは、新名庸生です。今回の映画は原一男監督のドキュメンタリー『極私的エロス・恋歌1974』です。
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【ストーリー】
原一男監督が3年間同棲していた武田美由紀は子供と共に家を出た。原監督は、彼女との関わりをつなげるため、映画を撮影し始めた。美由紀は、その子という女性と沖縄で暮らしている。そこに現れた原監督を前に、二人は凄まじい言い争いを始める。やがて美由紀は一人になり、黒人米兵との恋、妊娠、そして別れを経て、出産のために東京へ帰ってくる。彼女はより困難な状況に自らを置こうとする意志の強い女性である。彼女はアパートの一室で、たった一人の出産を試みる。原監督はカメラを回し続ける…
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『ゆきゆきて、神軍』などで知られる原一男監督ですが、つい最近まで多くの作品が絶版になっており、レンタルショップにもほとんど並んでいない状況でした。しかし、2015年後半から2016年にかけて『さようなら、CP』『極私的エロス・恋歌1974』『全身小説家』が復刻され、レンタルショップの棚にも並ぶようになっています。今回はその中から『極私的エロス・恋歌1974』を取り上げたいと思います。ちなみにこの作品のDVDには特典として、性転換経験者でもある能町みね子さんと原監督との対談が収録されています。
私がこの作品を初めて観たのは2015年5月、『監督失格』の平野勝之監督の上映会「“自力出産。ものすごく強い女”特集」に原監督がゲストとしていらしたときで、世の中にこんなにも力のある映像作品があったのかと衝撃を受けました。
前半ではひとり沖縄へ渡った武田美由紀という女性の私生活が映し出され、彼女の性格、人間関係、男性観・女性観、出産に対する思いなどが少しずつ明らかにされながら後半の自力出産シーンへつながっていきます。
一般に子を授かり出産することはめでたいことだとされますが、子からすれば親のエゴによって存在させられたと思ってしまうことは幾度とあると思います。武田さんが産んだ子「遊」にしても、黒人との混血だということで、生きづらい目にもあったらしいと特典映像で原監督が語っています。一方、子を産んでその子が本当に幸せに生きていけるか考え出すと、産む勇気なんて持てなくなるのも事実でしょう。いちいち悩んでたら産めないから悩む前に産む。武田美由紀のスタンスはどちらかというとこれであり、よく言えば気持ちいいほど清々しく感じます。
これも対談で原監督が語っていることですが、主人公の武田さんだけが特別な女性だというわけではなく、こういう生き方をする女性は当時たくさんいたそうですし、今も大勢いると思います。良い悪いの話ではなく、人の歴史はこういった「とりあえず産んでみた親」と「気づいたら生まれていた子」のやむにやまれぬ連鎖の歴史でしょう。その連鎖を非常に肯定的かつ能動的に受け入れ、死ぬまでに経験しておきたいひとつのイベントとして、女としての自分が持つ能力だけを駆使して実行し、昔の男に撮影までさせた武田美由紀という女性の生き様がここにあります。子供を産みきり、これからの不安などは微塵も感じさせない晴れ晴れした顔で「しかし気持ちがいい!」と笑う彼女の表情に、私は「やむにやまれぬ生」の明るい一面を見た気がして少し救われる気がしたのでした。
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