ベストセラーをエイズへの偏見から読んでみる

もしあなたの家族や友人、同僚や同級生に「俺、エイズなんだよね」と言われたら、皆さんの心の中にどのような感情や気持ちが浮かび上がるでしょうか。
 

そもそも、こんな問いかけをしている時点で、偏見や固定観念に囚われているのかもしれません。私の周囲では、HIVウイルスの感染力が極めて低いことやエイズの発症を薬でほぼ抑えられることを知っている人は少数派です。障害者手帳の受給者であることなんてほとんど知られていないことでしょう。
 

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「ミステリ好きだったら湊かなえさん読んだほうがいいですよ〜」と言われて手にとった、2008年の大ベストセラー小説『告白』。みんな読んでるから読まない。そんな天邪鬼精神たっぷりでしたが、読んだ後にもっと早く読んでたらなと後悔しました。
 

愛娘を失った中学校教師が自分のクラスの生徒にその犯人がいると告白することから始まる一連のストーリーは、一気に読み進められる展開です。中二病、ひきこもり、スクールカースト、モンスターペアレント。現代生きづらさの入門書のような様々なエッセンスがふんだんに、そして現実感たっぷりに描写されていますが、個人的には「小説が執筆された当時のエイズへの偏見(今も変わらないような気がします)」が非常に印象に残りました。6章で構成されている中の第2章、第3章で描かれている場面です。
 

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ややネタバレになるところはありますが、ある大きな原因による制裁(察しがつくかもしれません)として、HIVウイルスへの感染の可能性を拡大されてしまった生徒二人。この二人が感染しているかもしれないことはクラス全員に知れ渡っています。ひとりは学校で空気のような存在になり、もうひとりは家にひきこもってしまいます。
 

空気のような存在になったひとりは、自分が感染しているかどうか検査し、陰性であることを認識した上で、自分の血液や唾液を使った報復行為に出ます。自分の血液をこすりつけたり、同級生とキスしたり。感染力の低さ、検査の重要性などを知っているからこその行動であり、同級生の無知を逆手にとったものです。その裏で、ひきこもっているもうひとりは自分は感染者であると錯覚し、ひきこもり続けます。その様子は、無知な同級生とあまり変わりません。
 

この小説が出版されたのは2008年。今、もし現実の世界で同じような状況に陥れば、googleで検索して様々な情報を手に入るでしょうし、SNSを活用した投稿や質問などで当事者コミュニティへのアクセスを試みることも容易でしょう。ただ、執筆された当時と今、一般人がもつ知識や情報にそこまで差はないのではないでしょうか。同じ環境にいれば感染するかもしれない、感染したら死んでしまう。無知からくるネガティブな反応は何も生み出しません。
 

ちなみに、Plus-handicapなど読んだことがない私の友人に「職場で隣の席のひとがエイズだと知ったらどうする?」と聞いたら「マジで近寄んなって言うね。うつされたらイヤだし、キモい。」そんな回答を残していました。
 

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エイズへの偏見にはもうひとつ、同性愛者への偏見もあるでしょう。HIVウイルスの感染経路は同性間での性行為が66%、異性間の性行為が20%と性行為によるものが大半を占めています。同性間のほとんどは男性から男性へです。この事実に対しての様々な意見や感情が偏見を生んでいるのだと思いますが、エイズに対する正確な知識や情報がない状態の中、この事実だけは多くのひとが感じ取っているというのは、冷静に思えばすごいことです。
 

『告白』の中では、同性愛者への偏見を助長するような描写はありません。ただ、エイズに対する知識不足を前提に物語が展開されていくことは、エイズへの偏見が根強いことを意味しているように思えてなりません。エイズに限らず、ウツやひきこもり、LGBTや出自など、偏見を抱かれやすい属性はいろいろとあります。知識や情報を把握した上での好き/嫌いというジャッジは個人の選択の自由だと思いますが、何も知らない、イメージ先行だけで偏見を抱くことは当事者とその周囲にとって何の救いもないでしょう。
 

自分がその属性の一員になる可能性は低いかもしれませんが、家族や友人、同僚と人間関係の輪を広げて考えていけば、思い当たる人がひとりふたりいてもおかしくはありません。偏見の良し悪しを言いたくはありませんが、不必要な思い込みを外すために知識や情報を得ることは大切だと思います。
 

『告白』をミステリとして楽しむだけでなく、生きづらさに関連づけてしまうあたり、完全な職業病だなと感じましたが、中二病、ひきこもり、スクールカースト、モンスターペアレントといったテーマでも楽しめる一冊。今の子どもたちを取り巻く生きづらさに関しても現実感たっぷりです。まだ読んでいない方がいらっしゃいましたら、ぜひ。
 

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