この本の著者、岡崎愛子さんは、2005年4月25日に兵庫県尼崎市で発生したJR福知山線脱線事故で被害に遭いました。700名近い死傷者を出したこの大事故で、当時大学2年生だった彼女は、頸髄損傷し、下半身不随・上半身にも後遺症が残る車椅子ユーザーとなりました。この本は、岡崎さんの生い立ちや大好きな犬たちとの出会い、輝かしい未来溢れる学生生活、そして人生が一転した脱線事故と苦しい入院生活、障害に負けずに勝ち取った会社員時代・起業の様子などが書かれています。
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率直な感想は、「『障害者だから』という甘えを言ってしまったら結局自分が損をする」。この本から一貫して読み取れることは、「障害を(出来ない)理由にしない」という岡崎さんの自立した姿勢です。あれだけの大事故に遭った岡崎さんなので、仮の話、リハビリ・復学・就職・人間関係などに対して、「甘え」を持ったとしても、誰も何も文句は言わないでしょう。しかしそれでは、岡崎さん自身の人生がツマラナイものになってしまうだろうと想像が出来ます。実際、彼女はすべてに全力で取り組んでいました。
「障害者の甘え」が社会問題の一つのように言われ、被障害者側からは「横暴だ。障害者の気持ちがわかっていない」などの声が上がってきます。もちろん非障害者(健常者)側の言い方・態度や、(障害によって)実際に物理的に出来ないこともあるでしょうから、必ずしも適切な発言だけではないともわかっています。しかし、結局のところ、甘える・不貞腐れた態度を取りつづけることによる能力向上の機会損失・人間関係構築ができないなど、不利益は被障害者側に降りかかるのです。
何らかしらの障害を負うことは決してハッピーなことではありません。しかし、欧米で「障害=ハンディキャップ」と言い換えられるように、障害は人生という名のゲームを楽しむために周りへのハンディキャップと考えることも出来るのではないでしょうか。本の中にある岡崎さんの痛快の生き方はそうしたことを彷彿させてくれます。
偉そうなことを書いてしまいましたが、私自身が典型的な甘えた障害者の一人であったという後悔があります。10歳の時に骨腫瘍が原因で右足義足となり、その後長い間、「障害だから〇〇出来ない、△△出来ない。全部障害のせい。」という生き方をしていました。その考え方のおかげでどれだけ自分の人生を無駄にしたかわかりません。障害を負うことよりも、凝り固まった考え方こそが障害でした。しかし、「障害者だから」という考えを改めた時、自分の人生を切り開けたように感じます。
この本の素晴らしい点は、普通に自分の人生を歩んでいた人が、どのように障害(生きづらさ)と遭遇し、困難・悩み、受容、自分らしい生き方を取り戻していく、という過程が時系列でわかりやすく書かれています。障害(生きづらさ)と向き合うためのモデルのようであり、昔の自分がこの本に出会っていればどれだけ救われただろう、と想像してしまいます。
先ほども書きましたが、本の中に、「障害を(出来ない)理由にしない」という言葉があります。障害者事業を行っている方と話をしていて、「『障害』は、出来ないことに対して言い訳の一つでしかないのでは?」という論旨になりました。「才能が無い」「家が貧乏(お金が無い)」「容姿に恵まれていない」「人望が無い」「能力が足りない」など、人間は自分にたくさんのモノが無い中で、それでも自分と向き合いながら生きています(たくさんのモノを持っている人も当然にいます)。短い人生の中で、無い・出来ないを言い訳にして、甘えて不貞腐れている時間はそれほど多くないのです。例えば、それが青春期であれば、あっという間に青春は終わってしまいます。だから、「障害」についても、人間の出来ない・無いモノの一つくらいに捉え、なるべく前向きに生きていく方が、結局は自分により多くのモノが還ってきます。もちろん、障害の軽重や種類・状況など、一概に言えない部分もありますが、下半身不随・上半身にもマヒがある車椅子ユーザーの岡崎さんはやっています。そういった意味で、自分は右足一本の軽度障害だとつくづく感じます。
障害者の本だからと言って、この本を読んで感動する必要はないでしょう。それとは反対に、明るいタッチで、どんなに困難な状況でも、自立することの大切さ素晴らしさを教えてくれる一冊です。障害を負っている方、障害の有無にかかわらず出来る限り多くの方に、この本を読んでいただきたいと思いました。
岡崎さんが、事故に遭い、苦しい入院生活を続ける中で、人生に絶望しかけていた際に、手術を担当された先生がおっしゃった一言がとても印象的でした。
「(事故に遭って)最初に運び込まれてきた時、ご家族、なんて言ったと思う?どんな形でもいいから、命だけは助けてくれって、いってくれたんやで。ちゃんと、生きなあかんで。」
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