生きづらさを生み出す原因はたくさんあります。生まれ育った環境や今置かれている環境、自身の障害や病気、人間関係。100人いれば100通りの生きづらさがあるとしたら、その理由も様々となるはずです。
しかし、生きづらさを感じやすい状態でありながらも、生きづらさを感じず・感じさせずに自分自身の道を歩き、日々楽しく生活しているひとは少なからずいます。成功者と言われるような成果を上げているひともいれば、幸せだと笑って暮らしているひともいる。生きづらさを抱えているひとにとっては、そんなひとたちの何気ない生活スタイルや考え方が、現状を打破するきっかけになるかもしれません。
『絶望に効くクスリ』は山田玲司さんが書いた対談漫画。様々な現場で活躍する人たちの生き様を聞きながら「絶望」が漂う世の中を生き抜くためのヒントをまとめたものです。2004年〜2009年で出版されたものなので、当時の風潮や時勢などが反映されていることもあり、やや古さを感じたり、今にそぐわない感覚を得ることもあります。ただ「なぜ成功したのか」というポジティブな方向ではなく、もがき苦しんだ過去や今の状態のつらさ、厳しさといった人間臭さを拾い上げることができるという意味で、貴重な漫画だなと思います。
心がマイナス状態にあるときに、プラス状態の情報を取り入れてもなかなか心に入っては来ません。ウツで悩んでいるひとに、リア充爆発してるひとがアッパーなノリで「人生楽しもうよ!」なんて言葉をかけても、より闇が深くなるだけです。「他人の大変さ、苦しさを知ることで、自分自身の今が恵まれていることを感じる・孤立感を感じずに済む」という意味で「隣の芝生は黒い」という表現を個人的に使うこともありますが、自分と似た境遇のネガティブな状態のひとを見たり、情報を得ることが、実は今の自分を肯定する一歩になります。この漫画は「今(当時)をときめくひとでもこんな悲惨な状態だったことがあったんだ。私の人生もまだまだ何とかなるかもしれない」という使い方が適切です。成功するための◯◯な法則なんて書いていませんし、ちょっと背中を押してほしいなと感じているひとにほど、効くクスリかもしれません。
著者の山田玲司さんはけっこう好き嫌いが分かれるタイプの方ですし、この本に取り上げてられているひとも一癖二癖あるラインナップなので、惹かれる惹かれないも明確に分かれるかもしれません。対談集によくあるように、自分の気に入ったひとや興味あるひとだけページをめくって読むことをおススメします。私自身、ネットカフェで自分の好きなひとの分だけ読んだのが最初ですし、つまみ食いで読んだ3巻の加藤登紀子さん編にグサッと来て、せっかくだし全員分読んでみようかという流れでした。
今回、久々に読み返してみて「絶望」という言葉は今の時代だとブラックという言葉が近いのかもしれないなと思いました。最近は泣けるエピソードや感動話などが数多くシェアされる時代であり、ポジティブな言動や貢献活動が、ネットの世界から数多く発信され、共感される時代です。そんな中だとこの本は真逆からのアプローチです。ポジティブ疲れという言葉が生まれているように、なんかポジティブであらねばならぬという義務感のようなものが広がり、結果的に疲弊感が漂い始めているように私は感じているのですが(それが違う生きづらさを生み出しているようにも思うのですが)、人を傷つけるような振る舞いはダメだけど、ブラックな心もあっての自分なんじゃない?それもそれで自分なんじゃないの?という観点での自己肯定感の見直しに役立つ本だなというのが、2015年夏時点での感想です。
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