今のあなたにとって成功している状態ってどんな状態ですか?もしくは成功者をどのように定義づけますか?最近の若者は失敗を怖れやすい傾向にあるという論調が流れますが、対義語である成功には触れられることは少なく、実際のところ、この問いかけに明確な回答をもっているひとはあまり多くない印象を持ちます。
個人的には「自分の時間をどのように使うか自分に選択権がある状態」と回答するでしょう。原稿を書く、仕事をする、家族と過ごす、子どもと遊ぶ、シッティングバレーをする、好きなメンツで酒を呑む。私がすぐに思い浮かぶこれらの選択肢を、今はコレをやる時間だ!と主体的に選択し、大いに楽しむことができたとき、私は成功者になっているはずです。時間をコントロールできるということは、ある程度の経済力と仕事の決裁権を併せ持っているとも言えます。これは私にとっての幸せとほぼ同義です。
山口揚平さんの『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』は、ごく普通の青年である「僕」と成功を収めた人物である「紳士」の会話によって進む物語。本自体は「成功者になるための方法論、立ち振る舞い、考え方」が散りばめられていますが、本質的なメッセージは「自分の存在そのものに価値があることを認識したとき、人生の本当のスタート地点に立てる」ということ。自分の人生を自分の歩みで全うするための哲学が、人生における成功哲学であるように記されています。
本の冒頭に、成功者の定義に対するひとつの見解がありました。「紳士」に「君にとって成功者とは何かな?」と尋ねられた「僕」はこう答えます。
「いい家に住んで、奥さんと子どもがいて、車があって、平和に暮らす」
この回答に対して「紳士」は「それならばこの日本の大抵のひとは成功者だ」と返します。そして「あまりにも絵に描いたように古典的で可笑しくなってしまう」と鋭く批評します。
この流れだけを見ると、眉をひそめる方もいるかもしれません。成功ではなく幸せに置き換えて考えると想像しやすいのですが、多くのひとが描きやすいステレオタイプな成功(幸せ)に憧れ、こだわるひとほど、他者や理想との比較に悩み、自己否定や承認欲求への渇望が見られるように感じるのは気のせいでしょうか。その結果のひとつが、生きづらさなのではないでしょうか。少なくとも、自分なりのこだわりが見える成功(幸せ)の定義を持っているひとには、生きづらさを感じることはあまりありません。
生きづらさを抱えるひとの多くはマイノリティ(少数派)に属していることが多く、障害者、LGBTなどの性的マイノリティ、早期離職やネガティブ退職によるキャリア脱落者などはその分かりやすい一例です。また属性に限らず何かしらの生きづらさであったり、しんどさ・さびしさ・せつなさ・つらさといった感情が継続している方は、一般的に考えられる幸せや成功といったモデルから外れていることが多いものです。マジョリティ(多数派)が体現している幸せや成功を眩しく、妬ましく思っているほど、その感情は増幅され、簡単には解消されないものなのかもしれません。
この本には「すべての悩みは人間関係である」とありますが、生きづらさを抱えているひとほど、他者や社会全体との距離感に悩んでいます。自分には◯◯がない、自分の障害や置かれている環境を誰も分かってくれない、この感情は誰が受け止めてくれるのだろうか。孤独感や孤立感とも言い換えられる感情は、自分と自分以外の距離が遠いことを表しています。
「この世には他人など存在しない。他人とは自分の心に生まれた感情の破片に過ぎない。他者嫌悪の本質は自己嫌悪だよ。認められない他人は誰にでもいるが、その存在を認めること。それは自分を認めることであり、それこそが内なる旅だ。」
鏡の法則という言葉もありますが、他者が自分を映す鏡であるならば、他者を疎ましく感じることは、すなわち自分への疎ましさともいえます。相手を嫌っていることは自己嫌悪の裏返しなのであれば、自分を好きになれば他者を嫌う理由がなくなるということ。この葛藤の中でもがくことが山口さんの言う内なる旅なのかもしれません。
成功者は一時的にネガティブな感情を抱くことはあっても、その多くが生きづらさを感じていることはありませんし、感じていたとしてもうまく付き合っています。成功するにはお金が必要だ、稼がなくてはいけないという発想もありますが、この本では社会や他者に貢献を続けて成果を出し、認められ、時にお金を得ながら自信を獲得していくことが大事だという表現を通じて、お金を得ることを外の世界への旅という言葉でまとめています。
※ただ本を読めばお金がすべてではないということをまざまざと突きつけられます。
自分自身を認め、好きになる努力をしていく内なる旅。貢献し続け、自信を獲得していく外への旅。この2つの旅を自分の納得いく限り楽しめば成功につながっていくんだろうなということが本を読んだ気づきになりますが、結局のところ、成功しているかどうかは自分で判断すればいいものなんだと思います(ちなみに成功するための秘訣は冒頭に書いてあります)。
「君はその存在そのものが価値あるものである。それを認めるしか人生の本当のスタート地点に立つすべはない。」
この本は、この言葉を繰り返し自分にインプットし、実践するための手ほどき書。生きづらさを抱えているひとにこそ、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。特に第2章と第4章、そしてエピローグ。
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