障害者自身やその家族が自分たちの生活・奮闘などを題材に本を著すこともありますし、障害者雇用や障害者福祉のスペシャリストが、ノウハウや問題提起を題材に本を著すこともあります。障害者にまつわる本の多くは、当事者サイドの目線、あるいは支援者サイドの目線から描かれているものが多いのですが、この本は「経済学」という尺度を用いて、第三者的な視点から描かれています。
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「経済学」と聞くと、マクロとかミクロとか、需要と供給とかといった言葉が出てきて混乱しそうと思いがちですが、正直言って「経済学」の知識はほとんど必要ありません。当事者の目線や支援者の目線ではなく、また福祉的観点でもない、ビジネス的な観点やコスト的な観点から障害者の世界を考えてみるために「経済学」という切り口で描かれています。
例えば、第5章にある「施設を解体すべきか」では、【なぜ比較的新しい施設は「立派」であるのか】や【無報酬なボランティアを用いるにも費用がかかる】といったテーマで論じられています。お金をかけるところ、かけずに工夫するところの取捨選択が大事で、福祉の領域にカテゴライズされるものはどうしてもハードへの経済的援助が進んでしまうことへの警鐘を鳴らしていたり、施設設備を重視するのではなく、利用者の活用しやすさや暮らし方などに焦点を当てるべきといった意見が綴られています。福祉の世界に民間の考え方を導入するためのポイントが並べられているとも言えるかもしれません。
第7章の「障害者は働くべきか」では、障害年金という収入源があることによる働くことへのモチベーションの問題、障害者のやる気をいかに引き出すかなど、障害者雇用における障害者側の意識、視点に関して、経済学という切り口を使い、かなり突っ込んだ内容まで掘り下げています。
この章では、障害を売り物にしていると批判が寄せられた障害者プロレスへの著者の意見やNHKの障害者バラエティ「バリバラ」に対してのアリかナシかといった意見も描かれていて、著者の人間臭さも垣間見えることが面白いです。
あくまで中立の立場をとるために「経済学」という切り口を活用していますが、障害者に関する問題点や改善点を知るには、非常に分かりやすく読みやすいものになっています。言わば入門書。これは2006年にもともと世に問われた書物だと「はじめに」に記載されていますが、2014年になった今読んでも、問題が大して解決されていないことが、読後の一番の衝撃でした。
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序章 なぜ「障害者の経済学」なのか
第1章 障害者問題がわかりにくい理由
第2章 「転ばぬ先の杖」というルール
第3章 親は唯一の理解者か
第4章 障害者差別を考える
第5章 施設は解体すべきか
第6章 養護学校はどこへ行く
第7章 障害者は働くべきか
第8章 障害者の暮らしを考える
第9章 障害者就労の現状と課題
終章 障害者は社会を映す鏡