生きづらさを抱えたひとほど「いい部下」を目指したほうが楽になれる?! 江口克彦『部下の哲学 成功するビジネスマン20の要諦』を読んでみた。

世の中にあふれている自己啓発本やセミナー、WEBサイトのコラムなどでは「リーダーを目指そう」「自分らしさ」「自己実現」などのメッセージが発信されています。
 

しかし、生きづらさを抱えたひとたちが「リーダーを目指す」ことは果たして現実的な選択なのでしょうか。「自分らしさ」を発揮することや「自己実現」することを身近に感じられるのでしょうか。分かりやすい選択である、起業や独立には自律的な考えも必要ですし、未来は誰にもわかりませんが、今すぐだと難しい気がします。
 

また、生きづらさを抱えるひとは往々にして「働きづらさ」を抱えています。働くことに制限があったり、特別な配慮が必要だったり、職場での人間関係が億劫だったり。そんなひとたちに対して、企業や職場はネガティブなイメージを抱いていることがほとんどで、それこそ、リーダーを目指せる状態にはありません。ちなみに、ネガティブなイメージをまとめると、主に3つに絞られます。
 


 

1点目は勤怠。ちゃんと職場に来てくれるのかどうかです。フルタイムで働くことは難しいのではないか、急な欠勤、長期の欠勤を余儀なくされるのではないかといった不安は企業側から見ると大きいもの。メンタル系の症状がある方が分かりやすい一例ですが、育児や介護に対する懸念もこの課題に含まれます。
 

2点目は知識(経験)不足。スキル面というよりは社会人としての知識(経験)です。こんなことも知らないの?分からないの?ここから教えなくちゃいけないの?高いレベルを求めているのではなく、社会人として最低限度のマナーのようなものへの評価です。ニートやひきこもりなど、働いた経験が少ないひとほど、この課題がつきまといます。
 

3点目はメンタル面。単純にうつ症状があるからといった理由だけではありません。ネガティブに陥りやすい、自己肯定感が低い、自信がないなど、性格や考え方の要素も含まれます。生きづらさを抱えていると、どうしても明るい気持ちにはなれないもの。その雰囲気感が周囲からの不安要素につながってしまいます。
 

こういった背景で判断されがちな生きづらさや働きづらさを抱えたひとは、まず「いい部下になること」を目指したほうが楽。期待されている以上に不安視されている可能性が高く、仕事で役に立つ自分になる、職場で頼られる自分になることで、評価が高まり、周囲からの見る目が変わります。「ありがとう、助かったよ」ポイントを周りからいくつ貯められるかです。
 

こういう提案をすれば、社畜になれということ?!というお叱りがあるかもしれませんが、上司や先輩の言いなりになれと言っているのではなく、自分から貢献意識を持とうということです。また、これは、仕事や職場だけではなく、家族や友人と置き換えても同じです。
 


 

そこで、いい部下になるというテーマで参考になりそうな本が『部下の哲学 成功するビジネスマン20の要諦』です。著者の江口克彦さんは、松下幸之助さんの側近として22年間仕事をされ、その後は政治の世界へ進まれた方です。さて、ここからはブックレビュー。
 

実はオフィスの本棚の整理をしていたらたまたま出てきて、興味本位にパラパラとページをめくってみたら目からウロコだったというだけなのですが、ちょうど私自身が仕事の成果や自分の働くスタンスに悩んでいたこともあって、一気に読み進めました。2003年に出版された本なので古く感じる部分もありましたが、普遍的な心理について語られており、納得感がありました。
 

20の要諦の中から私がグサッと来た、そして「いい部下になるために必要そうな」項目を3つピックアップしてみました。ちなみに「要諦」は要素みたいなニュアンスです。
 

①「虚勢を張らない」
 

「知らないことは恥ずかしいことではない。(中略)もっとも恥ずかしいことは、知らないことを知らないまま勉強もしないで、努力もしないで放っておくことである。(202ページ)」

 

例えば「この仕事をお願い」と頼まれたとき、その仕事に対して自信がなかったとしたら、あなたはそのことを正直に相手に伝えられますか?
 

この本では虚勢を張ることは損だと言い切っています。知ったかぶりはいずれバレて、失望につながり、信用されなくなります。失敗を隠そうとしようものなら、それは嘘や不正につながります。
 

いざ現実に置き換えてみると、自分ができないことを受け入れ、相手に伝えることはなかなか難しいもの。ついつい、相手から失望されるのではないかといった不安、この期待に応えなくてはという意地などから、正直に言い出せないこともあります。しかし「虚勢を張ったって意味はない」というメッセージはストンと腑に落ちます。
 

生きづらさを抱えているひとは「虚勢を張る」というより「ついつい頑張ってしまう」ようなイメージがあります。
 

②「叱られ方がうまい」
 

「最近の若い人たちは叱られ方が下手だと先に述べたが、社会へ出て上司に叱られると、必要以上にショックを受けてしまうケースが多い。(中略)叱るというのは、その部下に次のステップがあるから、言い換えれば、可能性があるからこそ厳しい言い方をするのである。まったく期待しない人間に対しては叱責する気にもならない。(112ページ)」

 

実は、叱りやすい部下と叱りにくい部下って分けられるのではないでしょうか。ぐちゃぐちゃと言い訳をしたり、ムスッとしたり、必要以上にショックを受けて仕事に手がつかなったり。そんな状態に陥ってしまうと、叱ることができなくなってしまいます。
 

叱られることは嫌なことですが、その指摘は自分だけでは気づけない部分を知るチャンス、仕事を改善させるチャンスです。これからの仕事に有効な情報を手に入れられなくなってしまいます。自分の非をすぐに認めることができて、すぐに謝ることができるひとはとても重要なのだと改めて感じさせられます。
 

本が出版された当時は「叱る」でよかったかもしれませんが、今の社会で言えば「指導する」という言葉が適切な気がします。
 

③「目標を立てる」
 

「与えられた仕事をただこなし、ただ指示された通りに処理していくだけでは、やがてなんのために自分は仕事をしているのだろうかと虚しくなる。(中略)しっかりと「なんのために自分は仕事をしているのか」という自覚がなければならない。(218ページ)」
 

先の不安が大きく、将来の見通しがつかないことの多い今、目標を持たないひとが増えることも不思議ではありません。すべてのひとが目標を持つべきだとは思っていませんし、実際に目標を持たなくてもうまくいっていることもあります。
 

ただ、目標を決めなければ、やらされ感がある状態のまま仕事をしていたり、日常が過ぎていったりと、受け身のままの人生になってしまうこともあるでしょう。被害者意識に陥りやすいとも言えるかもしれません。自分が選んだわけではない道で嫌なことが起きたら、耐えるのは苦しいはず。どうしても、不平不満が出てきてしまうのではないでしょうか。
 

目標を決めると、自分で自分を納得できるようになります。自分が選んだ道で起こる困難は耐えられます。何かを失い、何かを得ること。その過程も含めて、選択することが大切なのかもしれません。自分で自分の道を選択した先に目標があります。選ぶことを怖れないことが一番です。
 


 

本自体は誰が読んでもわかるようなシンプルで易しい内容。読書嫌いのひとでも1日15分1要諦と決めれば、20日で読み終えられます。15年前の本なので、時代背景などありますが、本質は変わらないものです。

 

ライター:森本しおり

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