宇代謙治/高橋裕典/小岩千代子『鈴木さんちの遺族年金物語』ー家族を亡くす前に読んでおいたほうがいい本ー

私が20歳のとき、父はこの世を去りました。50歳。若い頃に肝炎を患っていたことが背景にありますが、肝細胞がんが進行し、気づいたときには手の施しようのない状態でした。自分の父親の死。それも長い闘病の末というわけではなく、むしろ突然死に近いくらいのタイミングだっただけに、その瞬間、何が何だか分からなくなってしまったことを思い出します。
 

50歳といえば、まだ働き盛り。私自身、まだ学生だったこともあり、残された母と共にこの先どうしようかと話していました。特に若い頃に肝臓をやっていた分、生命保険の審査も厳しく、保険料としては少ない金額しか下りなかった当時の実状もあり、死に損なのでは?と不謹慎ながら話していたこともありました。そんな矢先に、勤務先の方から遺族年金があるよという話をいただきました。
 

遺族年金?年金って定年退職後にもらえるものじゃないの?

 

20歳の大学生がもつ年金の知識は「20歳になったら払わなくてはいけない厄介なもので、自分が年をとったらもらえるもの。でももらえるかどうかはなんとなく分からない。」という程度。独断と偏見が混じってはいますが。遺族年金という存在すら知りませんでしたし、学校で習った記憶もありません。母経由で遺族年金という言葉を聞いたとき「死んだらもらえるというのは生命保険でしょ?年金もらえるんだ。」と驚いたことは昨日のことのように覚えています。
 


 

この本は以前に障害年金に関する本として紹介した『鈴木さんちの障害年金物語』のシリーズの一冊。家計の大部分を担っていた家族が亡くなった事例を物語形式としてまとめ、遺族年金の概要や手続き方法が分かりやすくまとめられています。本の表紙には「一家の大黒柱を亡くしたときに読む本」という見出しがついていますが、個人的には「亡くす前に読んでおいたほうがいい本」です。
 

・4人家族。42歳の夫が亡くなったケース
・老夫婦。認知症で老人ホームに入居していた75歳の夫が亡くなったケース
・若い夫婦。34歳の夫がうつが原因で自分で自分の命を絶ったケース
・子どものいない夫婦。45歳の障害年金を受給していた夫が突然死したケース
 

という4つの実際に起こり得そうな事例を通じて、遺族年金を受給するところまでの細かいフローが紹介されています。
 

遺族年金は所得保障という観点があることから、子どもがいる・いない、子どもの年齢などによって支給額に変動があること。また、生命保険等と同様に、自分で自分の命を絶った場合の手続きの難しさがあること。なるほどと思ったのはこの2点ですが、遺族年金という言葉だけ知っていても、それは情報とはならないので、こういった本を読みながら、生きた知識として習得しておくことは必要ではないかと思います。年金に対する不信感を拭うことは難しいですが、支払っているからこそ遺族年金は手にできるもの(障害年金もですが)。ひとつの選択肢として知っておくだけでも十分ではないでしょうか。
 

20160125
 

上記の4つの事例で気づいた方がいらっしゃるかもしれませんが、これらはすべて「夫」が亡くなったケースです。所得保障という観点もあり、家計を支えているのは夫であるという考え方のもとで遺族年金の制度が設計されていたため、平成26年3月まで遺族基礎年金を受給できるのは「子供のいる妻」か「子供」に限られていました(遺族厚生年金については別です)。つまり、母子家庭には適用されていても、父子家庭にはなかなか厳しい環境があったということです。
 

この本を読んでみようというきっかけになったのは、クラウドファンディングサイトReadyforにあった「ママを亡くした震災父子家庭の親子に遺族年金を届けたい!」というプロジェクトでした。父子家庭って遺族年金受給できないの?という疑問から読んでみましたが、平成26年4月以降に「妻」が亡くなったケースにしか該当しないという状況です。制度の問題であり状況は少し改善されているという見方もありますが、なかなか世知辛い面もあるなと感じます。
 

セーフティネットとしての機能である年金。遺族年金はまさしくそのものです。様々な諸問題があることも知りつつ、その存在とともに、概要や手続き方法を知識として習得しておくことは、繰り返しとなりますが、大事なことではないでしょうか。そのうえで、年金に対する意見や支払う・支払わないといった個人の意思が乗っかってくるのだと思います。
 


 

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