小野美由紀『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』−心の金庫を開けて、たった一粒の砂金を見つけよう。

編集長から「木村さん、この本のブックレビューお願い」と言われ、本書を手渡されたとき、正直勘弁してくれと思った。なぜなら、本のタイトルに「メンヘラ」の文字があったから。私は日頃から「メンヘラ」にうんざりしている。メンヘラ女子だの、メンヘラによる展覧会だの、メンヘラって言えば何でも許されると思うなよ!と思っている。口に出して言わないだけで。
 

大体な、メンヘラと仕事するとろくな事ないんだよ。自分がちょっと追い込まれると、メールは返ってこなくなるし、かと思えば自分がメールを返せない理由を長々と書いたメールを送り付けてくるし。知らねーよ!そんなメール書く暇あったらさっさと仕事しろ!と思っている(あくまで個人の経験に基づくメンヘラ観です)。口に出して言わないけど。
 

メンヘラとまともに付き合うと、こっちまでメンヘラになりそうだから、メンヘラとは極力関わらずに生きていきたい。そう思っていた。
 


 

本書の著書・小野美由紀さんは、留学経験アリ、TOEIC950点、有名企業のインターン合格etc…という無敵のスペックで就活に臨んだものの、最終面接当日にパニック障害になり就活を断念。なんでこんなことになったのか。もう嫌だ。つまらない虚栄心も何もかも捨てて、本当の自分を見つけたい。そう思った小野さんは、スペインへ聖地巡礼の旅へ出た――。ものすごくざっくり言うとそんな話だ。
 

小野さんは500kmに及ぶ巡礼の道程で様々な人に出会い、様々な言葉を投げかけられる。その度に、忘れてしまいたい過去のあんなこと、こんなことが蘇える。それぞれの理由で歩を進める巡礼者の言葉は、銀行の地下金庫のように分厚い小野さんの心の扉を少しずつこじあけていく。本書は、そんなスペインでのエピソードと、日本でのエピソードを行き来しながら展開する。
 

本書で語られる小野さんの過去は、結構壮絶である。自傷行為なんかも、「メンヘラ」と軽々しく言うには、あまりにハードというか、ちょっと引くくらいのメンヘラぶりだ。では、メンヘラではない(と思っている)私を含む読者は全く共感できないか、と言ったらそれがとっても共感できる、というより、全編にわたって自分のことを言われているようで、「それって私のことじゃん…」と思うことしきりだった。
 

自分だけはどこか特別と思う気持ち、自由に生きたいと願いながら、本当に自由に生きている人を見下す気持ち、何かを失うことを恐れて、いつも安全パイを選んでしまう気持ち、何だか上手くいかないのを社会や環境のせいにしてしまう気持ち。どれもこれも、心当たりがある。私を含め、そんな人は結構多いんじゃないだろうか。
 

小野さんは、少し、また少しと分厚い心の扉を開け、ついに心の奥底に眠っていた光り輝くものを見つける。どんなに大きなカラットのイミテーションダイヤも、たった一粒の砂金の美しさには敵わないとでも言おうか。小野さんが見つけたものは、学歴より、有名企業の内定より大事なものだった。そして、それは誰の心にもあると思う、と本書を手にとる全ての人に語りかけている。
 

人生は一度や二度の失敗どころか十度の失敗でだって崩れ去るものではない。誰のものでもない自分の人生と真正面から向き合ったとき、人生は、メンヘラでも、メンヘラじゃない人でも、どんな人でも生きるに値するものになり得る。私は本書から、そんなことを感じた。
 

もし、小野さんが最終面接直前にパニック障害にならず、内定をもらって有名企業に勤めていたら。おそらく本書は書かれなかったろうし、私が本書から、人生を全うすることの面白さを実感することもなかっただろう。だとしたら、メンヘラも悪くないのかも…と、メンヘラ嫌いの私が思えたかどうかは、ご想像におまかせします。
 


 

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