柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』ー生活保護を巡る現場のリアルー

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
 

日本国憲法第25条。これは社会権のひとつである生存権が明記されています。生存権は人間が人間らしく生きるのに必要な諸条件の確保を要求する権利のこと。生活に困窮する国民に対し、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長するための施策が生活保護。この生活保護を巡る現場のリアルが描かれたマンガが『健康で文化的な最低限度の生活』です。
 


 

主人公である新卒公務員義経えみるが福祉事務所に配属され、ケースワーカーとして勤務を始めるところからマンガはスタートします。配属早々、訪問した先で高齢受給者に認知症の疑いが見受けられたり、受給者の自殺を目の当たりにしたり、借金の返済に生活保護を充てている受給者と出会ったり。「生活保護」を巡るケースワーカーと受給者のリアルが描かれています。綿密な取材を行いながら執筆しているということもあり、マンガの1ページ1ページから伝わってくる温度は、非常に生々しく感じます。
 

昨今増え続ける生活保護費が国や自治体の財政を圧迫しているのはご存知の通り。働けるひとには働いてもらう。扶養できる家族がいるひとには扶養してもらう。生活保護費は国民の血税から出るお金です。

 

主人公は110世帯を受け持ちます。上記は配属された日に上司から受け取った言葉ですが、各世帯の状況を追いながら、就労を支援したり、療養を促したりと1世帯ごとに対応していきます。生活保護は福祉的に必要な施策ではありますが、受給者が少なくなればなるほど、社会保障費が減る・受給者が納税者側に変わる・より豊かな生活になるという側面もあります。面談の機会におけるケースワーカーのアドバイス、ケースワーカーの性格や背景からにじみ出るそれぞれの違いなど、細かな機微もうまく表現されているように感じます。
 

マンガの中にも描かれていますが、生活保護というとネガティブなイメージが付きまといます。それこそ、受給者の中にも「受け取っているという現実」に対する葛藤があり、自尊心の問題に行き着くこともあります。福祉事務所での面談が過ストレスを引き起こす場面などの描写も含め、受給者側の心理状態もヒリヒリと伝わってくる場面があります。
 

新聞社などのメディアや福祉関係者からも賞賛の嵐だというマンガですが、たしかに福祉従事者や福祉業界に興味がある人にとっては、必読の一冊だと思います。マンガであるぶん読みやすいのも事実。また、最後の砦とも言われる生活保護を受給する可能性は否定できないので、「知っておく」というだけでも、非常に有意義な一冊だと思います。
 

生活保護というと最近では不正受給のニュースが駆け巡ったことがありました。個人的には2巻で描かれる不正受給のとある一面が考えさせられます。詳しくはぜひ2巻を読んでみてください。
 

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