宮入賢一郎/実利用者研究機構『トコトンやさしいユニバーサルデザインの本』ーバリアフリーと何が違うの?ー

ユニバーサルデザインという言葉が生まれて、30年近くが過ぎました。かつては障害者の生活に関わる業界で浸透していた言葉でしたが、段々と一般的にも知られるようになりました。しかし、「ユニバーサルデザインってどういう意味ですか?」という質問に対して、切り返せる方はそこまで多くないかもしれません。また、バリアフリーとの違いが混同している方も少なくはないでしょう。
 


 

ユニバーサルデザインについてシンプルに短時間で知識を得たいひとにはオススメな一冊がこれです。見開き2ページで1テーマ。右側が文章、左側がイラストという簡潔な構成で、ユニバーサルデザインの概論やこれまでの実践例、利用者の属性別の理解と誤解の説明がまとめられています。
 

共著である実利用者研究機構は、以前の名前をユニバーサルデザイン研究機構といい、ユニバーサルデザインコーディネータという資格を発行しているNPO法人なので、参照資料の年代の古さが少し気になりますが、知識と情報の基礎は納得感のあるものばかりです。
 

ユニバーサルデザインは、
・製品やサービスを作るにあたってあらゆるひとが使いやすいかどうかを前提としてデザインを進めること
・障害者限定のような専門品として作らないこと
この本を読む限りでの個人的な定義はこの2つです。もちろん、著者からすれば違うと言われるかもしれませんし、読者ひとりひとりの意見も異なるものでしょう。
 

この定義において、前提条件であることがとても大事で、「利用者目線に合わせて製品やサービスを改善改良していくこと」は重要ですが、それはユニバーサルデザインではなく、バリアフリーにおける工夫ではないかと感じます。この誤差を埋め、精度を高めていくことがユニバーサルデザインを進める上での成長や前進です。バリアフリーはユニバーサルデザインになり得ますが、ユニバーサルデザインの概念内にはバリアフリーが存在することは本質的には不一致なのでしょう。
 

左利きの図
 

また、この本の注目すべきポイントは、利用者理解のページが障害者からスタートしないことです。加齢(高齢者)、妊婦、子ども、右利き・左利きという順番で紹介されていく構成は非常に好印象です(その後、障害者のジャンルに進展していきます)。
 

冒頭に障害者の世界で浸透していると書きましたが、「あらゆるひと」を対象としているにもかかわらず、例えば女性の地位向上や子どもの教育現場の改善という場面より、障害者の世界でユニバーサルデザインという言葉が頻出するのは、バリアフリーという似て非なる考え方の議論が広がっているからです。そのような背景がある中、「障害者からスタートしない」という構成は示唆に富んでいます。
 

余談ですが、障害者自身がユニバーサルデザインの話をするとき、「障害者のための」ユニバーサルデザインに議論が陥る傾向があります。当事者発信の意見となるため、必然的に議論の中心が「障害者の利便性」になることは容易に想像ができますが、それは本質と矛盾しています。「ユニバーサル」という言葉が持つ難しさのひとつでしょう。
 

この本では深い言及はありませんでしたが、性差やセクシャルマイノリティ、多国籍といったテーマにおいてもユニバーサルデザインの重要性は増してきています。facebookの性別欄の多様化、日本国内での看板表記に何カ国語を取り入れるか、このようなテーマは最近ではダイバーシティで取り上げられがちですが、ユニバーサルデザインでも考えるべきテーマです。
 

知らずにいるとどこかでケガしてしまう教養のひとつが、ユニバーサルデザインなのかもしれません。
 

>>ブックレビュー一覧に戻る