曽山哲人/金井壽宏『クリエイティブ人事-個人を伸ばす、チームを活かす-』ー人事のパフォーマンスが会社の業績を変えるー

先日、この本のブックレビューを書こうと決まった途端、サイバーエージェント藤田社長のブログでの発言が原因となって炎上していました。あの一件でサイバーエージェントの人事施策のあり方そのものに少しケチがついてしまった感もありますが、それでも本書で紹介されているサイバーエージェントの取組みは多くの組織にとって参考になるでしょう。
 

本書は今も学生から根強い人気を誇るサイバーエージェントの人事本部長曽山哲人氏と組織研究では数多くの著書がある神戸大学大学院教授金井壽宏氏の共著であり、実際に同社で導入している施策を具体的に数多く紹介しています。
 

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そういった意味で、人材育成や組織開発に携わる方々や現場で組織のマネジメントをしている方々には大変示唆に富んだ内容です。
 

「人事のパフォーマンスが会社の業績を変える」というのが、本書で曽山氏が最初に述べている人事に対する考え方です。サイバーエージェントの人事はこの考え方から始まり、この考え方で終わると言ってもいいのかもしれません。それくらい、その後に続く具体的な施策では、「人事は会社の業績に寄与するという」考え方が徹底されていると感じました。それを顕著に表しているのが次の一文です。
 

制度をつくるうえで、私たちはむやみに平等性を追求しようとはしていません。(中略)手を上げた社員は誰でもチャンスを得られるという意味での公平性はとても大事ですが、人事は平等だけでは成り立たないと考えています。

 

人事の仕事は社員に平等に接して「うちの人事は平等で優しい」という評判を得ることではないのだということを教えてくれます。
 

もう一つ、業績を上げるために考え方として本書では「コミュニケーション・エンジン」という言葉が繰り返し使われています。人事は経営陣と現場のコミュニケーションをつなぐエンジンになるということです。
 

私も仕事で企業の人事の方とお話しする機会は多いのですが、経営陣と現場との板挟みで苦しんでいる方も少なくありません。他社の人事が悩みどころである経営陣と現場との関係性において、曽山氏はサイバーエージェントの人事は敢えて板挟みになることで「コミュニケーション・エンジン」の役割を果たしているように感じました。
 

とあるドラマで「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」という有名なセリフがありましたが、実際のビジネスでは会議室(=経営陣)と現場の両方があって初めて成り立ちます。企業の業績を高めるためには双方の価値の発揮が不可欠なわけですが、曽山氏はその点を理解しているからこそ、敢えて板挟みになっているのかもしれません。具体的には本書で次のような例を挙げています。
 

たとえば、役員の誰かが「社員にもっと主体性を高めてほしい」と言ったとします。そのような抽象的な依頼を受けた人事が、「そうか、現場の人たちの主体性を高めなきゃ」と思って具体案づくりを急いでしまったら、その時点で失敗です。何をもって「主体性が高い」と言うのかがわからないまま、やみくもに現場とコミュニケーションをとったり、何かを仕掛けたりしても、まずうまくいきません。

 

「主体性を高めたい」「自立型人材を育てたい」「グローバル人材を採用したい」などの言葉が経営陣から聞いたことのある人事の方は少なくないのではないでしょうか。そのときに、「はい、わかりました」と聞いていませんか?それでは、人事が業績を高める部署にはなれないでしょう。業績を高めるためには、言葉の定義を知るとともに、その要素が業績向上につながるのかを考えることも必要ですし、それも人事の仕事ではないでしょうか。
 

他にも、具体的なサイバーエージェントの事例を上げながら、人事施策導入、推進のポイントが述べられおり、実務で人事を担当されている方や、研究対象として人事を見ている方、人事に興味がある方など多くの方に参考になる内容です。
 

しかし、忘れてはいけないのは、サイバーエージェントは面白い人事施策を手掛けながら急成長して上場したわけではありません。もともと急成長していて、その中でより組織を強固なものにして長期的に業績を向上させるには人事施策が必要だったということです。この事実を忘れてしまうと、結局は会社の業績につながらない人事施策を連発してしまいかねません。
 

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